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霞の記憶  作者: 七瀬愁
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それはごく自然なことだった

三年に上がる春休み、日がな一日、聖司は友人たちと遊びに興じていた。


誰それの家に入り浸る。追い出されては次の家へ行き、追い出されてはまた次の家へ。夜はカラオケ、ファミレスと一人の時間はほとんどない。


「あれ、聖司帰んの?」


携帯を見て、鞄を手に取る聖司を見て、友人の一人が声を掛ける。


「ん? いや、おれ理人のとこ行かなきゃ」

「お、またか」


一人が軽口を叩いた。


「ほんとお前ら仲良いよな。二人で結構会ってない? 付き合ってんのかって思うくらいだわ」

「な訳ねーだろ」

「そうそう、東條が聖司なんか相手にするわけがない」

「なんかって言うな」

「顔面と頭の偏差値の差がなー」

「悪口言うなっての」


聖司がむくれ、友人達が笑う。


「うそうそ、おまえは可愛い顔してるから大丈夫」

「全然嬉しくないんだけど」


亜麻色の髪をくしゃっと掻き上げ、聖司は友人を睨め付けた。


「だけどさ、聖司。あんな綺麗な顔の人間がすぐ目の前にいて、よく緊張しないよな。俺無理だわ。威圧感もすごいしちょっと完璧すぎる」

「んー…緊張っていうか…綺麗だなあって見とれてるかなあ」

「おまえ、頭の中平和だなあ」


友人が、呆れたように溜め息を吐いた。


紗英と別れて以来、聖司のなかで、理人という人間の枠組みは、明らかに他の友人達と異なっていた。


「遅かったね」

「ごめん、クラスのやつらとずっと一緒にいたから。理人待った?」

「五分くらいかな、たいしたことないけど」


理人は少し眩しそうに、目を細めて聖司を見る。その視線に、聖司は何故だかそわそわした。


「時間にルーズな奴嫌いだよな、ほんとごめん」

「別にいいよ」と、理人は少し微笑んでから「聖司だから」と付け足した。


春休みに何をしたかを、何をしようとしているか、聖司と理人は時々こうやって会っては、お互いに報告をし合う。何故そうなったのかは、わからないが、気づいたらそういう予定は出来上がっていた。


聖司は気楽に遊び歩いている話が主だったし、理人はインターネットで繋がった人間と金融や起業のコミュニティを築き、そこで起こったトラブルを踏まえたうえで、これからの展望を話した。


「もっとバイトしなきゃな、あいつらと一緒にいたら金がもたない」


へらっと笑う聖司の顔を、理人はじっと見ていたが、

「ちゃんと寝てるのか? 疲れた顔をしてる」

「んー、あんまり寝てない、かも」

「明日は?」

「明日はまたクラスの奴と遊ぶ」

「聖司、」


理人の声が少し強くなった。聖司はまだメニューを見て、何を頼もうかと思っていたところだったが、その声に驚いて顔を上げた。


「え? なに?」

「遊ぶのもいいけど、ほどほどにしてくれ。おまえ、本当に顔色悪いよ」


眉を寄せて、理人が言った。理人が機嫌を悪くするところを、聖司は見たことがなかったので、思わず居住まいを正した。


「何か食べたら今日はもう帰ろう。それで、おまえは一度ちゃんと寝た方がいい」

「理人なんでそんな怒ってんの」

「おまえが不規則な生活ばかりするからだ」


保護者のような顔をして、理人は先に届いたコーヒーを飲んだ。


「えー、帰りたくない」

「なんで」


駄々を捏ねる聖司に、理人は冷ややかな目線を向けた。


「家、あんまり好きじゃないんだ」


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