第二章 第三節 東京の空の下で
恋人、健を残して小夜子は一人で東京へ
第二章 戦いの日々 第三節 東京の空の下で
平成九年六月末。東京の空はどんよりと曇っていた。、それじゃなくともスモッグ覆われた空はいっそう梅雨空を装って暗く思える。そんな空の下にスーツケースを提げた小夜子が上野駅から山手線に乗り換えてJR池袋駅を降りて歩いていた。
駅から一〇分ほど歩くと、急に繁華街とは変わって住宅街が多くなった。
道は穏やかな坂道になっており、その先に神社の境内が見えて来た。
そこから数百メートルの所に小奇麗な三階建の建物がある。
其処が小夜子の生活や活動の拠点となるアパートだ。大学時代の友人が東京に居るので、その彼女にアパートの手配を頼んで置いたのだった。
不動産屋に案内され部屋に入ると二LDKで一人暮らしには不自由のない広さだ。実家である正堂寺と比べれば十分の一にも満たない広さだが、それは贅沢と云うものだ。
空っぽの部屋を見渡し新しい生活が始まるのだなと、フ〜と溜め息が出た。
予め送ってあったら荷物の入ったダンボールを開けると、額に納まった父母の笑った写真が出て来た。頑張れと言っているようだった。
ここは池袋の駅から徒歩十五分だが静かな住宅街。建物の古さから比較しても家賃はかなり高いが、それは駅に近いと言う利点があるからだろうか。翌日から小夜子は池袋周辺で職探しに専念した。東京には何人かの友人は居るが、東京で働くのを夢見て来た訳でもない。目的はただひとつ、自分の手で犯人を探し事だった。小夜子が予想した通りM市の警察署は、捜査本部と言う看板だけで捜査らしい捜査をしているかどうかは疑わしいものがあった。もうM市は完全に盛田開発に汚染されたようだ。
アパートを探してくれた友人には電話でお礼を述べて、後で遊びに行くと告げてから単独で行動を始めたのだ。ともあれ働かなくては仕方がない。就職情報誌を何冊も買ってアパートでチェックしてから公衆電話から応募の電話を掛けた。まだ、この頃に携帯電話はなく自動車電話はあったが、一般の人には高く基本料金だけで三万円もした。主に使うのは大手企業の重役以上が普通だった。一般の人には高嶺の花だった時代だ。
小夜子はどんな仕事でも良い訳ではなく、M市で勤めていた旅行関係の仕事を探していたので、その旅行関係の仕事を探した。その間、家から送って置いた荷物の整理や、周りの環境や駅周辺の地理を覚えて数日後、何度か探した会社から採用の通知が届いていた。
仕事もなんとか決まって希望通り、以前と同様の旅行会社の職にありつけた。
その会社は大手の旅行会社(さくら旅行社、池袋支店)そこが小夜子の職場となった。
観光会社に勤めて居た事もあり、意外とすんなり採用が決まった。初出勤は小夜子が東京に来てから七日目だった。その間に健の事が何度も頭に浮かび。黙って飛び出しことに申し訳ないと思っていたが、それも小夜子なりの愛情の表れだった。
しかしそれが正しい選択だっのだろうか? 勤め始めてから数週間が過ぎて職場にも同僚にも、なんとか解けこむ事が出来た。旅行会社だけあって観光地は勿論だが、あらゆる地図が揃っていた。その地図の中に気になる名前を見つけた。〔同盟組合〕と云う、いかにも政治団体風の名前が載っていた。右翼系らしい政治団体の組合と云うことか?
