きみはいつも急ぐ
大学の図書館で司書をしていた遥に出会ったのは、高校三年生の春だった。進学予定の図書室に出入りしているうちに、顔馴染みになり、いつしか親しく言葉を交わすようになった。
「なんていうか、優しい人なんだ」
「ふうん、聖司以上に優しい人がいるのか」
理人は不思議そうな目の色をした。
どこを好きになったのか、どんな人なのか、理人が聞くままに聖司は答えていく。
「わかった。聖司は優しい人が好きなんだな」
「人を単純みたいに言うなよ」
「そんなつもりはない、基準なんて人それぞれだ」
涼しい顔をした理人を、聖司は睨め付ける。この綺麗な顔をした友人は、最早、親友と呼べるほど聖司と同じ時間を過ごしている。
「で? 付き合うのか?」
視線だけ寄越して、理人が聞いた。
「うん、了承はもらってる」
「へえ、それは良かったな。なんて言ったんだ? 好きだって?」
「いや…ベタだけどさ、結婚を前提にお付き合いしてくださいって言った」
「は、おまえまだ高校生だろ」
「彼女、26なんだ。結婚とかそういうの考えてる人と付き合いたいって聞いてたから」
大学卒業まで待ってたら、相手は三十歳になってしまう。遥がそこまで待ってくれるとは、聖司にはとても思えなかった。
「学生結婚するってこと?」
「うん、おれはそのつもり。できるだけ早く一緒になりたい」
「一緒に住むだけじゃあ駄目なのか?」
「それってただの同棲じゃん、それは相手が望んでない」
「望んでないって…年下の男なんだからそれは仕方ないだろ」
「いや、そうじゃなくて」
久しぶりに人を好きになった。
愛想を尽かして離れていかれるのは嫌だった。
もう辛い思いはしたく無かった。
聖司の肩に力が入ったのが分かったのか、理人はそれ以上何も言わなかった
しかしその沈黙が、責められてるように思えて、聖司は視線を落とした。
何も今すぐというつもりはなかったが、大学卒業まで考えると丸々四年と少しある。そこまで引き伸ばすのなら、遥はあっさりと自分の元を去るだろう。
「変かな」
つい伺うように聞いてしまい、なんでおれが理人に許可を取らなくちゃいけないんだ、とも思った。
理人はゆっくりと息を吐く。
「在学中の結婚が上手くいくとは思えないけど」
「でもさあ」
「でもとか、違うんだとかいう言い出しは、たいてい自分が非を感じてる時だよ、聖司」
「なんでそんな冷たく言うんだよ」
「おまえが心配だからだ」
「でもさあ」
「繰り返すな」
聖司が顔を上げた時、理人はもう聖司を見ていなかった。しばらくの間、沈黙が降りた。
「今日泊まりに行っていい?」
小さい声で聖司が聞いた。
理人は口角だけを上げた。




