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霞の記憶  作者: 七瀬愁
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きみのそばに

がちゃり、と重い音がして鍵が開いた。


しん、とした空気が降りた。白の基調が続く、物の少ない家だった。


「お邪魔しまーす」

「誰もいないよ」


静かな声で理人が言った。


「こっち」


理人に促されるままに、聖司は廊下の奥へと進む。セキュリティのしっかりとした、マンションの一室だった。エントランスには人はいなかったがカウンターがあったし、エレベーターに乗るのにキーが二回必要だった。


突き当たりに部屋があって、「ここが俺の部屋だから」と理人が開けた。


白くて広い、清潔な部屋だった。机とベット以外、クローゼットがあるだけ。雑然さは全くなかった。


「理人の部屋って感じがする…」

「とりあえず、聖司、シャワー浴びて」


周りを見渡していた聖司は「シャワー?」と首を傾げた。


「昨日家帰ってないんだろ? だったらシャワー浴びてからベット使ってくれていい。少し寝な」

「理人は?」

「俺は本でも読んでる」


言われるままに浴室を借りて、熱い湯を浴びた。それだけで、身体に血液が行き届く気がした。

さっぱりとして、理人の服を借りて部屋に戻る。家人が帰ってきたら何て言ったらいいのかと聖司は悩んだが、理人は「帰ってこないよ」とだけ言った。


「気持ちよかった」


部屋に帰るなり聖司はそう言って、本を読む理人に近付いた。


「それは良かった。ゆっくり寝てくれ」


言われた通りに、聖司はベッドに寝転ぶ。ふかふかだー、と聖司がはしゃいだ。


「今日さ、クラスの奴らと一緒にいる時にさ。理人の話になったんだ」

「ふうん?」

「理人は綺麗な顔してるから、近くにいて緊張しないのかって聞かれたからさ」

「うん」

「緊張はしないけど、見とれることはあるって答えた」

「へえ」


面白いこと言うんだね、と言って読んでいた厚い本を閉じた。そうして理人は徐に立ち上がり、ベッドに横たわる聖司の上に覆い被さるようにして、両手をついた。


「こうしたら、見とれてくれるの?」


さらりとした黒髪が、聖司の頬にかかる距離。理人は笑っていなかった。


寝不足の頭で聖司がやっと考えついた言葉は、「うん、綺麗だ」だった。

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