表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン・ライフ 転生したらスケルトンだったので、相棒のスライムと一緒にダンジョンを守ります  作者: 春夏かなた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/5

第2話 こんな異世界転生は嫌だ

「…………は?」


意識が浮かび上がった瞬間、視界いっぱいに広がっていたのは、不気味なほど無骨な岩壁だった。


肌を撫でる空気は、ひんやりと冷たい。


――いや。


撫でる、なんて生ぬるいものじゃない。


まるで身体の芯を、冷たい風が遠慮なく吹き抜けていくような、妙にスカスカした感覚があった。


(なんだ……? 頭の中までスースーするぞ。鼻のあたりも、風が通り抜けてる気が……)


違和感に眉をひそめようとして、俺はぴたりと動きを止めた。


……眉?


眉を動かそうとした感触が、まったくない。


いや、感触どころか。


そもそも眉って、どこだ?


俺は困惑を押し殺しながら身を起こし、周囲を見渡した。


そこは、がらんとした石造りの空間だった。


四方を囲む剥き出しの岩肌。


壁に備えつけられた燭台だけが、頼りない炎を揺らしながら、薄暗い室内を照らしている。


洞窟……いや、地下室か?


どちらにせよ、まともな場所じゃないことだけは確かだった。


「ここは……どこだぁ?」


漏れ出た自分の声に、背筋――らしき場所――がぞくりとした。


ガチガチ、と。


硬いものが噛み合うような異音が、声に混じっていたからだ。


「やっと起きたのかよ」


「うわっ!?」


背後から飛んできた不意打ちの声に、俺は反射的に肩を跳ねさせた。


――はずだった。


だが、その動きすらやけに軽い。


まるで重力という概念が、俺にだけ仕事を放棄しているみたいだ。


心臓がバクバク……しない。


おかしい。


心臓があるべき場所が、やけに静まり返っている。


嫌な予感を抱えながら、俺はぎこちなく振り返った。


「…………っ」


思わず、息を呑んだ。


そこに立っていたのは、一人の少女だった。


透き通るような金髪。


ファンタジー映画からそのまま抜け出してきたような、意匠の凝ったローブ。

そして、手には魔力を帯びていそうな杖。


薄暗い地下室にはあまりにも不釣り合いな、凛とした美少女だった。


これは、もしかして――。


「異世界転生か……っ!」


俺は勢いよく立ち上がり、拳を握りしめた。


きた。


ついに、きたんだ。


あの退屈で、息苦しくて、何の色もなかった現実とおさらばできる日が。


ようやく。


ようやく俺の物語が始まるんだ――。


「いせかいてんせい……?」


美少女が、きょとんとした顔で小首をかしげる。


その仕草すら、現実離れして可愛らしい。


……いや、可愛いな。


などと有頂天になったのも、ほんの束の間だった。


俺はふと、致命的な懸念にぶち当たった。


待てよ。


これだけ風を感じるってことは……。


俺、もしかして素っ裸なんじゃないのか?


