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パーフェクト・ナンバー  作者: なつ
第四章 祭りの夜
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 6

 篠塚桃花が昼食のあと神田珠たちに無理やり連れて行かれ、甲斐雪人は神田隆志と庭をのんびりと歩いていた。絵に描いたような日本庭園で、小さな池には赤い橋が架かっている。来るときに甲斐たちが通った門とは別のアプローチが南側に伸びており、より大きな門の近くに小さな、それでもきちんとした家が建っている。おそらくあれが家政婦用の住まいなのだろう。本邸からは確かにかなりの距離がある。だが、銃声が聞こえないほどなのだろうか、と甲斐は首を捻った。

「どうだろう。音楽でも聴いていれば気にならないほどの雑音だったんじゃない?」

 隆志は甲斐の疑問に少し考えてから答えた。甲斐が庭を見渡す限り、もし第三者がこの屋敷に忍び込んでいたとしても、誰にも見咎められることなく本邸までたどり着けるであろうし、そこから逃げ出すこともできるだろう。金庫に対しても同様である。だが、もし金庫の中身が目的なのだとしたら、どうして妙を殺す必要があるのだろう? 必要なのは暗号文なのだ。どう考えてもリスクが大きすぎる気がする。それに、暗号文をそのとき手に入れたとして、果たしてすぐに金庫を開けることができるだろうか。果たして、すぐにその暗号を解くことができるのだろうか。少なくとも甲斐には無理である。篠塚ならば、可能かもしれないが、それほど頭がいい犯人であれば、こんな無駄なリスクは犯す必要がない。

 それでは、目的が妙の殺害にあったのだろうか。金庫の暗号を盗んだのは、捜査の撹乱のためであろうか。そうなると、少なくとも金庫の暗号の存在を知っていなければ、それを盗むことはしない。

「さっき妙さんの部屋を見させてもらったんだけど」

 甲斐は橋の上で、もたれかかるような格好のまま隆志に聞いた。

「他に盗まれたものってなかったの? 貴重品とか」

「他に? いや、なくなっているものはなかったはずだけど。タンスの奥に通帳とか、それに財布も残っていたし」

「下着は?」

「はぁ? 分からないけど、そんな話は聞いてないぞ?」

「どうして暗号文なんて盗んだんだろうって考えてて」

「だから金庫を開けるためにだろ?」

「盗まなくても、暗号文を知る方法なんてほかにあるだろうし。少なくとも僕は知ってる。それに金庫の中に何があるのか分からない」

「犯人にとって都合の悪いもの?」

「どうしてそれがそこにあるって知ってるのさ」

「そういえば何でだろう。じいちゃんから聞いたのかな」

「もしかしたら、暗号を盗むことで気をそらしているのかな、って考えて。警察にも聞かれているだろうけど、妙さんが誰かに恨まれているようなことってなかった?」

「それは正直思い浮かばない。そりゃ、姉さんだって色々あるだろうけど、殺されなきゃいけないほど恨みを買うなんて、俺には想像できない」

「そう……」

「おにーさまー」

 甲斐がため息をついたとき、本邸の方から珠の声が響いた。振り返ると、珠が紺色の浴衣を着て、手を振っている。その後ろには同じような、けれど模様の違う浴衣を着た坂井寧々と御堂聖子が立っている。

「もう用意ができたのか?」

「ええ、バッチリですわ。ほら、桃ちゃんも」

 三人の影に隠れるように立っていた篠塚を、珠が無理やり前に引っ張り出す。桃色の浴衣だ。

「ほら、桃ちゃんにぴったりでしょ。わたしのお古なんだけど」

「やめろ、恥ずかしい」

「ほらほら、雪人さんも、褒めて下さいよ、可愛いでしょ」

 抵抗しようとしているようだが、本気さが足りないようだ。体を小さくして、顔を俯いている。甲斐と隆志は彼女たちの方へ歩いてゆき、甲斐は近くに来ると篠塚においで、と声をかけた。ぱっと顔を上げると、篠塚はぱたぱたと足音を立てて、甲斐の近くに寄ってくる。それから甲斐を上目使いで見る。

「変ではないか?」

「そんなことないよ、とっても似合ってる」

「本当か? 浴衣なんて初めて着るから、どうも落ち着かない」

 パシャっと音がしたと思うと、満面の笑みを浮かべて、珠がカメラを撮っていた。

「こら、誰が撮ってよいと言った」

「いいじゃない。後で現像してあげるから」

「全く。まるで私の話を聞こうとしない。隆志よ、もう少し教育が必要なのではないか?」

「それはもももでしょ」

 頭を掻いた隆志の代わりに甲斐が篠塚の頭をぽんと叩く。髪もアップにまとめられていて、こうやって見ると芹沢雅と同じように日本人形によく似ているのかもしれない。

「よし。それじゃあ行こうか」

 隆志は先頭に立って、アプローチを歩き出した。甲斐は篠塚の手を取ると、その後に続く。太陽は多少西に傾いているとはいえ、まだ日差しが強い。篠塚は日傘を置いてきたようだが、それを気にしている様子はない。

「暑くない?」

「うん? 大丈夫だ。この浴衣というのは、風をよく通してくれるようでな。いつもの服よりも涼しくて快適だ」

 後ろからは三人が、何事か笑いながら付いてきている。

「ここから祭りの場所って、結構あるの?」

「歩くと三十分くらいかな。駅からのが近いくらい。ほら、あっちは交通規制がされてただろ。今頃は神輿があの辺りを通っているから。そこから神社に向けて出店が並んでてさ」

「盆とは違うんだろ?」

「地元だと同じ扱いだね。盆踊りもあるし。ああ、でも謂れは違うらしいよ」

「盆踊りは盆にもきちんと行いますわ」

 後ろから珠が声を出す。

「もともと先祖供養だったんでしょうけど、この地方のご先祖様は一日では帰ってくれなかったんですって。それで、盆から一週間続けて盆踊りがありまして、今日がその最終日なんですよ」

 門を抜けると、微かに遠くから笛の音が聞こえてくるような気がした。



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