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屋台周りの人並みに、甲斐雪人と篠塚桃花は完全に孤立してしまっていた。神田珠たちとはかなり早い段階ではぐれてしまっていたのだが、神田隆志の姿も見失ってしまった。それほどの人が集まっている。甲斐はどうしようかと思ったが、隣の篠塚は気にしていないらしく、手に持ったりんご飴をペロペロとなめている。もしかしたら気がついていないのかもしれない。一応神田の家からここまでの道は簡単で、いざとなれば帰ることができるだろうが、太陽が沈み暗くなってしまうと不安が残る。
「もも、どうする? 明るいうちに戻る?」
「何でだ? 祭りは始まったばかりだろう」
思った以上にはきはきした返事が返ってきて篠塚を見ると、目が輝いている。
「そんなにおいしい?」
「こんなもの、今まで食べたことがなかった。あまりきれいではなさそうだが、そんなことを補って余りあるおいしさだ」
「楽しんでもらえてるならいいけどさ。絶対手を放しちゃだめだよ、迷子になるから」
「甲斐よ、わたしを馬鹿にするなよ。迷子になるのはわたしではなく、むしろお前のほうだからな」
「世間的にそうは思ってくれないだろうけどね」
「そんな客観的な判断はどうでもいい。わたしは自信を持って神田の家まで帰ることができる」
「そう? それなら、もし万が一二人がはぐれてしまったら、お互い神田の家に帰ることにしよう」
「まあ、そんなことにはならないから安心しろ。それよりも、あれは何だ?」
篠塚の指差した先には、綿菓子の屋台がある。ちょうど作っている機械を指して、興味深そうにその動きを見ている。
「その飴を食べ終わったら買ってあげるよ。綿菓子って言って、綿のお菓子」
「説明になっておらぬではないか。よし、買うぞ」
「だから、飴が残ってるでしょ?」
「残りは甲斐にやる」
「まだりんごに到達してないじゃないか」
「いいから、あれを買うぞ」
「はいはい」
仕方なく甲斐は篠塚からりんご飴を受け取ると、綿菓子の前まで来て一つくださいと言う。
「どれがいい?」
見ると、なにやら戦隊ものの絵が付いてるものや、劣化した少女マンガがプリントされた袋に入れられているものが並んでいる。
「出来立てのを」
「ははは。あいよ」
ちょうど作りたての綿菓子を甲斐は受け取ると、そのまま篠塚に渡す。顔の大きさとほとんど同じだ。
「これは、どうやって食べればいいのだ?」
「そのまま」
「う、うむ」
甲斐は再び篠塚の手を持つと、祭りの奥へと歩き出した。奥へ行けば、きっと盆踊りをしているスペースがあるだろうし、隆志たちはそっちにいる気がする。
甲斐は飴を舐めながら、辺りを見渡す。けれど、人の頭ばかりで、隆志の姿は見つからない。
「なかなか、食べにくいところもあるが、これもまた、おいしいな」
「ほら、鼻の頭に綿が付いてる」
「気にするな」
「気になるよ。放っておくと、あとでべたべたになるんだから」
甲斐は小さくなったりんご飴をくわえると、篠塚の頭に付いた綿を取った。こんなに生き生きしている篠塚を見たことがない。けれど、これが本来の姿なのかもしれない。いつも図書室に縮こまって、静かに本を読んでいる姿のほうが異常なのかもしれない。もっと普通の子と同じように……普通の子?
篠塚は普通の子ではないのだろうか。
芹沢雅との関係は、結局何なのだろう。どうして篠塚が桃という色を負っているのだろう。どうして図書棟に隠れ住んでいるのだろう。そして、どうして本人もそれを望み、そこから出ようとしないのだろう。
分からないことばかりだ。今の姿を見れば普通の、きっと怒るだろうけど、小学生の女の子にしか見えない。
篠塚の手を引きながら歩いていると、前方に大きな鳥居が見えた。神社の入り口だろう。ライトアップされているようで、赤い姿がよく目立っている。
甲斐はその鳥居のところまで歩いた。
刹那、
右手が突然強く引かれる。
すぐに篠塚の手が解かれる。
驚いて振り返るが、人ごみ。
桃色の振袖が、人ごみの中微かに見えるが、それは一瞬のこと。
追いかけようとするが、人ごみがやすやすとそれをさせてくれない。
「ももー」
声を出すが、それもまるでかき消されてゆく。
「甲斐?」
甲斐は肩をつかまれ、再び振り返ると隆志が立っていた。




