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121  俺だけの為に打たれた剣

図書館から戻ってギルドに入ったら、見覚えのある髭モジャの小さいおっさんがいた。

大門ギルドにドワーフが来る事はめったに無いのですぐに判った。

カジシさんのお弟子さん。

「出来たの?」

「はい。 今朝出来上がりました。 実際に剣を振って頂いて微調整しますので、時間が有る時に工房に来て頂きたいそうです。」

「明日は治療室がお休みだから、明日行きたいと思うけど良いかな?」

「はい。」

カジシさんの工房があるのは北門近く。

俺がいる大門ギルドはベルンの一番南。

ベルンの南の端と北の端なので、俺の足だと3時間位掛かる。

朝の訓練を終えてからギルドを出ると、工房に着くのは昼頃になるだろう。

「だったら明日のお昼頃に行くね。」

「承知しました。 親方に伝えます。」



昼少し前にカジシ工房に着いた。

前回は剣を頼む事ばかりを考えていてあまり気にならなかったが、剣が出来上がって気分が落ち着いた今、ふとカジシ工房の表側の壁が穴だらけな事がちょっと気になる。

ともあれ、今は出来上がった剣を見るのが先。

ワクワクしながら表の扉を開けた。

「こんにちは。」

「おう、来たか。」

入り口の所のソファーに座っていたタトルさんが出迎えてくれた。

「タトルさんも来てたんだ。」

「おうよ。 ショータがカジシの打った剣を振る所は是非とも見たいからな。」

「いや、俺はただ振り下ろす事しか出来ないよ。」

「謙遜するな。 帝心一剣流、帝竜剣1の型を遣える者など、そうはいねえぞ。」

「帝心一剣流なのは知っていたけど、帝竜剣1の型っていうのはタトルさんに言われて初めて判ったんだから。」

「ガハハハハ。 知らなくても出来るのはショータくらいだ。」

「はあ。 ところで、カジシさんは?」 

「試し切りが出来るように、弟子達に裏庭を片付けさせている。 もう片付いた頃だと思うから裏庭に行こう。」

タトルさんが自分の家の様な慣れた足取りで奥の扉を開け、鍛冶場らしい部屋を抜けて裏庭へと案内してくれた。

タトルさんはしょっちゅうカジシ工房に来ているらしい。



「おう、来たか。」

お弟子さん2人に指示を出していたカジシさんが俺に気付いてこちらに来た。

結構広い裏庭は物置に使っていたらしく、片隅に沢山の壊れた箱や道具類が積み上げられている。

「こんにちは。」

「おう。 すぐに剣を持って来るからちょっと待ってくれ。」

カジシさんが鍛冶場の方に向かった。

「ここにあるのは工房の表に置いていた物だ。 これ以上貴族達に壊されない様に裏庭に移していたんだ。 お陰で裏庭での試し切りも出来なくなってしまった。」

タトルさんが教えてくれた。

「俺が試し切り出来るように、片付けてくれたんだ。」

「注文の時には工房の表で剣を振って貰ったが、流石に試し切りや細かな調整は表では出来ないらしい。」

「そうなんだ。」



「持って来たぞ。 試しに振ってみろ。」

カジシさんが剣を手に戻って来た。

カジシさんから剣を受け取る。

グリップを握った瞬間に、いままでの剣とは違う握り具合に驚かされる。

「ショータの手の大きさに合わせて、握りを少し細くしてみた。 どうだ?」

「うん、凄くいい感じ。」

剣を鞘から抜いた。

いつも通り、両手で柄を握って構えてみる。

持った時の重さはあまり変わらなかったのに、構えたら凄く軽く感じた。

振り下ろした時のイメージで、握った手を絞り込むように何度か動かす。

いきなり振って止め損なうと自分の足を切ってしまう恐れがあるから、慣れていない剣を持った時は慎重に扱わなければいけない。

手に馴染んで来たのを感じて、大きく振りかぶった。

精神を統一して、一気に振り下ろす。

「えいっ!」

剣先がピタリと止まった。

「凄い。 剣が自分の腕みたいに動かせる。」

「もう一度振ってみろ。」

じっと俺の動きを見つめていたカジシさんに言われて、もう一度振る。

