こうなることは、
秋の訪れは瞬く間のことだった。
焼け付くような陽射しは鳴りを顰め、日の落ちるのが早くなった。ひんやりとした空気が夜風に混じる。
「これ、今月分」
バイト代が支払われたので、聖司は生活費として遥に手渡す。煩雑な学生生活の合間にバイトを詰め込んで、出来るだけ稼ぐ。理人のようにコストパフォーマンスを重視したやり方はできない分、聖司は自分に出来ることをするだけだった。
要領は昔から良かったことと、年上の人間にはやたらと可愛がられる性分のおかげで、時給もわずかな期間の間に二度もあがった。
いつもよりは多くの金額を遥に渡せたことに、聖司は自己満足に過ぎなくても安堵した。
「ありがとう。頑張ったのね」
遥は聖司の手を握る。そして、意を決したように口を開く。
「あのね、聖司。聖司は、子どものこと、どう思ってる?」
「子ども?」
聖司にとっては思わない方向の会話に、繰り返すのが精一杯だった。
「わたし達の子どものことだよ。聖司は、自分の子ども、欲しくない?」
「急に言われても…だって、おれまだ学生だし」
「でも結婚したでしょ。それなら考えて当たり前のことじゃないかな」
遥が聖司を見上げて問うた。子ども。父親と母親になるということ。聖司に浮かんだのは、自分が溶け込めなかった家族の顔だけだった。
「ごめん、考えたことがなかった」
聖司には、遥と新しい家族になりたかった。ただそこに、まだ見ぬ子どもの姿は存在していなかった。
「考えてみてほしいの。わたしは、聖司との子どもが欲しい」
「子どもなんて、早くない?」
「わたしは少しでも早い方がいいと思ってる」
「お金だってかかるわけじゃん。せめておれが就職してから考えようよ」
「それって何年後のこと? 卒業までまだ二年もあるんだよ。就職して落ち着いてからとか言ってたら少なくとも三年後でしょう? お金のことは、わたしがなんとかするよ」
「そんな無責任なこと言うなよ。じゃあそれまで待ってくれないってこと?」
聖司の言葉に、遥は手を離し、距離を取った。目が、冷たかった。
「聖司。結婚はあんなに急いでくれたのに、子どものことになると消極的なんだね」
「だって、急じゃん。今までそんな話一切しなかったのに」
「わかった。今日はこの話はやめましょう」
「遥、」
「喧嘩になっちゃいそうだから、今日は外で泊まるね」
遥はぴしゃりとそう言って、部屋から出て行った。
さっきまであった充足感は、微塵も部屋に残っていなかった。




