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甲斐雪人は金庫の鍵を開けた。もしかしたら、誰かが試して24時間経っていない可能性もあるかもしれないと危惧したが、それは杞憂に終わった。
計算で求めた六桁の数字をダイヤルで合わせ、解除のボタンを押すと、カチリという音がして、金庫の扉が予定通り動いた。
「お前、いつ答えが分かったんだよ」
「本当よ、驚きだわ」
後ろから覗いていた神田隆志と神田珠に、昨日の祭りの最中にひらめいた、とだけ返事をして、二人に場所を譲った。
珠に促され、隆志が金庫の扉を開ける。
「何が入ってますの、お兄様?」
「ちょっと待って……いや、何も、入っていないようだけど」
金庫の中には、ほとんど何も入っていない。中には封筒が一枚入っていただけだ。
「盗られている」
「封筒には何が入っている?」
隆志は手を伸ばし、封筒を取った。表には神田勇治郎の達筆な字が走っている。
「じーちゃんからの手紙みたいだ」
手紙を取り出すと、隆志は目を通す。
「何て書いてあるの?」
隆志は声に出して、手紙を読み始めた。
「まず初めに、どうやら金庫の鍵を開けることができたみたいだな、さすが私の孫であると褒めておこう。だが、見たまえ、この金庫の中にはお前が求めていたようなものは何も入っていない。期待して開けたのだとしたら、さぞかし失望したであろう。だが、私もお前に対しては失望した。これがお前の本性であると知ってしまったわけだからな。私の見立てでは、この金庫を最初に開けるのは妙であろうと予測しておるが、どうかな? ああ、私の可愛い孫娘よ。この予測がはずれることを私は期待しておるわけだが。もし、この隆志や珠が開けることとなると、ことは何事もなく終わるであろうことは予測できておる。だが、失望には変わりない。とくに二人は、学ぶという意識が低すぎるからな。さらに万が一、それ以外のものがこの金庫を最初に開けてしまったとしたら、私は言い逃れをするつもりはない。これをもって、私の場所へ来たのならば、私はこれとともに果てるつもりである。
愚かな遺書だと、お前は思うだろう。
だが、私がこれをこうしてお前に渡ることを予測し、このようにわずらわしい準備をしているのは、やはりお前と、お前に関わるすべてのものを愛しているからだ。あとはこれをお前がどう使おうが、私の関するところではない」
「これ、とは?」
部屋の入り口に立っていた権藤警部が手を上げる。
「分かりません。何かが盗られているようです」
「凶器のことだろう」
篠塚が腕を組んだままハスキーな声を出す。
「そして最初に金庫を開けたのは、神田勇治郎の予測の通り、神田妙であった。そう結論付けて間違いないな」
「犯人じゃないの?」
木林さゆりが顎に指を当てて首を捻る。
「では、お前が犯人だとして、あの暗号を見てどうやったら金庫の鍵を開けることができるのだ?」
「暗号を解いたのでしょ?」
「今この中で、暗号を解いた人間は私と甲斐だけだ。他に解けたものがいるか?」
誰も手を上げない。
「犯人があの暗号を手に入れたとして、すぐに暗号を解けるはずがない」
「はずがない、というのは論理的な判断ではないな」
珍しく神田剛が低い声を出す。
「これは失礼しました。では質問を変えよう。あれが、金庫の暗号だと、どうして犯人は分かるだろうか? 妙が殺された日の時点で、あれが金庫の暗号だと知っていた人が犯人」
篠塚は組んでいた腕を解き、甲斐の腰辺りを軽くつかんだ。珍しく、篠塚の手が震えている。
「そして、それはこの中にしかいない」