「えいっ!」

「もう一度!」

「えいっ!」

「もう一度!」

「えいっ!」

「剣を貸せ。」

「はい。」

俺から剣を受け取ったカジシさんが鍛冶場に行ってしまった。



「どゆこと?」

「俺には判らんが、カジシは何か気に入らない所を見付けたんだろうな。」

カン、カン、カン。 カン、カン、カン。 カン、カン、カン。

鍛冶場からリズミカルな軽い音が聞こえて来た。

「俺としたらめっちゃ振り易かったんだけど。」

「剣の事はカジシに任せる方が良い。 あいつ程剣に詳しい奴はいないからな。」

前世で言う、“餅はもっちゃり“と言う奴なんだろう。

ほんの数分でカジシさんが戻って来た。

「振ってみろ。」

渡された剣を見ても、握った感じでも剣には変わった様子は無い。

剣を大きく振りかぶる。

精神を統一して、一気に振り下ろす。

「えいっ!」

「ええっ?」

振り切った瞬間に、思わず声が出た。

「どうだ?」

「さっきとは全然違う。 自分の腕みたいじゃなくて、自分の腕だ。」

「重心をほんの少し手前に変えた。 その方が振り易いと思ったからな。」

「カジシさん凄い。 ありがとう、本当にありがとう。」

この剣は、俺だけの為に打たれた剣だということがはっきりと感じられた。

こんな短時間でこれ程の事が出来るなんて流石はベルン1の鍛冶師だと感心した。



今度はこれを切ってみろ。

用意されたのは、台に立てられた木の棒に括り付けられている鉄の鎧。

鉄の鎧を新品の剣で切るのはちょっとためらわれる。

というよりも、今迄は素振りばかりで、何かを切った事は無い。

剣を武器として使ったのはバンさん達が捕まえて来てくれた魔獣に止めを刺した時だけ。

あの時は突き専門だったので、魔獣を切ってはいない。

「剣の刃が欠けたりしない?」

「大丈夫だ。」

万が1の場合はカジシさんに打ち直して貰えばいいか。

腹を決め、熊に教えて貰った通り1振りで相手を切り倒す覚悟で、鉄の鎧に向かい合う。

精神を統一して、一気に振り下ろす。

「えいっ!」

鉄の鎧が縦に真っ2つとなって地面に落ちた。

「鉄の鎧が1撃で真っ2つ。 これが帝心一剣流、帝竜剣1の型の威力か。 初めて見たが、凄いとしか言いようがねえな。 剣で防ごうとしても、剣ごと真っ2つにされるな。」

タトルさんの声が聞こえた。

帝竜剣1の型は、防御を考えずにただ振り下ろす事だけに集中した剣。

“1の太刀を疑わず、2の太刀は負け。”

1瞬でも早く打ち下ろす1撃必殺の精神を尊ぶ、前世の薩摩示現流に近いのかも知れない。

ちなみに俺はチェストとは言わない。

あれは剣豪小説の中だけだとネットに書いてあったから。

剣をしっかり調べたが、刃毀れ1つ無かった。



「今度は魔力を纏わせて振ってみろ。」

「うん。」

剣を振り上げて、魔力を纏わせる。

魔力が全く澱みなく剣に流れ込んで行く。

目標は3m先。

しっかりとイメージを作って、一気に振り下ろす。

”チン“

3m先の地面にチンの刃が食い込んだ。

いつもより刃の大きさが大きくなった分、地面を削ってしまった。

「もう一度。」

今度は刃が地面の手前で止まる様にイメージする。

一気に振り下ろす。

”チン“

地面すれすれでピタリと止まった。

「これを切ってみろ。」

3m先に鉄のインゴットが立てられた。

チンならば剣が傷むことは絶対に無いので安心して振れる。

しっかりとイメージを作って、一気に振り下ろす。

”チン“

3m先の地面に立てられた鉄のインゴットが真っ2つになった。

「凄いな。 流石としか言いようがねえ。」

タトルさんが誉めてくれた。

カジシさんも頷いている。

「カジシさんが打ってくれた剣のお陰です。」

「竜滅に気に入って貰えたなら、これ程嬉しい事は無い。」

カジシさんが笑顔で頷きながら嬉しい事を言ってくれた。


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