そこに立つのは俺だったのに
式は小さなチャペルで行われた。
友人達が数名参加した。最後まで学生での結婚に反対した聖司の両親は、参列を拒否した。
高校や大学の友人に混じって、理人も参加した。
黒の礼服に身を包んだ彼は、遥の友人たちの間で溜め息がもれるほど目を引いた。
こじんまりとした集まりだったが、聖司は誰からも好かれる人柄だったため、あちこちから祝福の声が上がった。
「おめでとう」
グレーのタキシードを着た聖司の前に立った理人もそう言って、微笑んだ。
そうして、「聖司をよろしくお願いします」と遥に頭を下げる。
「おまえ、ほんと親みたいだぞ」
「そのつもりだけど?」
「理人くん? 話はよく聖司から聞いてた。来てくれてありがとう、これからはわたしがちゃんと聖司を支えるから。聖司のご両親にも認めてもらいたいし」
隣から遥が顔を上気させて言った。式という晴れ舞台で緊張してたのかもしれないし、目の前に立つ理人に見惚れたのかもしれない。
理人は薄く微笑んだだけだった。
友人達から二次会の話が出て、全員交えて行こうと盛り上がった。
「東條くんも行くよね?」
高校時代の同級生が、理人に声をかける。
「行こうかな」
「やった」
女の子達から声が上がる。
その様を少し離れたところから見ていた聖司の頬を、遥が笑いながら撫でた。
「どうして寂しそうなの? 着替えたらあなたも行くでしょう?」
「なんか…仲間外れの気分」
「変なこと言うのね」
遥が呆れた声を出した。
「だって理人は、おれの友達なのに」
切れ長の目を大きくして、遥が可笑しそうに笑った。
「やだ、聖司。あなたヤキモチ妬いてるの?」
「ヤキモチ?」
聖司は繰り返して、「そんなわけないだろ」と、そっぽを向いた。
高校時代、理人は他の人の誘いには乗ったことがなかった。いつも聖司の近くにいて、聖司とだけ話した。クラスメイト達は理人に一目置いていたせいか、誰も積極的に話しかけようとはしなかった。
紗英と付き合っていた期間は、どう気が向いたのか、理人は社交的に振る舞っていたが、紗英と別れてからはまた聖司とだけ話すようになった。同じクラスで二年間。
聖司にはそれが、当たり前の光景だった。
大学では学部が違うから、一緒にいない時の理人がどうやって過ごしているのか、聖司は知らない。いつも、講義の合間や空き時間に理人は現れ、いつの間にか聖司の隣に座る。食事の時も、休憩の時も。
よく飽きないなとも聖司は思ったが、理人の隣は居心地が良くて、離れようとも思わなかった。
だから、自分は勘違いをしていたのかもしれない、と聖司は思った。
理人は聖司がいないと、困るのだと思っていた。
理人は聖司のそばにだけ、いたいのだと思っていた。
「聖司?」黙ってしまった聖司を心配したのか、遥はそっと肩に手を置いた。
「そろそろ着替えに行かないと」
「ああうん、わかってる」
友人達が集合時間と、場所を携帯に送り合っているのが見える。
何人かが、「おまえにも送ってるから、後でちゃんと来いよ」と声を上げた。
聖司はそれに手を振って返す。その中に理人の姿を探したが、もういなかった。
辺りを見回すと、彼はもう自分たちに背中を向けて、歩いていた。その歩幅はいつもと変わらず、正確だった。
「理人、」
呼びかけて、白の手袋を嵌めた手で、自分の口を塞いだ。遥が驚いたように、自分を見ているのがわかった。
「聖司、どうしたの? 今になってマリッジブルー?」
「はは、そうかも」
口角を上げた遥が、聖司の肩をあやすように叩いた。




