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ダンジョン・ライフ 転生したらスケルトンだったので、相棒のスライムと一緒にダンジョンを守ります  作者: 春夏かなた


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第8話 骨の髄まで愛されている・・・のか

俺とヤマザキは、骸骨騎士エドワードに先導されながら、薄暗い通路を全力で走っていた。


……なぜ走っているのかって?


決まっている。


背後から、俺たちをぺしゃんこにする気満々の巨大な岩が転がってきているからだ。


ゴゴゴゴゴゴゴッ!!


床を震わせる轟音が、背中から迫ってくる。


「なあ、エドワード!」


俺は、たぶん涼しい顔をしているであろう隣の骸骨騎士に声をかけた。


同じ骨同士、骨組みを見れば表情くらい分かるのだ。


「なんだ。今、お前と話してる場合じゃねぇよ」


確かにそうだ。


後ろから岩が迫っているんだからな。


しかも――。


ヒュンッ!


通路の壁から無慈悲に飛び出した鉄の矢が、俺の肋骨の隙間をすり抜けていく。


それでも俺は、何事もなかったような顔で太ももの骨を淡々と動かし続けた。


骨盤に矢が刺さったところで、ちっとも痛くない。


「こんなところを通らなきゃ、ボス部屋に行けねぇのか!?」


「そんなことはねぇけどな」


エドワードは重厚な兜の奥で、カチカチと楽しげに顎を鳴らした。


「だが、ここを通った方が早く着く」


「うそつけ!?」


絶対、面白がって選んだ道だろ、これ。


そう言い返そうとした――その瞬間。


「うわっ」


背後から、実に間抜けな声が聞こえた。


俺は走りながら、首の骨を百八十度ぐるりと後ろへ回す。


見ると、ヤマザキが床の凹みに足を取られ、見事に転んでいた。


「ヤマザキー!」


「うわわわわああああああっ!」


次の瞬間。


ゴロゴロゴロゴロゴロッ!!


迫ってきた巨大な岩は、容赦なくヤマザキの上を通過していった。


……。


まあ。


あいつなら大丈夫だろ。


スライムだし。


俺とエドワードは、ほぼ同時に角を曲がる。


背後で何かが盛大に潰れる音がした気もするが――。


「行くぞ。ボスの部屋はまだ先だ」


「まだ先があるのかよ」


ボスの部屋に着くまでに、あと三回くらいは死にかけるな。


たぶん。


そして――。


予想通り。


俺たちはきっちり三回ほど死にかけながら、どうにかボスの部屋までたどり着いた。


……予想、当たらなくてよかったんだけどな。


「ここがボスの部屋だ」


エドワードがそう言って、重々しい扉を押し開ける。


その先にいたのは――ひとりの女だった。


いや、正確には。


人の姿をした、怪物だった。


(こいつが……このダンジョンのボスか)


