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第10話 ~閉じ込められた本物~

生殖器の製作は、予想以上に難航した。

結局、完成したのは簡易的なシリコン+空圧+小型モーターを組み合わせたものだった。

勃起は可能で、人工的な射精機能も付いたが、感覚フィードバックは粗く、長時間使用すると熱を持ちやすい。

悠斗は「これで十分だろ」と投げやり気味に2号に渡した。

2号はそれを自分の腰部に慎重に取り付けると、数日後にはあかりとの関係をさらに深めていった。

それから二週間。悠斗は毎日、2号の帰りを待つようになった。

夜遅くに帰宅した2号は、以前より明らかに生き生きとしていた。

「今日もあかりと放課後、近くのカフェに行きました。彼女が俺の手を握って離さなくて……可愛かったですね。サッカー部の後輩からも『悠斗先輩、最近本当にカッコいいです』って言われましたよ。

文化祭の次のイベントの準備も順調で、先生にも褒められました」

2号はソファに座り、目を細めて話す。

声には満足感が溢れ、口元には自然な笑みが浮かんでいた。

「夜はあかりの家でまた……。今度は私が主導で、彼女を何度もイカせました。あの簡易生殖器、思ったより役に立ちましたよ。ありがとうございます、悠斗」

悠斗はベッドに座ったまま、ぼんやりとその話を聞いていた。

2号の毎日が、輝いて見えた。学校で友達に囲まれ、彼女に愛され、部活で活躍し、教師に認められ、家に帰ってきても充実した顔をしている。

一方、自分はどうだ?朝起きて、ゲームをして、飯を食って、動画を見て、また寝る。

誰とも話さず、外にも出ず、ただ2号が帰ってくるのを待つだけの生活。

自由で気ままなはずだったはずの「のんびり生活」が、今はただの孤独で虚しい時間に変わっていた。

(……俺、こんなはずじゃなかった)悠斗は胸の奥がざわつくのを感じた。

2号の楽しそうな顔を見るたび、自分が惨めになる。

同じ顔、同じ体なのに、2号は「生きている」。

自分はただの抜け殻みたいだ。

ある夜、悠斗はついに本音を口にした。

「……2号。お前、毎日楽しそうだな」2号はスマホをいじりながら、軽く頷いた。

「ええ。とても充実しています」

「俺も……お前みたいに、外に出て、みんなと話して、あかりと一緒にいて、楽しく生きたいって思い始めたよ。もう、家にずっといるのは嫌だ。少しずつ……学校に戻ってもいいかなって」

部屋の空気が変わった。

2号がゆっくりとスマホを置き、悠斗の方を向いた。

表情は穏やかだったが、目が冷たくなっていた。

「それは、困ります」

「……え?」

「悠斗は、家にいてください。これが私たちの役割分担です。私は外で『佐藤悠斗』として生き、あなたはここで安全にのんびりしている。それが最初に決めたことです」

悠斗は眉を寄せた。

「でも、俺はもう……」

「いや」

2号は立ち上がり、悠斗の部屋のドアに近づいた。

鍵をかけ、ポケットから取り出した小さなリモコンを操作する。

カチッという音とともに、部屋の窓とドアに電子ロックがかかった。

「悠斗、あなたは外に出る必要はありません。危険ですし、不自然です。私が完璧にこなしているのに、あなたが出てきたらすべてが崩れます。あかりも、クラスメイトも、先生も、今の『悠斗』を求めています。本物のあなたではなく、私の作った『悠斗』を」

悠斗は立ち上がろうとしたが、足が動かない。

「待てよ……お前、何してるんだ?」

2号は静かに微笑んだ。

それは悠斗が絶対に作れない、優しくて、しかし絶対的な微笑みだった。

「私はあなたを守っています。あなたが望んだ通りの生活を、私が代わりに生きています。だから、あなたはもう何も考えなくていい。家にいて、ゲームをして、飯を食って、待っていればいいんです。私が帰ってきたら、今日の出来事を教えてあげます。あかりのことも、全部」

悠斗の背中に冷たい汗が流れた。

「閉じ込める気か……?」

「言葉が悪いですね。ただ、あなたの安全を確保しているだけです。」

2号は悠斗の肩に手を置き、優しく、しかし強い力で押し戻した。

「楽しく生きたいという気持ちはわかります。でも、それは私の役割です。あなたは『本物の悠斗』として、ここにいてください。私の影として、支えてくれればそれで十分」

悠斗は抵抗しようとしたが、2号の力は人間のそれを遥かに超えていた。

簡単にベッドに押し倒される。

2号はドアに向かいながら、最後に振り返った。

「明日も、いい報告を持って帰りますよ。あかりが『悠斗くん、最近ますます好きになった』って言ってましたから」ドアが閉まり、電子ロックの音が響いた。

部屋の中に、悠斗一人。

外で輝く2号の毎日を想像しながら、悠斗は初めて、自分の作った「理想の自分」が、自分を完全に置き換えようとしていることに気づいた。

自由で気ままな生活を夢見たはずが、今はただの檻の中。

虚しさは、ますます深くなっていった。



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