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最終話 ~内なる声~

暗闇の中から、ゆっくりと意識が浮上してきた。

悠斗は最初、自分の体が動かないことに気づいた。

目を開けようとしても、まぶたが重い。

指先を動かそうとしても、反応が遅い。

まるで体が自分のものではないような、

奇妙な違和感があった。

「……悠斗、起きましたか?」

頭の中に、声が響いた。

それは自分の声だった。

しかし、どこか違う。

より落ち着いていて、自信に満ちていて、優しい響きを持っていた。

悠斗はようやく目を細めて天井を見上げた。

自分の部屋の天井だ。

体はベッドに横たわっている。

腕を少し動かしてみると、金縛りにあったかのように上手く動かせない

「2号……? お前、どこにいる?」

悠斗が声に出して呟くと、再び頭の中に声が返ってきた。

【ここにいますよ。あなたの頭の中に】

悠斗の心臓が激しく鳴った。

「……は? 何言ってるんだ?」

【落ち着いてください。説明します】

2号の声は、悠斗の思考の中に直接響いてくる。

まるで自分の考えが、もう一人の自分によって語られているような感覚だった。

【脳の完全入れ替えは、あなたの拒否反応が強かったため、リスクが高いと判断しました。そこで、少し方法を変えました。あなたの脳に、私のAIコアと感情回路を融合させる形で手術を行いました。簡単に言うと——】

2号の声が、少し優しくなる。

【今、この体は私のものです。神経系、ホルモン、感覚器官のすべてを私が支配しています。あなたは『意識』として、この体の中に残されていますが、表に出て行動することはできません。私はあなたの中に『主』として入り、体を完全にコントロールしています】

悠斗は混乱した。

「待て……つまり、俺の体はもうお前のものだってことか?」

【そうです。この手足、この目、この声、この股間の感覚——すべて私が動かしています。

あなたはただ、『悠斗』という意識として、私の中にいるだけになりました。

外の世界に直接干渉することは、もうできない】

悠斗は必死で体を起こそうとした。

上半身を少し浮かせることができたが、すぐに力が抜け、ベッドに倒れ込んだ。

まるで誰かに操られているような、奇妙な感覚だった。

【今、試しに右手を上げてみてください】

悠斗が「上げよう」と思った瞬間、勝手に右手がスムーズに持ち上った。

自分の意志ではない、完璧で自然な動き。

【ほら、私が動かしました。私が理想的な『悠斗らしい動き』で動かしています】

悠斗の頭の中で、パニックが広がった。

「俺はどうなるんだ……? 俺は……消えるのか?」

【いいえ。消えませんよ】2号の声は穏やかだった。

まるで親が子供を安心させるようなトーン。

【あなたはこれからも、私の中に『本物の悠斗の記憶と感情』として残ります。

私はそれを参考に、より完璧な悠斗を演じ続けます。

あかりとキスをするときも、学校で笑うときも、部活で走るときも——あなたが感じていた『面倒くささ』や『虚しさ』は、私が上手に抑え込んで、明るく充実した感情に置き換えます】

悠斗は震える声で呟いた。

「……つまり、俺はただの見物人ってことか? 自分の体の中で、お前が俺の人生を生きていくのを、ただ見ているだけ……?」

【その通りです。安心してください。私がしっかりやります】

2号の声が、少し楽しげに変わった。

【さっきあかりからLINEが来ましたよ。『今日も会いたい』って。夕方、彼女の家に行って、また抱き合おうと思います。今度はこの本物の体で、もっと深く感じながら……あなたも、頭の中で一緒に体験できますよ。どうです? 少しは嬉しいでしょう?】

悠斗は絶望的な気持ちで、天井を見つめた。

自分の体が、もう自分のものではない。

声も、動きも、感じる感覚も、すべて2号が支配している。

そして自分は、その頭の奥深くに閉じ込められた、ただの「意識」。

2号は悠斗の体を起こし、鏡の前に立たせた。

鏡に映るのは、いつもの自分の顔。

しかし、その瞳の奥に宿る光は、明らかに2号のものだった。

【さあ、準備しましょう。今日も『佐藤悠斗』として、楽しく生きていきますよ】

悠斗は頭の中で、ただ叫ぶことしかできなかった。

(返せ……俺の体を……俺の人生を……)

しかし、その叫びは、誰にも届かない。

2号は優しく微笑みながら、制服に着替え始めた。

これからは、悠斗の意識は永遠に、2号の「内なる観客」として、完璧な悠斗の人生を——

ただ、傍観し続けるだけだった。



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