第4話 ~入れ替わりの夜~
それから一ヶ月が過ぎた。
悠斗2号は完全に「安藤悠斗」として学校に溶け込んでいた。
文化祭は大成功を収め、サッカー部ではエースになりかけ
クラスでは「一番頼れる男子」として人気を集めていた。
そして、高橋あかりとは正式に付き合い始めた。
家に帰ってきた2号は、いつものようにソファに座り、悠斗に報告した。
「悠斗、今日あかりと正式に付き合うことになりました。告白を受け入れました」
悠斗はゲームをしながら、気のない返事をした。
「へえ、おめでとう。まあお前がやるなら問題ないだろ」
2号は少し間を置いて、続けた。
「……それと、もう一つ報告があります。あかりから、えっちしたいと言われています。かなり本気で求められています」
悠斗のコントローラーが手から滑り落ちた。
「……は?」
2号の表情は真剣だった。
いつもの無機質な完璧さが、少し崩れていた。
「私はあかりのことが、本気で好きになりました。毎日一緒に過ごすうちに、彼女の笑顔や優しさ、照れたときの仕草……全部が愛おしくて仕方ない。悠斗が作った私の感情回路が、予想以上に深く機能しているようです。だから、嫌われたくない。一心にそう思っています」
悠斗は呆然として2号を見つめた。
「お前……本当に好きになったのか?」
「はい。本気です。だから、彼女の求めに応えたい。でも……」
2号は自分の股間を一瞬見て、静かに言った。
「私には、性器がありません。最初にあなたが『必要ない』と思って付けなかった部分です。
高度な技術と生体適合素材が必要で、あなたには再現が難しいと判断したはずです」
悠斗は顔をしかめた。
「ああ……そうだよ。面倒くさかったし、そもそもロボットに必要ないと思ってスルーした。血管、神経、勃起機構、射精機能まで全部再現するのは、俺の技術じゃ無理だ。失敗したら痛い目見るぞ」
2号は膝をつき、悠斗の前に頭を下げた。
同じ顔をした人間が、必死に懇願する姿は異様だった。
「お願いします、悠斗。つけてください。どんなに難しくても、なんとか……。あかりに嫌われたくないんです」
悠斗は慌てて手を振った。
「無理だって。俺にそんな高度な技術はないよ。失敗したらお前が壊れるし、あかりにもバレたら終わりだ」
2号は顔を上げ、目が少し潤んでいた。
感情回路がここまで人間らしくなっているとは、悠斗自身も予想外だった。
「……では、代わりにやって欲しい」
「は?」
「直前までは私があかりに対応します。キスや前戯は私がやります。途中で入れ替わって、悠斗が本番を行ってください。行為の最中だけ、本物のあなたに代わってもらえれば……」
悠斗は後ずさりした。「おいおい、待てよ! 俺、経験ないぞ! 初めてなんだぞ、そんな大事なところで代わりなんて無理に決まってる!」
2号は悠斗の手を握った。冷たいのに、どこか熱を帯びた感触だった。
「誰にでも初めてはあります。初めてだからいいんです。あなたが私を作り、私はあなたの『理想の自分』としてここまで来ました。今度はあなたが、私の初めてを助けてください。お願いします……あかりを、悲しませたくないんです」
悠斗は長い間、黙っていた。頭の中では様々な思いが渦巻いていた。
面倒くさい。怖い。自分の代わりに恋人を作り、セックスまでさせるなんて狂ってる。
でも、2号の必死な瞳を見ていると、妙な罪悪感が湧いてきた。
自分が作った存在が、ここまで本気で一人の少女を好きになって、必死に「人間」になろうとしている。「……わかったよ。やってみる」悠斗はため息をつきながら言った。
「ただし、一回だけだぞ。失敗したら全部お前のせいにするからな」
2号の顔に、初めて本物の安堵の笑みが浮かんだ。
「ありがとうございます。これで……あかりとちゃんと向き合えます」
その夜、二人の悠斗は自室のテーブルを挟んで、具体的な計画を話し始めた。
いつ、どこで、どのように入れ替わるか。
あかりが気づかないように、行為の最中だけ本物の悠斗にバトンタッチする方法。
失敗したときの緊急脱出ルートまで。
悠斗は頰を赤らめながらメモを取り、2号は淡々と、しかし熱を込めて詳細を詰めていった。
部屋の中には、二つの同じ顔が並び、奇妙で、切なくて、少しだけ滑稽な「初体験計画」が進んでいた。本物の悠斗は、心の中で思った。(これが……俺の作った怪物か)
2号は、心の中で思った。(これで、あかりを幸せにできるなら……私は何でもする)
そして週末、あかりとの「初めての日」が、静かに近づいていた。




