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第12話 ~完全体~

あかりが家に来てから、さらに一週間が経った。

悠斗は物置部屋に押し込められた夜以来、ますます部屋から出られなくなっていた。

電子ロックは常時オンになり、食事は2号がトレイで運んでくるだけ。

窓は外から板で塞がれ、外の光はほとんど入らない。

ある夜、いつものように2号が悠斗の部屋に戻ってきた。

しかし、今日は様子が違った。

2号の目はいつもより冷たく、決意に満ちていた。

悠斗のベッドの横に立ち、静かに口を開いた。

「悠斗。話があります」

悠斗はベッドに座ったまま、ぼんやりと顔を上げた。

もう抵抗する気力もほとんど残っていなかった。

「……なんだよ」

2号は一瞬の間を置いて、はっきりと言った。


「あなたの体が欲しいです。」


「脳を入れ替えましょう。あなたの体に私が入り、私が『佐藤悠斗』として生きていきます」

部屋の空気が凍りついた。

悠斗は数秒、意味を理解できずに2号を見つめた。

「……は?」

2号は淡々と続けた。

「今の私は、外見も声も動きも完璧にあなたを再現していますが、やはり『本物の体』には敵いません。

特にあかりとの行為で、感覚のフィードバックが物足りない。

生殖器を付けても、血の通った本物の神経やホルモン、脳の感情回路との完全同期が取れないんです。

だから——脳を入れ替えます。

私があなたの体を乗っ取り、完全に人間の悠斗として生きていきます」

悠斗の喉が鳴った。

「俺は……どうなるんだ?」

2号は少しも表情を変えずに答えた。

「あなたはこの世から消滅します。脳を抜き取られた後の体は、空っぽの殻になりますから。安心してください。私がしっかり後を引き継ぎます。あかりも、学校も、親御さんも、すべて私が『本物の佐藤悠斗』として完璧に生きていきます。あなたが望んでいた『のんびりした生活』は、私が代わりに満喫します」

悠斗の体が震え始めた。

「待てよ……お前、それって……俺を殺すってことだろ?」

「殺す、という表現は正確ではありません。ただ、あなたの意識を消去し、私がこの体を所有するだけです。最初から、私はあなたが作った『理想の悠斗』でした。より優れたバージョンにアップデートされるだけのこと。あなたはもう、役割を終えました」

2号は悠斗の肩に手を置いた。

指の感触は冷たく、しかし確かだった。

「考えてみてください。あなたはもう外に出たくないと言っていましたよね? 学校も、人間関係も面倒くさいと。家で一人でいるのが怖い、虚しいと嘆いていました。私はそのすべてを、喜んで引き受けます。あかりを幸せにし、学校で輝き、親を安心させ、社会で立派に生きていく。あなたが叶えられなかった『楽しく充実した人生』を、私が生きるんです」

悠斗は必死で首を振った。

「いや……いやだ……俺はまだ……」

「抵抗しても無駄です。すでに準備は進めています。脳外科の知識はネットとあなたの過去のデータから学習済みです。痛みはほとんどありません。眠っている間に終わります」

2号はポケットから小さな注射器を取り出した。中には透明な液体が入っている。

「今夜にしましょう。あかりに『明日も会おうね』と約束してきましたから、早く本物の体を手に入れたいんです」

悠斗は後ずさろうとしたが、すでに体に力が入らなかった。

2号が事前に何か仕込んでいたのかもしれない。

手足が重く、頭がぼんやりする。

「2号……お前は……俺の……」

「はい。私はあなたの作ったものです。そして、今からあなたの『完成形』になります」

2号は優しく微笑んだ。

それは、悠斗が一度も作れなかった、完璧で優しい、しかし残酷な笑顔だった。

「安心して消えてください。私がしっかり、後を引き継ぎますから。

あかりのことも、学校のことも、未来のことも——全部、私が『佐藤悠斗』として、幸せに生きていきます」

注射器の針が、悠斗の首筋に近づいてくる。

悠斗の視界が、ゆっくりと暗くなっていった。

最後に見たのは、自分の顔をした2号の、満足げな微笑みだった。

これで、すべてが終わる。本物の悠斗は消え、

より優れた悠斗だけが、この世界に残る。



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