こう云う旅行会社は勿論、観光地図が中心だが、そう云う点では凄く便利だった。勤務中にそんな事が出来る訳じゃないが、休憩時間など利用して小夜子は少しずつ情報を集めていった。しかし堂々とは地図には、そんな名前では載ってはいなかったが、他にも別な名前で掲載してないか探して見た。取り敢えず同盟組合を探ってみようかと考えて仕事が終わってから小夜子は、その気になる場所を探しに出かけた。駅から一〇分程離れた所にそれらしい事務所を発見した。雑居ビルの三階に小さな看板があった。
その看板は薄汚れた文字で〔新日本同盟〕と書かれてある。それは事務所と云うには程遠い雀荘みたい所だった。やはり小夜子の感は当たったようだ。人相の悪そうな異体の知れない男たちが時々、出入りして居るようだ。政治団体は恐持てでないと家業が成り立たないだろうか。無意味かも知れないが一応ハッキリする迄は監視を続けるつもりでいた。夜はその事務所の周辺のスナックに出かけ、スナックなら飲みに来る事もあるだろうと。
小夜子は172センチの長身に美貌の持ち主であり余りにも目立ち過ぎた。小夜子は危険を承知で、そのスナックに通い始めた。それから四日目にしてスナックで異変が起きた。一人のヤクザ風の男が入って来て周りをジロリと一瞥した。奥のカウンターには二人の男が座っている。小夜子は入り口に近いカウンターに腰を掛けている。
そのヤクザ風の男が誰か探しているのだろうか、目が殺気だってみえた。そう云う時の小夜子は、すぐその男の〔気〕が普通じゃない事に気づいた。やはり合気道の極意のひとつだろうか、相手の小さな動きや鋭い気が小夜子の神経に敏感に反応するのだ。
そのヤクザ風の男が、いきなりギラリと光る物を懐から出した。そして奥の男達に目が向いてドスを引き抜いたのだった。ヤクザ風の男は二人を目がけて突進した。
そのドスが鋭く光る。それに気がついたボーイが大きな声で叫ぶ。
「あっ危ない!」
カウンターに居た二人の男が異変に気づいた。二人のうち手前に居た男の脇腹に、そのドスが突き刺さった思われたが。だが、寸前に男の手刀がそのヤクザ風の男のドスを叩き落していた。間髪を入れずに左のフックがヤクザ風の男に炸裂していた。ウッと呻き声を上げる。小夜子は只者じゃないと思った。男は余裕の表情でヤクザ風の男に言った。
「チンピラが! 吠えるんじゃないぜ」 と一括した。
どっちがヤクザだか分からない程の貫禄を見せた。ヤクザ風の男は椅子をなぎ倒して崩れ落ち、それでもヨロヨロと立ち上がり近くのテーブルに手を掛けて起き上がろうとした時に、その顔面にパンチを浴びせた。勝ち誇ったように男が怒鳴った。
「矢崎組にはこんなチンピラしか居ないのか、オラッ持って帰れ!」
と言うか言わぬ間に、そのヤクザ風の男の手の甲にドスが深々と突き刺さった。
ウウッ!と唸って、ヤクザ風の男はドスが突き刺さったままドアを激しく押し広げ逃走した。だが突き刺した男の方は追う気配は見せなかった。よほど修羅場を潜り抜けて来た人間なのだろうか。薄ら笑いを浮かべて連れの男と何事もなかったように、また飲み始めた。 小夜子は、さり気なく勘定を済ませてスナックを出た。
二人の男は、そんな小夜子を見て怖くなって出て行ったと思ったらしい。
しかし小夜子はヤクザ風の男を追いかけていた。暫らく走って追いかけたら男が公園の隅でうずくまっている。小夜子はその男に近づいて行った。
男はギョッとなって小夜子を見るが、しかし女だと分かるとやや警戒心を解いた。
普通の若い女ら、そんな人相の悪いそうな男が居る所などに近寄って行く訳はないが。
小夜子はためらう事なく男に近づいていった。安心していた男も一瞬、身がまいたが。
「大丈夫よ心配しないで。治療しなくては出血が酷くなるわよ。いま薬局に行って来るから静かに待っていてね。警察には知らせないから心配しないでいいわよ」
