第6話 ~入れ替わりの夜~ 本番
あかりがバスタオルを外し、ベッドに上がってきた。
柔らかいランプの光の下で、白い肌がほのかに輝いている。
濡れた髪から滴る水滴が、鎖骨を伝って落ちていく。
あかりは恥ずかしそうに両手で胸を少し隠しながら、悠斗の横に膝をついた。
「悠斗くん……本当に、いい?」
悠斗(本物)は喉がからからで、うまく声が出なかった。
ただ小さく頷くのが精一杯だった。
あかりがゆっくりと体を重ねてくる。
温かく、柔らかくて、甘いシャンプーの香りが鼻をくすぐる。
悠斗の心臓は今にも飛び出しそうだった。
経験などゼロ。頭の中は真っ白で。
ぎこちない手で、あかりの背中に触れた。
指先が震えているのが自分でもわかった。
「……ん」あかりが小さく息を漏らした。
悠斗の動きがあまりに不器用で、いつもより力加減が硬い。
2号のようにスムーズに、優しく撫で回すことができない。
指があかりの腰のラインをなぞるだけで、途中で止まってしまう。
あかりは少し不思議そうに悠斗の顔を覗き込んだが、すぐに目を細めて微笑んだ。
「悠斗くん……緊張してる?」
「え……あ、うん……少し」声が上ずった。
悠斗は慌ててあかりの唇に自分の唇を重ね、会話を遮った。
キスはぎこちなく、歯が軽く当たってしまった。
あかりは「んっ」と小さく声を上げたが、嫌がる様子はなく、むしろ悠斗の首に腕を回して受け入れてくれた。
(やばい……全然ダメだ……)悠斗の頭の中はパニックだった。
2号ならもっと自然に、もっと気持ちよくできただろう。
でも今は自分がここにいる。逃げられない。
あかりも緊張していた。
初めての経験で、体が少し強張っている。
悠斗のぎこちない愛撫に合わせて、自分もどう動いていいかわからない様子で
悠斗の胸に頰を寄せたり、太ももを軽く擦りつけたりするだけだった。
二人はお互いに探り合うように、体を重ねた。
悠斗の手があかりの胸に触れる。柔らかくて、温かい。
指を動かそうとするが、力が入りすぎて、あかりが「ちょっと……優しく……」と小さな声で言った。
「ご、ごめん……」悠斗は慌てて力を抜いたが、今度は逆に弱すぎて、愛撫になっているのかわからない。
あかりは悠斗の肩を軽く掴み、耳元で囁いた。
「悠斗くん、いつもより……なんか可愛いよ。緊張してるの、初めて見る」
彼女は悠斗がいつもと違うことに、確かに薄々気づいていた。
でも、それが「本物と偽物」の違いだとは夢にも思っていない。
ただ「今日は悠斗くんも緊張してるんだ」と優しく受け止めているようだった。
悠斗は罪悪感と興奮と恐怖が混じった感情で、頭がぼうっとした。
下半身が反応しているのはわかる。
でも、動きが硬い。何をどうすればいいのか、タイミングも何もわからない。
あかりも息を弾ませながら、悠斗の背中に爪を立てたり、キスを繰り返したりして、ぎこちないリズムに合わせようと頑張っていた。
二人の動きは、まだ完全に重なり合っていない。
まるで初めてダンスを踊るみたいに、互いの呼吸がずれて、ぎくしゃくしている。
「あ……悠斗くん……」あかりの声が少し甘く溶けた。
それでも悠斗は、自分の不器用さが恥ずかしくて、顔をあかりの肩に埋めたまま、必死で「2号らしく」振る舞おうとしていた。
でも、どうしても無理だった。本物の悠斗は、ただの高校生。
完璧な代理人ロボットのように、優しくてスムーズで、相手を思いやる余裕など持っていなかった。
ぎこちないキスと、震える指と、ずれた腰の動き。
それでも、あかりは悠斗を抱きしめながら、優しく髪を撫でてくれた。
「大丈夫……ゆっくりでいいよ。私も緊張してるから、一緒に……ね?」
その言葉が、悠斗の胸にじんわりと染み込んだ。
(あかり……ごめん)心の中で謝りながら、悠斗はもう一度、あかりの唇に自分の唇を重ねた。
まだぎこちないままの、二人の初めての夜は、ゆっくりと、しかし確実に深まっていった。




