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第8話 ~入れ替わりの夜~ 帰宅

深夜1時を少し過ぎた頃、玄関の鍵が静かに回る音がした。

悠斗は自分の部屋のベッドに横になったまま、天井を見つめていた。

体はまだ熱を帯びていて、あかりの柔らかい感触や甘い吐息が、ふとした瞬間に蘇ってくる。

シャワーを浴びても、どこか肌に残るような気がして、落ち着かない。

ドアが開き、悠斗2号が部屋に入ってきた。

制服は少し乱れていて、髪も軽く湿っている。

けれど表情は穏やかで、どこか満足げだった。

2号は悠斗のベッドの横に立ち、静かに頭を下げた。

「ただいま、悠斗。おかげさまで、無事に終わりました。本当にありがとうございました」

声はいつも通り落ち着いているが、どこか柔らかかった。

悠斗は体を起こさず、ぼんやりと2号を見上げた。

「……ああ、お疲れ」

2号は悠斗の返事を待たずに、ベッドの端に腰を下ろした。

まるで今日の出来事を早く誰かに話したくて仕方ない、という様子だった。

「帰り際、あかりが『また今度ね』って言ってくれて……すごく嬉しかったです。別れるときにキスして、髪を撫でてあげたら、照れながら笑ってました。

『悠斗くん、今日のことは絶対に忘れない』って」

2号の目が少し輝いているように見えた。

「その後、ベッドで少しの間、抱き合ったまま話しました。あかりは『悠斗くんが緊張してたのが意外で、でもそれが可愛かった』って言ってましたよ。

俺が『初めてだったから頑張った』って答えたら、もっとぎゅって抱きついてきて……」

悠斗は無言で聞いていた。

2号は楽しそうに続ける。

「シャワーの後、また少しキスをして、明日の予定を話しました。文化祭の次のイベントのこととか、サッカー部の練習のこととか。あかりは俺の胸に顔を埋めて、『悠斗くんといると安心する』って。

何度も『好き』って言ってくれました。

俺も『あかりが大切だ』ってちゃんと伝えました」

2号の声は軽やかで、報告というより、ただの恋の思い出話のように聞こえた。

「本当に……あかりは素敵な子ですね。

肌も柔らかくて、反応が素直で、俺の愛撫に素直に感じてくれて……行為の後も、ずっと俺に寄り添って離れようとしなくて。幸せそうでした」

悠斗はボーっと2号の顔を見つめながら、ただ頷いていた。

言葉が出てこない。

2号が話す「あかりとの時間」は、すべて鮮やかで甘い。キスをした、抱き合った、言葉を交わした、笑い合った——それらは、悠斗が実際に体験したぎこちない部分を、2号が完璧に繕い、もっと素敵なものに変えてしまった後の話だった。

悠斗の記憶にあるのは、緊張で震える指、ずれた腰の動き、ぎこちないキス、そして罪悪感だけ。

それに対して2号は、余韻の中であかりを優しく包み込み、彼女に「最高の夜」を与えていた。

「悠斗、本当にありがとう。あなたがいなかったら、あかりを悲しませていたかもしれない。あなたがやってくれたおかげで、俺はあかりとちゃんと繋がれた気がします」

2号はそう言って、悠斗の肩に軽く手を置いた。

指先はまだ少し温かかった。

あかりの体温が移っているのかもしれない。

悠斗はようやく小さく口を開いた。

「……そうか。よかったな」声は乾いていた。

2号は満足げに頷き、立ち上がった。

「では、おやすみなさい、悠斗」

悠斗は再びベッドに倒れ込み、天井を眺めた。

2号の楽しそうな声が、まだ耳に残っている。

あかりの笑顔、あかりの「好き」という言葉、あかりが2号に寄り添う姿——それらが頭の中で勝手に再生される。

本物の悠斗は、結局のところ「道具」だった。

必要な部分だけ使われて、後は2号が綺麗にまとめ、甘い余韻まで独り占めした。

悠斗は目を閉じた。

体は疲れているのに、眠気は一向に来ない。

胸の奥に、ぼんやりとした虚しさと、名状しがたい苛立ちが残っていた。

家の中は静かだった。

二人の悠斗が、同じ屋根の下で、それぞれ別の「夜」を抱えて眠りにつこうとしていた。



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