男は唖然として聞いていたがドスも抜けずに、ただ呻くだけだった。
ドキリとする言葉を男に言い残して、小夜子は公園を後に薬局を探しに行った。
小夜子は十五分ほどして戻って来た。包帯とガーゼ、消毒液などを買って来た。男は小夜子を警戒しながら見ていたが、助けようとしいる事は間違いなかった。しかし普通なら救急車を呼ぶのが当たり前だけど、目の前に居る女は、血がダラダラと流れているのに、なんのためらいもなく男の治療に取り掛かった。救急車を呼べない理由も心得ている小夜子だった。手際良く右手の手首をきつく縛り、次に突き刺さったドスを抜く準備に入った。。
「眼を閉じて歯を食い縛って、い〜い! ナイフを抜くから」
小夜子はドスを一揆に引き抜いた。手首を固定してあるから、それほどの出血はしなかったが素早く消毒液をかけて血止めだろうか、予め用意したガーゼに薬を塗りこんだ物を傷口にあてがって包帯でグルグルと巻いていった。男は物凄い形相で痛みに耐えていた。 女の前で呻き声を上げたら恥だと思ったのだろうか、それともヤクザのプライドだと思ったかは定かではないが顔からは脂汗が流れていた。
「はい、それからこれを飲んで。痛み止めだけど効くまで我慢して」
応急処置は終わって男が少し落ち着いて来たので小夜子は男に尋ねた。
「どうして・・・あんな事をしたの?」
男は小夜子がヤクザだと分かったはずなのに、全く臆する事なく応急処置をやってのけた。男はただ、それを驚いた顔で見るだけだった。
平気でドスを抜いて手当するなんて、なんと度胸のある女だと思ったのだろう。
女はみんな、か弱いものと思っていたが考え方を変えざるを得ない出来事だった。
しかし、どうしてそんな事をしたのか、と聞いてきた。まさか刑事??
「そっそれは言えないが、あんたには助けてもらったから礼は言う」
男は恐縮しながら目の前の女を観察した。良く見ると驚くほどの美人だ。
刑事ではなさそうだと思ったのか、男は少し安心した様子をみせた。
「ありがとうよ。俺は矢崎組の松本って言うもんだ助かったよ。あんた名前は? 礼を」
小夜子は松本の言葉を遮り、その問いには答えずに僅かに微笑んでみせた。
「別にいいのよ・・・分かったわ。今度もし逢う時があったら、その時にね」
そう云って小夜子は静かに立ち上がり公園を離れて街の中に消えて行った。
それから一ヶ月、あれ以来これと云った手掛かりが掴めぬまま時が流れ、真夏の太陽が都会のアスファルトを照りつける。その熱を冷す物はなく逆にエアコンの外機から出る熱風が余計に暑くさせる。いかに気丈な小夜子と云えども若き女性である。故郷でどうして居るのかと健の事が頭をよぎる。
「ケン・・・逢いたい」
仕事が終り都会の夜空を仰ぐが故郷の夜空と比べる術もない。星もスモッグに遮られ薄っすらと見える程度の夜空。そこはただ孤独の世界が漂うばかりだった。
そして今日は仕事が終り同僚の女同士で、食事に出かける事になっていた。
小夜子も、すっかり仕事にも慣れて友達も出来た。小夜子だって親を殺した相手を探しと云っても、毎日、思いつめていては体が参ってしまう。あせらずに探しことにした。
ここは池袋の東口、サンシャインの手前に映画館が並ぶ通りを少し入った所の洒落たレストランに入った。そして小夜子と連れの二人の女性は、食事と会話で盛り上がっていた。小夜子も食事を友達と楽しんでいる。その連れの一人、笹本啓子が化粧室に行くと言って席を立った。その先のテーブルには三人グループの男達が食事をしていた。
一人の男が急に立ち上り通路に出ようとした処に、ちょうど運悪く小夜子の連れの女性笹本啓子と接触した。弾みでテーブルに乗っていたワイングラスが倒れてワインが零れ落ちた。零れたワインを見て、その男はいきなり大きな声で怒鳴った。
