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パーフェクト・ナンバー  作者: なつ
第四章 祭りの夜
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23/33

 5

 朝食が終わってから、甲斐雪人たちはそろって隣の部屋へ移動した。床は同じ畳だったが、スペースが広く取られており、明り取りのために縁側に向けて襖が全部取られていたので、緩やかに吹く風がこれから暑くなるであろうことをやわらげてくれている。甲斐たちは四人で向かい合うように座り、暗号について互いの意見を交換しあった。といっても、篠塚桃花はすでに答えを得ているようで、特別なことは何も言っていない。いや、あるいは何か言っているのかもしれないが、甲斐にはそれが特別なことだとは分からなかった。

「じーちゃんの好きな数なんていわれても、思い浮かばないんだよ」

 と、神田隆志は腕を組みながら首も捻る。

「なら、完全な数を考えればいいと思うけど」

「完全な数って意味が分からない」

「意味が分からないのなら、辞書を引け」

 篠塚は退屈なのか、胸のリボンをいじりながらぼそっと言う。

「完全数って言うのは」

 それを抑えるように、甲斐が人差し指を伸ばしながら代わりに説明する。

「因数分解したとき、自分を含まないそれぞれの数の和が、自分自身と同じになる数のこと。一桁なら、六がそう。因数分解すると、一、二、三、六になるだろ? 一と二と三を足すとちょうど六になる」

「へー、なるほどねぇ」

「だから、六連をよく読んでみれば、分かるんじゃないかな」

 甲斐は昨日の夜考えたことを、もう一度説明する。時々篠塚に視線を送るが、特に反応は返さない。合っているのかどうかも分からない。

「それじゃあ、最後に立ったり座ったりしてるのが何か関係しているのかしら?」

 神田珠は首を捻りながら、斜め上を見上げる。ちょうど、そのとき、どこかからか、チャイムが鳴った。それに珠が最初に反応し、立ち上がる。

「多分私の友達。呼んでくるね」

「何だよ、お前また呼んだのか?」

「いいでしょ。だって今日は祭りなんだから」

 一度舌を出してから、珠は廊下を足音を響かせながら走っていった。

「立ったり、座ったり、か」

 甲斐も腕を組む。ちらと篠塚を見ると、リボンをいじるのにも飽きたのか、左手の小指を立てて、甲斐を見上げていた。

「三十二」

 彼女はそれだけを答える。

「何だよ、それ」

「おそらくそこで躓くだろうことは想像できたことなのでな。分かりやすいヒントでもないかと考えたのだよ」

「それで三十二?」

「そうだ。およそ人間の手には十本の指がある。目の前のものを数え上げるとき、指十本で十まで数を数えることができる」

 両手を広げて、篠塚は順に指を折る。

「もう少し考えれば、左手の指一つに単位五を与えて、繰り返し右手の数を足していくことも思いつくだろう。これで三十まで数えることができる。甲斐もこれくらいなら思いつくだろう」

「それで、ももなら三十二まで数えることができるって?」

「千二十三だ」

「はぁ?」

「おじゃましまーす」

 驚いた甲斐の声を掻き消すように、廊下側から珠が戻ってきた。後ろに、おそらく同い年の少女が二人立っている。一人は薄い黄色のワンピースを着ていて、髪は短い。もう一人は、厚いめがねをかけていて、前髪は鼻先まである。

「やー、これが桃ちゃん!」

 黄色のワンピースを着た少女が、がばっと篠塚の隣に座りこむ。

「わたし坂井寧々、よろしくね」

「わたしは御堂聖子。わたしもよろしく」

 めがねの少女は立ったまま、首を横に倒す。

「はいはい、二人とも、桃ちゃんは雪人さんのものなんだから、あんまりいたずらしちゃだめだよ」

「だからわたしはものではないと言っておるだろう」

 まるで篠塚を無視するかのように、寧々と聖子ははーいと返事をし立ち上がった。

「それよりも小娘たち、事件の日のことを教えろ」

「事件の日?」

「そうだ。妙が殺された日の様子だ。お前たちはどこで何をしていたのだ?」

「わたしたちはぁ」

「確か珠ちゃんの部屋にいたよね。夏休みの宿題をさっさと終わらせようってことで集まってたんだけど」

「うんうん。でも、息抜きにほら、珠ちゃんが暗号を持ち出してきて、それをあーでもない、こーでもないって言ってて」

「それでなんか、扉が無理やり叩きつけられるような音がして」

「多分、それが銃声だったんだろうけど」

「珠も最初は、どこかの扉が閉まったか、外の事故の音か、なんて言ってたっけ」

「だって、まさか銃声だなんて思わないじゃない」

「そしたら、次悲鳴でしょ?」

「それで、どうしたんだろうってことになって、三人で部屋を出たんだよね」

「珠の部屋は妙の部屋から離れているのか?」

「同じ二階だけど、廊下を一回曲がるから。洗面所から反対側だよ」

「三人のうちで、それまでに途中部屋を抜けたものはおるのか?」

「うーん、みんな一回くらいは。珠ちゃんがお菓子取りに行ってるし。わたしも寧々も途中トイレに行ったもの」

「なるほどな」

「ふふふふふ、ほーんと、桃ちゃんて知的な話し方するのね。可愛いわぁ」

「音がしてから悲鳴はすぐに聞こえたのか?」

「うーん、どうだろう。そんなに間なかったように思うけど」

「もういいぞ、小娘たち」

「じゃあまた後でね、桃ちゃん。祭りには来るんでしょ?」

「そのつもり」

 篠塚の変わりに甲斐が答えた。


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