↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一体契約のテイマーと十三番窓口〜眠そうな学園生は、裏で魔物案件を片付ける〜  作者: じぇいじぇい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
119/144

第55話 言いたいことが十二個

お読みいただきありがとうございます。


第55話です。

 倉庫街の路地を、二人と二匹で歩いた。

 先頭にセナ。半歩後ろにリオ。リオの肩にスズ。しんがりに、契約を解かれたはずの灰色の狼。

 セナは倉庫を出てから、ひとことも喋っていなかった。

 喋らないまま、夜明け前の道を四つ曲がった。

 五つ目の角で、立ち止まった。


「……言いたいことが、十二個あるわ」

「十二個」

「今、歩きながら数えたの」


 振り向いたセナの目は、まっすぐだった。


「一つ。約束したわよね。この力のことで何かあったら、必ず私にも言うこと。一人で抱えるのはなしって。あなた、頷いたわよね」

「……頷いた」

「狙われてたんでしょう。ずっと。工人展の変な目も、あなただったんでしょう。それ、何かあったらの、何かじゃないの」

「……そうだな」

「二つ。覆面のこと。三つ、窓口の夜の顔のこと。四つ、危ないことを仕事にしてたこと。五つ――五つ」


 セナの声が、そこで一度つかえた。


「……五つ。今夜、扉から堂々と入ってきたこと。囲まれたら、どうする気だったのよ」

「囲まれなかった」

「結果の話はしてないの」


 声の最後が揺れて、セナは下を向いた。

 一粒だけ、落ちた。

 一粒で、顔を上げた。


「……怒ってる途中で泣くのは、ずるいから。今のはなし。数に入れない」

「分かった」

「どうして言ってくれなかったの。私、厩舎で測ったあの日に、知ってる側になったはずよ」


 リオは少し考えた。ごまかせる間合いではなかった。


「……力のことと、仕事のことは、別の棚に入れてた。力を知ってる側は、セナが昼の側の最初の一人で。仕事を知ってる側は、全員が夜の側で。……セナを、そっちの棚に入れたくなかった」

「棚が多すぎるのよ、あなたは」


 セナは言った。言ってから、長い息を一つ吐いた。


「六つから十一は、歩きながら言うわ。細かいのばっかりだから」

「十二個目は?」

「最後に取ってあるの」


 セナは歩き出した。歩き出した背中の上で、空の端が白み始めていた。


     ◇


 六つから十一は、本当に細かかった。

 覆面の布の洗濯は誰がしているのか。変な声の出し方はどこで覚えたのか。屋根の上を走って、靴は何足だめにしたのか。バイト代は、危険の分が上乗せされているのか。

 リオは半分くらいしか答えられなかった。答えるたびに、後ろの狼が相槌のように鼻を鳴らした。


「……ところで、この子はいつまで付いてくるの」

「さあ」

「契約は」

「倉庫で、もう解いた」

「解いたのに付いてくるのね」

「……縁が、残るんだ」

「知ってるわ」


 セナは狼を振り返って目を細めた。


「契約は道具で、縁は貯金。ミラさんがそう言ってたわ。あなたは契約を一つも持たないくせに、縁の貯金だけは王都一の金持ちだって。……今夜ので、また増えたわね」


 灰狼は分かっているのかいないのか、尻尾を一度だけ振った。

 第十三厩舎は、朝の掃除の時間だった。

 ミラは二人と二匹を順に見て、狼の首の輪の擦れた痕を見て、何も聞かなかった。


「……預かるわ。傷と、薬の抜けるのが治まるまで」

「頼みます」

「治ったら、山ね」


 ミラが狼の鼻先に手の甲を出すと、狼は匂いを確かめて一歩だけ柵の中へ入った。入ってから、振り返ってリオを見た。


「飯を食って、寝ろ。……元気になったら、帰れ」


 布越しではない声で、リオは言った。

 狼は、今度は振り返らずに柵の奥へ歩いていった。


     ◇


 ラティス家の門が見えた時、吠え声が聞こえた。

 十一匹分と、一匹分。

 門の内側で、フワが柵に前脚をかけて跳ねていた。開けた途端にセナの胸へ飛び込んだ。続いて全員が順番に飛び込んできて、セナはしばらく毛玉の山の底にいた。

 父親が門柱の脇に立っていた。

 夜通し立っていた顔だった。何か言おうとしてやめ、娘の頭に一度だけ手を置いた。


「……朝までに、って約束だったからな。窓口の」

「守られたわ」

「ああ。見て分かる」


 父親はそれから、リオを見た。


「送ってくれたのか」

「友達が、途中まで一緒だっただけよ」


 セナが先に答えた。父親は深くは聞かず、ただ頭を下げた。


「世話になった。……ラティス運送の腕章、まだ取ってあるぞ。いつでも戻ってこい」

「はい」


 門の前で、セナが振り返った。


「今日は、ちゃんと休みなさいよ」

「俺はいつものように、学校で寝る」


 リオはそう言って、スズを肩からセナの腕へ渡した。渡して、歩き出した。

 いつものように。

 その一言が、門の前に残った。

 いつものように、ということは、いつもこうだったということだ。

 誰かのために夜を走って、何食わぬ顔で登校して、一限の机で眠る。入学からずっと隣の席で見てきたあの眠気の中身を、セナは今夜知ってしまった。

 席に着くまでが登校よ。

 入学からずっと言い続けてきた小言を、思い出した。


「……もう、言えないじゃない」


 呟きは、朝の光の中に溶けた。

 腕の中のスズが、欠伸を一つして丸くなった。

 十二個目は、まだ言っていない。

 言う場面は、自分で選ぶと決めていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


面白い、続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想をいただけると励みになります。


次回もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。