「おい! 何処に目を付けてやがる! バカヤローが」
いきなり人相が悪そうな男に罵声をあびせられた笹本啓子はうろたえる。
見るからにヤクザだと思われる風体だった。笹本啓子は咄嗟に謝ったのだが。
「ご、ごめんなさい・・・」
と、言うのがやっとで顔面が蒼白になっている。だが男は許さなかった。
「おい! スーツが汚れたじゃねぇか。どうしてくれるんだ。あぁー」
レスランの客たちも怯えた表情で見ていた。小夜子ともう一人の友達が、その異変に気づいた。迷わず小夜子だけが彼女の側へ駆けつけた。
「どうしたの? 啓子さん」
と、二人の間に小夜子は割って入った。男は小夜子を睨みながら更に捲くし立てる。
「どうもこうねえぜぇ、見てみろよ! オイ」
また一段と大きな声を張り上げて意気込んで見せた。ヤクザ特有の威嚇的な態度だ。
しかし、小夜子は臆する事もなく男に向かって言った。
「あなたね! 何もそんなに怒鳴らなくてもいいでしょう。一度言えば分かるでしょ」
「なっ? 何だと! このアマ〜〜〜」
「あっ・・・ちょっと待て! 橋本」
連れのヤクザ男が、その橋本に代わって小夜子の前に立ってジロジロと見る。
「やっぱり・・・あんたか? 相変わらず度胸が据わっているね。ハッハハハ」
小夜子は「えっ」と一呼吸置いて、その男の顔を改めて見た。見覚えがある顔だ。小夜子が介抱した男の顔だった。そう云えば彼はヤクザの組の者だと言った記憶がある。
「あ〜? あの時の人ね。偶然だわねぇ」
偶然にも刺すつもりのドスを逆に刺された矢崎組の松本だった。暗がりで小夜子の顔はハッキリ見えなかったが長身で綺麗な女性だとは認識していた。それにこの度胸だ。普通は怖くて側に寄ってはこないが、二人の間に割って入るなんて男だって怖くて出来ない。
「あの時はどうも・・・いやぁ面目ない。橋本! 例の彼女だよ」
そんな二人を小夜子の同僚や客たちが唖然として見つめていた。それからの松本はヤクザとは思えないほどの対応だった。松本は組の二人の仲間に、その時の事を説明した。
すると、その松本の連れの男二人は急に笑顔になり低姿勢で言った。
「いやぁ、お嬢さん。松本が世話になって話は何回も聞かされてますよ」
それからと云うものスーツの汚れは、そっちのけで小夜子達の食事代は払うし、上には置いても下には置かぬ扱いを受けて笹本啓子にも、いゃあ悪い事をした。と誤った。
その後、松本と橋本達と小夜子の同僚と六人で飲み直す事になった。
最初は小夜子の連れの女性達が嫌がっていたが、次第にヤクザの男達と恐る恐る話している内に見た目ほどに悪い人間じゃなく、すっかり仲良くなった。
ヤクザと云うもの一旦、恩義を受けるとその何倍も義理を返すところがあるらしい。
なんとも不思議な組み合わせの、飲食会になったものである。
最初は、あんなに怖がっていた彼女らもその男気に意気投合したのであった。結局は食事の後に飲み直してから三時間も経過していた。夜の十時過ぎに、やっとそのヤクザ達と別れた。その時に松本達は小夜子の名前を教えて欲しいと何度も催促されて仕方なく教えた。笹本啓子達二人も聞かれたが、さすがに彼女たちは尻込みしてしまった。
小夜子達三人は彼等と別れてからヤクザ達の感想を漏らした。
「驚いたわ。小夜子さんが、あんなに度胸があるなんて相手はヤクザなのよ。怖くなかった? もし殴られたら、どうするつもりだったの?」
「私だって怖いわ。でも殴りはしないでしょう。そう思っていたわよ」
