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霞の記憶  作者: 七瀬愁
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きみが嬉しそうなものだから

「結婚式のドレスなんだけど」


そう言って遥が見せてきたウェディングドレスのカタログは、どれもシンプルで、清楚というよりどこか簡素なものばかりだった。


「地味すぎない? 式は俺が費用出すしさ、もし気を遣ってるんだったら、ドレスくらいどんなの選んでもらっても構わないよ」

「ありがとう、でもね、わたしこういう感じのシンプルさが一番好きなの」


細い指先が、カタログをなぞる。

どれも遥に似合う気がした。でも、どれも遥らしくない気がした。


「式場もね、そんな大きくなくていいかなあって。内輪のほうが、和やかな感じになるでしょ。わたし、派手なことは好きじゃないし」


遥は自分に遠慮しているのだろう、と聖司は思った。

頼るには若すぎるから、学生で金銭面が弱いから、どれも当たっていて、反論もできない。


ドレス一つも気に入ったものを選ばせてあげられないのは、聖司が未熟だからだ。現実を理解せずに浮かれているのは自分だけだ、と思うと気恥ずかしくなる。


「ごめん。おれの我儘に付き合わせて」

「何言ってるの? ね、聖司。わたし、式が出来るだけ嬉しいんだから」


遥が幸せそうに言うので、聖司は開きかけた口を閉じて、ドレスのカタログに目を落とした。





「それで聖司は何色のタキシード着るの」


パソコンで何かのデータを確認しながら、理人が聞いた。聖司が視線をやっても、理人の視線はモニタに向けられたままだった。


キッチンで勝手に淹れた珈琲を飲みながら、聖司は近くの椅子に腰を下ろした。


「決めてない。男なんて何色でも一緒だろ」

「まあバリエーションがないからな」


少し笑って理人が言う。


「だからまあ無難に白でいいかなあって」

「グレーにしなよ。どうせ式場なんて白だらけだ。それに聖司に良く似合うから」

「グレー?」

「うん。聖司の肌と髪色に良く映えると思う。写真だって撮るだろ」

「写真なんて新婦が主役だろ」

「俺が見たい」


は、と聖司が息を吐いた。


「俺にはおまえが主役だから」


理人がモニタから顔を上げた。


それから、「何か作るよ」と言って立ち上がった。


聖司は、グレーでもいいかもしれない、と思った。


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