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翌日、権藤警部が朝早くにやってきて、居間に関係者を集めた。関係者とは、神田の家族に三人の家政婦、それに偶然居合わせた神田珠の友達の二人だ。甲斐雪人は席を外そうか、と提案したが別に構わないということで一緒にいることになった。
二日前の事件の被害者は上月松一、コウヅキカンパニーの部長とのことである。コウヅキカンパニーは先ごろ上場した鉄鋼関係の会社であるが、すでに外国に工場を多く持ち今急成長を続けている会社である。現社長の長男である上月松一が、自宅の金庫室で殺されていたのだ。
神田妙と同様に、側頭部を銃で撃たれた跡があり、それが致命傷となっていることは明らかだ。金庫は開けられていて、中にあったはずの現金のうち札束だけがなくなっていた。強盗犯が押し入り、金庫を開けさせてから、上月松一を殺したのだろうというのが、捜査本部のだいたいの意見である。
「それで、この報告もあったのですが、今日改めてこうして伺いましたのは」
一度咳払いしてから権藤警部は続ける。
「どうしてもやはりこちらの家の金庫の中身を確認したいと思いまして。凶器は同じものであろうことは分かっています。状況も非常によく似ている。となると、やはりこの事件は強盗の仕業なのか、ということになります」
「早く犯人を捕まえてくれるなら構わんが」
神田剛が腕を組む。
「だけど、金庫の開け方が分からない」
「ええ、ですから強制的に、ということです」
「鍵を壊す、ということですか?」
「そうなります」
甲斐は篠塚桃花の脇をつつく。けれど、篠塚は関心がないのか、答えない。仕方なく甲斐は自ら手を上げる。
「あの、壊さなくても、大丈夫だと思います。まだ試していませんが、おそらくそうなのだろうという番号の予測はついています」
「な、本当か?」
神田隆志が驚いた声をあげる。
「おそらく、ですけど。ただ、鍵を開けて金庫の中を見たとして、元々何が入っていたのか知らなければ意味がないのではないでしょうか?」
「何が入っていたのですか?」
権藤警部は剛を睨むように見るが、剛は首を振る。隣に座っている神田友里恵も同じように、首を捻る。
「そんなものは後で本人に問いただせば分かるだろう」
後ろから篠塚が声を出す。その発言に驚いたのか、居間に集まっていた多くの視線が集まる。
「犯人にではなく、勇治郎のことだぞ」
「でもおじい様は今……」
「ここにいる、いないは問題ではない。後で問い合わせることができるかどうか、だけで充分だ。そして、問い合わせることができる」
「それもそうですね」
権藤警部は納得したように頷く。
「いや、小さいながら慧眼でいらっしゃる。それを考慮しましてお嬢さんに一つ質問を。問い合わせるなら神田勇治郎博士か犯人か、どちらが効率的でしょうか」
「どちらも無駄な作業だ、必要がない。が、金庫を開けることには意味がある」
「それはどういうことでしょうか」
「わたしはこの事件を強盗による犯行だとは思っていない。わたし一人の判断では不安なら、甲斐よ、お前もそう思っているだろう?」
甲斐も昨日庭を歩きながら考えていたことだ。なので、甲斐も頷く。
「それに、先日神田勇治郎も言っていた」
「博士も?」
「後で問い合わせてみれば分かる」
「それじゃあ、どうして妙さまが殺される必要があるの!」
家政婦の木林真雪が大声を上げる。
「妙さまは、それはもう人格者だわ。妙さまが殺されなきゃいけない理由なんて、わたしには思い浮かびません」
「残念だが、わたしにも思い浮かばない」
篠塚は首を振る。
「だが、金庫を開ければその理由も分かるかもしれない。なあ、甲斐よ」
再び篠塚に振られる。が、甲斐にはその理由が思い浮かばない。殺されるほどにうらまれるような人ではない、というのが隆志の意見であったが、何か家族にさえも教えていない秘密があったのかもしれない。だが、それが金庫の中身とどう関係してくるのか、甲斐には想像もつかない。
つまり、篠塚の中ですでにパズルのピースが出来上がっている、ということなのだろうか。
「とにかく、やはり一度金庫の中を見る必要があるということですな」
権藤がざわざわとし始めた居間を一度制してから続ける。
「異存はありませんな?」
神田剛はもう一度頷く。