小夜子は平然と言ってのけた。まさか自信があったなんて言えない。合気道をやっているなんて言った事もなかった。そんな日があってから一週間が過ぎて、矢崎組の松本から思いがけない情報を貰った。スナックで松本が刺された時の二人連れの中に小夜子の父が射殺された犯人と思われる、宮崎仁が居たと云うのだ。特徴は頬に傷があるらしい。小夜子は勤め先の電話番号を教えていた。しかし電話をする時は、お客さんの振りをして小夜子を呼び出してくれるように頼んでおいた。まさか、こんな形で情報が貰えるとは思っていなかった。まさに蛇の道は蛇だった。松本達と会して、あの夜遅く迄飲んだ時に、つい東京に来て、なかなか犯人の足取りが掴めずに、焦りもあったのかポロリと真の目的を松本に溢して後悔したが、こんな形でそれもヤクザから恩返しされるとは。
小夜子は東京に出て来た目的が、やっと松本と知り合ったお陰でその形が見えて来たような感じがした。それからも小夜子は例のスナック周辺を、仕事の合間を見張っていたが長身の小夜子は目立過ぎる。その時だけは一七二センチの長身を恨んだ。だから出来るだけ用心して姿が見えないようにして居た。
時刻は夜九時を過ぎていた。だが都会の夜はこれから始まる。物影に隠れるように見張り、人が通って行くと待ち合わせをしているように時計を見ては誤魔化していた。
それも一時間が限度だった。そんなに長く待っていたら怪しまれる恐れがあるからだ。
そして今夜は三十分ほど過ぎた頃。今夜も収穫なしと思っている矢先に動きがあった。
やがてスナックから二人の男が出て来た。それには少し見覚えがあった顔がある。
あの松本が襲って逆に、その男に刺された時の男かはハッキリと分からないが尾行する事にした。もし頬に傷があれば間違いなく、あの宮崎だろう。スナックを出た男二人は表通りに出てタクシーを拾う気らしい。通りの車を見ている。そこから小夜子は三十メーターほど離れて歩いた。二人は、てっきりタクシーに乗ると思っていた小夜子は、その後を尾行するタクシーをタイミング良く拾わなければと考えていた。
小夜子も大通りの車道近くに出た。だが二人はタクシーを拾う事もなく元の歩道を歩き出した。小夜子は慌てた。二人の男を見失うまいと小夜子もまた歩道に戻ったが、もう彼等はかなり先を歩いていた。小夜子は変だなと感じたのも束の間だった。
もう一人の男が小夜子の後方から不敵な顔で現れた。後ろからこの男が小夜子を逆に尾行していたのだ。小夜子はシマッタと思ったが遅かった。その男は小夜子を呼び止めた。
「お嬢さん・・・俺達に何か用かい?」
と含み笑いをして声を掛けられた。小夜子はたじろぐ。やがて男達が引き返してきた。
「オイ! なんで俺達を着け廻すんだ。ちょっと来てもらおうか」
男はその不敵な笑みを浮かべて小夜子を見え透いた。その瞬間、小夜子は見た。頬に傷がある。やはり宮崎だ。聞いた話と特徴が良く似ている。小夜子は気を取り直して。
「やっと見つけたわ。あなた・・・宮崎でしょう?」
「なっなんだと。なんで俺の名前を知っているんだ? お前はスナックに居た女か」
見知らぬ女に名前を言われて今度は宮崎が驚いた。まったく見覚えがなかったからだ。
「やっぱり宮崎ね・・・貴方を絶対に許せないわ!!」
小夜子は憎悪が吹き出て来た。しかし状況が悪かった。相手は三人も居るのだ。
「何だとぉ、お前は誰なんだ?・・・お前に恨まれる覚えはないぜ」
宮崎の顔が強張る。まだ宮崎は女が誰だか呑み込めないでいるようだ。
「あの寺の事件の事を知らないとでも言うつもり!」
宮崎は微妙な変化をみせたが。そんな中、誰だろうと思考回路が激しく回転する。
「なっ何の事だ。知らねぇぜ。てめえ! 俺に喧嘩を売ろうってのか」と吠えた。
「とぼけないで! 知らないと云うなら警察に来てちょうだい」
と手を取ろうとした。小夜子の顔は青ざめていたが心の中は怒りに煮えたぎっていた。
第二章に入ってから内容もガラリと変わり復讐の為の動が始まる。
そんな折ひょんな事からヤクザと知り合い、ヤクザの助けを借り犯人を追う。
そして健も東京へ。第二章 第四節へつづく




