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パーフェクト・ナンバー  作者: なつ
第四章 祭りの夜
26/33

 8

「わたしは逃げないよ、どこへ連れてゆく気だ?」

 最初は抑えてあった手も、もはや口を押さえることに使われていない。篠塚桃花を抱きかかえるようにして、暗闇の中を進んでいく。

「とにかくおろしてくれ」

 その要求が通じたのは、かなり後になってからだ。人ごみはすでになく。周りはほとんど暗闇。今目の前の人物でさえ、知っているものでなければ判別が付かないほどだ。

「お前は危険だ」

 その暗闇が答える。

「そうかしら」

「お前はわたしを疑っている」

「いいえ、疑っていない」

「嘘をつくな」

「疑う必要もない。お前しかいないと確信している」

「だから、お前を生かしておくことはできない」

「それはやめたほうがいい」

「命乞いなど聞かん。くだらない」

「お前は今凶器を持っていない。それに、これだけ人が多いところでわたしをさらっている。わたしを殺せば、それだけお前が不利になるだけだ」

「構わない」

「構ったほうがいい。なぜなら、わたしはお前だと確信しているが、まだ他の誰もお前を疑っていない。それに、率直に言うと、わたしには凶器がどこにあるのか分からない。可能性はあるけど、おそらくもうそこにはない」

「お前はもう暗号を解いたのか?」

「まだ試していないけど。わたしで四人目かしら、神田勇治郎を含めて」

「わたしは解いていない」

「けれど答えを知っている」

「お前は危険だ」

「二つの事件を並べてみれば、その類似性にすぐ気がつく。けれど、それが危険」

「お前は危険だ」

「凶器はどこに隠したの?」

「知らない」

「もう、お前の手元にないということね」

「そうだ」

「なら、お前を疑うものは現れない。少なくとも、わたしが生きている限りは」

 暗闇から返事はない。

 篠塚の鼓動は恐ろしいほど早い。

 恐い、

 恐い。

 泣いてしまいそうだ。

 けれど、それは隠さなければならない。

 今、ここを抜け出すためには。

 暗闇から悪態が聞こえる。

 人ごみまでは、少しある。

 篠塚の足ではすぐに追いつかれてしまうだろう。

「くそう、くそう!」

「さようなら。わたしはもう帰らないと」

「待て!」

「遅くなると疑われるのはお前だ」

「くそう、くそう!」

 繰り返し、暗闇は苦々しい音を出し続ける。篠塚はもう一度言う。

「さようなら」


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