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霞の記憶  作者: 七瀬愁
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特別なのはきみだけだから

聖司が思う理人は、いつも完璧だった。


完璧な人間なんていないというなら、完璧に近い人間だった。成績はさることながら、容姿も美しく、身体能力も高い。その上、人の求心力もあった。


あえて欠点と言うなら、愛想がない。聖司以外の人間と、プライベートなコミュニケーションは取りたがらないところがあるからだ。


休み時間だった。次の授業は選択科目で教室が変わるため、ばらばらと生徒達は立ち上がり移動を始める。

その最中、「東條くん」と一人の女子生徒が理人を呼んだ。


聖司は選択授業は理人と別だったので、他の友人達と教室を出るところだった。


振り向くと女子生徒が「ごめん、東條くん。次の授業の用意を私と東條くんに任せたいみたいなの。一緒に行ってくれないかな?」「ああ、そういえば先週も先生がそんなこと言ってたね」「そうなの。まだ休み時間だけどやっておきたいなって思って」「そうだね、わかった。行こうか」


二人は連れ立って出て行く。見るともなしに聖司はその場に立ち止まって、二人の背中を見送った。


あの子、嬉しそうだった。そう聖司は思った。用事があるから、理人に声をかけたのは事実だろう。だがそれとは別に、彼女自身がその用事を嬉しがっているように見えた。


「おーい。聖司、何してんだよ。早く来いよ」

「おー…」

「何そんな考えこんでんの」

「いやべつに。なんもない、行こ」


授業が終わり、聖司は飲み物を買いに、一人食堂へ続く廊下を歩いていた。鉢合わせる形で、向こうから理人が歩いてくる。一人ではなかった。


先ほどの女子生徒と一緒だった。理人は聖司を真っ直ぐに見ていたが、女子生徒は嬉しそうに理人に話しかけ続けて、聖司には気付かないようだった。


聖司は声を掛けようか一瞬迷ったが、

「聖司どこ行くの?」

先に理人が声を上げた。


「あ、ああ、食堂。喉乾いちゃったから」

「そうなんだ、俺も行く」


隣にいた女子生徒に「じゃあここで」と涼しい顔で理人は別れを告げて、聖司の側へとやって来た。


「良かったのかよ」

「よかったって何が?」

「あの子と話してたじゃん」

「用件は終わってたし大丈夫だよ」


そう言って理人は歩き出す。聖司より少し背が高い。


「なあ、また家行っていい?」


背筋の伸びた背中に、聖司が声を掛けた。まだ近くにいた女子生徒が、振り返る。

言ってから聖司は、何も今言わなくてもよかったと急に恥ずかしさを覚えた。


「いいよ」


理人は足を止めて振り返る。視線は聖司にだけ向いていた。


「いつでも来ていいよ」


綺麗な笑顔だった。


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