目の前には、こんな美少女。


つまり今の俺は、美少女の前で堂々と全裸を晒している可能性がある。


「きゃっ」


俺は反射的に、男として一番大事な部分を両手で隠した。


「……アンタ、さっきから何やってるの?」


少女の視線が、一気に氷点下まで下がった。


ゴミを見るような――いや。


理解不能な生物を見るような、心底呆れ果てた目だった。


「どこを隠してるつもりなのよ」


「どこって、そりゃあ……」


言いかけて、俺は自分の手を視界に入れた。


「……え?」


ゆっくりと視線を下へ落としていく。


そこにあったのは――。


肉もない。


皮もない。


血の通った温もりもない。


ただただ白く乾いた、無機質なパーツの集合体だった。


肋骨。

背骨。

骨盤。


そして、あまりにも頼りない棒切れのような手足。


どう見ても、人間の身体じゃない。


いや、正確に言うなら。


人間だったもの、だ。


「…………」


震える手――いや、指の骨を顔へ伸ばす。


頬に触れようとした指先は、遮るものもなく、顔の内側をすかすかと通り抜けた。


頬がない。

肉がない。

鼻すらない。


あるのは、硬質な骨の感触と。


顔の真ん中にぽっかり空いた、どうしようもない虚無だけ。


「なあ……」


俺は裏返った声で、美少女を見上げた。


「俺、もしかして……」


「そうだよ」


少女は目を細めた。


そして、花が綻ぶような、それはそれは愛らしい笑みを浮かべる。


――可愛い。


いや、だから今はそれどころじゃない。


カタカタカタ……。

自分の指の骨が鳴らす乾いた音が、静かな地下室に虚しく響き渡る。


俺は両手――いや、両骨を見下ろしながら、絶望の底から叫んだ。


「スケルトンになってるうううううううううううっ!?」



「なんで……スケルトンなんだよ。もっと他にもあっただろ……っ!」


我ながら情けない声が、カビ臭い地下室に虚しく響いた。


いや、おかしいだろ。


異世界転生っていったら、普通は人間じゃないのか。


百歩譲って、チート能力持ちの勇者とか。


悠々自適な貴族の放蕩息子とか。


そういう“勝ち組”スタートを切るのが、お約束ってやつだろ。


なのに、なんだこれは。


なんで初手から骨なんだよ。


肉体がないどころか、スタート地点で皮膚すら消失してるって、難易度設定ミスどころの話じゃないぞ。


「だから、転生なんて知らないわよ」


目の前の美少女が、心底面倒くさそうに肩をすくめた。


さらさらとした金髪。

吸い込まれそうな碧眼。

非の打ちどころがないほど整った顔立ち。


だが、その態度はあまりにも無責任だった。


いくら見た目が最高でも、俺は騙されないぞ。


これでも前世では、冷静沈着な男で通っていたんだ。


……いや。


今となっては、男“だったもの”と言うべきか。


「知らないって……君が俺をここに呼んだんじゃないのか!?」


俺は必死の抗議を込めて、腕を振り上げた。


だが、返ってきたのは――。


カタカタッ。


乾いた骨の音だけだった。


迫力、マイナス百万点。


「うるさい奴ね……」


美少女の瞳が、すっと細められた。


さっきまでの可憐さが霧散し、凍てつくような鋭い視線が俺の眼窩を射抜く。


「あたしはね、曾ジジイの魂をその器に戻したかっただけなのよ」


「曾ジジイ……?」


思わず聞き返す。


曾ジジイって、つまり曾祖父のことだよな。


ってことは、今俺が入っているこのカルシウムの塊は、彼女の先祖の遺骨ということになる。


待て。待て。


情報量が多い。


処理しきれない。


つまり俺は今、赤の他人の――それも美少女の曾ジジイの骨を、不法占拠しているということか?


「それなのに――」


彼女が、今度はギロリと俺を睨みつけた。

完全に怒っている。


というか、沸点はとっくに超えているらしい。


「どこの馬の骨ともわからない魂が、勝手に割り込んできやがって……!」


いや、それを言いたいのはこっちの方だ。


俺だって好き好んで、ボーン・イン・ザ・異世界したわけじゃない。


むしろ被害者だ。


全裸よりひどい。


隠すものも、隠すための肉すらないんだからな。


「…………」


喉元まで出かかった文句を、俺は必死に飲み込んだ。


ここで真っ向からやり合っても、話がこじれるだけだ。


それに、今の俺には分からないことが山積みすぎる。


ここはどこだ。


この身体のスペックはどうなっている。


そして、この態度の悪い美少女は何者なんだ。


何より――。


今の俺はなんなのか?


「……なあ」


俺はカタリと顎を鳴らし、精一杯の“理性的だった頃”のトーンで切り出した。


「とりあえず……今の状況を、分かりやすく説明してくれないか?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