その特徴的な後ろ姿に、俺はどこか見覚えがあった。


顔つきや上半身は、人間の女とほとんど変わらない。


だが、その髪は違う。


一本一本が、うねる蛇のように蠢いている。


そして下半身もまた、人の足ではなかった。


床を這うように伸びた、蛇の胴。


半人半蛇の怪物――メデューサ。


神話の中でしか聞いたことのない存在が、今、俺の目の前にいる。


……ちょっと、胸にくるものがあった。


すかすかの胸だけど。


「新入りを連れてきやしたぜ、ボス」


「うむ。苦労をかけたな、エドワード」


エドワードの報告に、メデューサがゆっくりと振り返る。


蛇の髪が、ざわりと揺れた。


その顔立ちは、想像していたよりもずっと整っていた。


冷たい美しさ、というのだろうか。


恐ろしいはずなのに、思わず見とれてしまうような――そんな顔だった。


隣でヤマザキも、ぶるん、と震える。


お前、今のは怖がったのか、見とれたのか、どっちだ。


「お前らが、新入りか……ん?」


メデューサの目が、すっと細められた。


その視線が、俺の頭蓋骨をじろじろと見回す。


「な、なんすか」


俺はなるべく視線を合わせないようにしながら、ぎこちなく問い返した。


嫌な予感がする。


ものすごく、嫌な予感がする。


メデューサはしばらく俺を見つめたあと、ぽつりと呟いた。


「アルバリク」


「ひゃあうッ!?」


その一言で、俺は一気に現実へ引き戻された。


な、なんでバレた。


俺、今、骨だぞ。


顔なんかないんだぞ。


「お前、アルバリクだろ」


メデューサは俺の頭蓋骨を両手でがしっと掴むと、確信に満ちた目で言い切った。


「ち、ちち、違いますよ!」


俺は頭蓋骨を掴まれたまま、必死に仰け反る。


「骨違いですよ。何言ってるんですか」


「またですかい、ボス」


横で、エドワードが呆れたようにため息をこぼした。


「新しいのが入ってくるたびに、そればっかりじゃねぇですかい」


そ、そうなのか。


バレているわけではないんだな。


よかった。


「気配が全然違うじゃねぇですかい」


そうだ。


外見はアルバリクの爺さんの骨でも、中身は俺、キムラなんだ。


もっと言ってやれ、エドワード。


「いいや。この頭蓋骨は、どこをどう見てもアルバリクのものだ」


「そ、そんなの見たことあるんですか?」


俺は苦し紛れに突っ込んだ。


するとメデューサは、当然のように言い放った。


「あるわよ」


「あるんですかあああ!?」


いや、絶対に嘘だ。


メデューサのこめかみに一筋の汗が流れたのを、俺は見逃さなかった。


「俺がアルバリクだったら、嘘をつかれたら傷つきますよ」


「……」


その言葉が思いのほか効いたのか、メデューサはふっと視線を落とした。


よかった。


素直に聞いてくれて――。


と、思ったら。


「……見たことはない。ただ」


メデューサの指先が、俺の頭蓋骨を優しく撫でた。


まるで、失くした宝物の形を確かめるように。


……いや、撫でるだけならまだいい。


まだいいのだが。


その指は、俺の眼窩に入り、鼻の穴をなぞり、口元の骨をするりと撫で回していく。


「ちょ、ちょっと、やめてくださいよ!」


「この感触……確かにアルバリクだ」


俺の抗議など聞こえていないらしい。


メデューサは俺の顔面――というか頭蓋骨を弄り回しながら、うっとりと恍惚の表情を浮かべていた。


そうか。


あの爺さん、メデューサと戦って石にされたことがあるんだ。


その時のカチコチの感触を思い出しているんだな。


……いや、納得している場合じゃない。


まずいぞ、これは。


かなりまずい。


俺の骨の節々が、カタカタと悲鳴を上げ始めた。


「ぐっ、な、何を……」


「よいではないか。よいではないか」


あろうことか、メデューサは掴んでいた俺の頭蓋骨を、今度は力任せに引き寄せた。


そのまま、ぐいっと自分の胸元へ押しつけてくる。


ちょ、ちょっと。


待て待て待て。


むにゅっ。


抵抗むなしく、俺の頭蓋骨は柔らかな弾力に包み込まれた。


「ああ……感じるぞ。アルバリクのぬくもりを」


こっちも、あなたのぬくもりを感じてるんですけど……。


嬉しいのか、気恥ずかしいのか、それとも何か別の危機なのか。


もう自分でもよく分からない。


考えようにも、俺の頭の中はだんだん真っ白になっていく。


骨なのに。


頭蓋骨の中なんて、最初から空っぽなのに。


その時だった。


ドカァァァァン!!


凄まじい爆音が響き渡った。


次の瞬間、ボス部屋の扉が派手に吹き飛ぶ。


爆風が室内を駆け抜け、もうもうと煙が立ち込めた。


メデューサの蛇の髪が、一斉にざわめく。


エドワードがハンドアックスに手をかけた。


そして――。


爆煙の向こうから、ひとりの女がゆっくりと姿を現す。


「ここがボス部屋ね」


聞き覚えのある声。


見覚えのある姿。


そこに立っていたのは――。


マルシェリクだった。

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