第5話 ~入れ替わりの夜~ 当日
土曜日の夕方。あかりの両親が出かけるという日が、ついにやってきた。
悠斗2号は午後5時過ぎに「あかりの家に行く」と言い残し、家を出た。
本物の悠斗は、バックパックに最低限の着替えとスマホを詰め、2号より少し遅れて同じ場所に向かった。
あかりの家は、閑静な住宅街の一軒家だった。
2号が事前に送ってくれた位置情報に従い、悠斗は裏口から忍び込み、2階の客間に隠れた。
ドアを少しだけ開け、廊下の様子をうかがう。
心臓の音がうるさい。あかりの部屋からは、すでに楽しげな声が聞こえていた。
「悠斗くん、今日はゆっくりしていってね。両親、夜遅くまで帰ってこないから」
「うん。ありがとう、あかり」2号の声は完璧に優しく、自然だった。
悠斗は唇を噛んだ。あの声で話す自分が、なんだか他人事のように感じる。
二人はあかりの部屋に入り、ドアが閉まった。
悠斗は客間のベッドに腰を下ろし、息を潜めて待った。
スマホの画面で時間を確認する。
計画では「いいムードになったら2号が合図を送る」ことになっていた。
部屋の中では、時間がゆっくり流れていた。
あかりと2号はベッドに並んで座り、最初は照れながら他愛ない話をしていた。
学校のこと、文化祭の思い出、サッカー部の話。
やがてあかりが2号の手に自分の手を重ね、2号が自然に彼女の肩を抱き寄せた。
「悠斗くん……好き」
「あかり、俺も」キスが始まった。
最初は優しく、触れるだけのキス。
次第に深くなり、息が混じり合う。
2号の手があかりの背中をゆっくり撫で、あかりも2号の胸に手を当てて体を預けた。
愛撫は自然にエスカレートしていった。
2号はあかりの制服のボタンを一つずつ外し、露わになった白い肌に唇を寄せた。
あかりの小さな吐息が部屋に響く。
2号の指が彼女の太ももを優しくなぞり、あかりは恥ずかしそうに体をくねらせながらも、2号の首に腕を回した。
「ん……悠斗くん、優しい……」
2号の動きは完璧だった。
悠斗がプログラミングした「理想の優しさ」と、最近身につけた本物の感情が混ざり合い
あかりを心地よく溶かしていく。
約30分後。あかりが息を弾ませながら、2号の耳元で囁いた。
「……シャワー、浴びてくるね。待ってて」
「ああ、俺も後で浴びるよ」あかりが部屋を出て、バスルームに向かう足音が聞こえた。
その直後、2号が客間のドアをそっと開けた。
「悠斗、今です」
本物の悠斗は喉がからからだった。
足が少し震えている。
「本当に……やるのか?」
「はい。あかりがシャワーを浴びている間に、私と入れ替わります。シャワーを終えて部屋に戻ってきたら、そこから先は……悠斗が」
2号は着ていた服を素早く脱ぎ、悠斗に手渡した。悠斗も自分の服を脱ぎ、2号に渡す。二人は一瞬、同じ裸の姿で向き合った。
同じ顔、同じ体格。でも、股間の部分だけが決定的に違っていた。
2号は滑らかなプラスチックとシリコンの平らな表面。
本物の悠斗は、すでに緊張で少し反応している。
「急いでください。あかりが戻ってきます」
悠斗は深呼吸し、2号の服を着た。
髪も簡単に整える。
2号は客間で息をひそめる。
「頼みました。優しく……あかりを、傷つけないでください」
悠斗は頷くしかなかった。声が出ない。
あかりの部屋に戻り、ベッドに横になる。
シーツはまだ二人の体温が残っていて、甘い匂いがした。
心臓が爆発しそうだった。
バスルームからシャワーの音が止まった。
数分後、ドアが開く音。
あかりが部屋に戻ってきた。
頰が少し赤い。バスタオルを巻いた姿で、濡れた毛先が肩に張り付いている。「悠斗くん……待った?」
悠斗は喉を鳴らして、なんとか声を絞り出した。
2号の真似をして、できるだけ優しく。
「……ああ。来て」声は震えていた。
あかりが微笑み、ベッドに近づいてくる。
悠斗は布団の中で拳を握りしめた。(誰にでも初めてはある……か)
今まさに、その「初めて」が始まろうとしていた。
あかりがバスタオルを解きながら、悠斗の上に体を重ねてくる。
甘い、温かい、柔らかい感触。
本物の悠斗の、初めての夜が、静かに幕を開けた。




