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ダンジョン・ライフ 転生したらスケルトンだったので、相棒のスライムと一緒にダンジョンを守ります  作者: 春夏かなた


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第1話 勇者に転生したら、骨でした。

「あーあ……だりぃなあああああ……」


そう、俺が全身から“やる気ゼロです”オーラを垂れ流しながら、心の底からどうでもよさそうなぼやきを漏らした――その、次の瞬間だった。


「ぶふぇっ!?」


めり込んだ。


何がって?

拳がだよ。俺の顔面に。


いや、正確には顔面っていうか頭蓋骨だけど。皮も肉もないからな、俺。スケルトンだし。


ゴッ!! と鈍い衝撃が走って、俺の頭がぐらりと仰け反る。

すると間髪入れず、今度は横薙ぎの一撃。さらに追い打ちとばかりに、腹――いや腹筋も内臓もないけど、とにかく腹のあたりに蹴りが突き刺さった。


ちょ、待て待て待て。

お前ら初心者パーティのくせに、やたらコンボだけはしっかりしてない?


目の前では、血気盛んな駆け出し戦士が「オラァッ!」だの「どうだァ!」だの威勢のいい声を上げながら、剣の腹や拳をこれでもかと叩き込んできている。


……いや、ひどくない?

俺、そこまでされるようなことした?

せいぜい、ちょっとダンジョンの隅っこでダラけてただけなんだけど。

異世界、治安終わってんな。


「……お前さ、身体だけはマジで丈夫だよな。まあ、身体っていうか骨だけど」


すぐ隣で、ぼよんぼよんと揺れるスライムが、妙に楽しそうな声で言った。


こいつ、見た目はスライムなんだけど、なんか格闘家を丸呑みにしたせいで、全体的に無駄にムキムキっぽい。スライムのくせに筋肉感あるの、ビジュアルが地味に腹立つな。


「そりゃあ、百五歳まで生きた大勇者サマの遺骨だからな。生前は牛乳を水みたいに飲んでたんだろ。毎日カルシウム祭りよ」


俺は床をゴロゴロ転がりながら、投げやりに言い返した。


そう。

俺の名前は木村。日本からこの異世界に転生してきた、ごく普通の一般人――だった男だ。


……いや、もう男って言っていいのか?

骨だけど。

でもアイデンティティ的には男だからセーフだろ。たぶん。


ただし、転生先は最悪だった。


ここは、かつて世界を救った勇者が死んでから百年後の世界。

勇者の魂はとうの昔に天へ旅立ち、肉体は朽ち果て、長い長い年月の果てに残っていたのは――乾いた骨だけ。


そして、俺が転生したのはその骨。


そう。

つまり今の俺は、元・伝説の勇者の成れの果て。

肩書きだけ聞けばめちゃくちゃ強そうだが、現実は違う。


実態はただのスケルトンである。


終わってるだろ。


普通さ、異世界転生ってもっとあるじゃん?

チートとか。

スキルとか。

魔法適性SSSとか。

ハーレムフラグとか。


なんで俺だけ「勇者の遺骨に転生しました☆」なんだよ。

そのルート聞いてないんだけど。

人生……いや、死後生ってやつ、開始三秒で詰んでる。


「なあ、お前って一応、元勇者なんだろ?」


今度は魔法使いの火球をまともに食らって、キャンプファイヤーみたいにボウボウ燃えながら、隣のスライム――ヤマザキが呆れたように言った。


「あの程度の連中、伝説の力でサクッと無双、とかできねーの?」


「できるならとっくにやってるわ!!」


俺は全力で即答した。


そもそも、さっきから俺がサンドバッグみたいに一方的にボコられているのには、れっきとした理由がある。


俺には戦闘能力が、ない。

マジで、びっくりするほど、ない。


前世の俺はコンビニの深夜バイトでクレーマーに頭を下げ、廃棄の肉まんを眺めながら人生について考えていた、どこにでもいる一般人だ。

剣術? 知らん。

格闘技? 知らん。

喧嘩? したことない。

せいぜいレジ打ちの速度がちょっと速かったくらいだ。


かつて勇者だった頃の身体能力も、神速の剣技も、魔王を倒した経験値も、そういうの全部、百年の時間の中でどっか行ったらしい。


残っていたのは何か。


やたら丈夫で、やたら白くて、やたらカルシウム密度だけ高そうな骨。


以上。


いや、ひどくない?

元勇者の遺骨なんだから、こう……なんかあるだろ普通。

秘められた力とか。

覚醒イベントとか。

少なくとも「硬い」以外の長所をひとつくらいくれ。


……悔しいけど、純粋な戦闘スキルだけで見れば、いま俺をポカスカ殴ってるあの三下戦士のほうがよっぽど上だ。

泣ける。

いや、涙腺ないから泣けないけど。


「お前だって全然倒せてねーじゃねぇかよ、ヤマザキ!」


戦士に殴られ、格闘家に蹴られながら、俺は隣のスライムに文句を飛ばした。


こいつの名前はヤマザキ。

俺と同じく、日本からこの世界へ転生してきた元・一般人である。


「俺が体張ってタンクやってんだから、とっとと何とかしろや!」


拳がめり込み、蹴りが骨を鳴らす。

言いたいことは山ほどあるのに、残念ながら今の俺には唇もなければ声帯もない。

なので会話は念話、いわゆるテレパシーだ。

便利といえば便利だが、叫んでも迫力ゼロなのが悲しい。


「無理だよ。俺、元から雑魚だもん」


ヤマザキはぺち、ぺち、と気の抜ける音を立てながら魔法使いを叩いていた。


うん、弱い。

攻撃っていうか、もうただの“触ってます”なんだよな。

嫌がらせにすらなってない。


ちなみに、目の前で「くらえッ!」「トドメだッ!」とか盛り上がってる人間どもは、俺たちが脳内でこんなクソ情けない会話をしているなんて夢にも思っていないだろう。


ちょっとかわいそうではある。

勝った気でいる相手が、裏で「だりぃ」「無理」「雑魚」しか言ってないんだから。


「やっべ、HPもうねぇわ」


ついにヤマザキがそんなことを言い出した。


「じゃ、お先に~」


「あ、てめっ、待――」


その瞬間、魔法使いの放った火炎魔法がヤマザキを包み込んだ。


ボワッ、と赤い炎が燃え広がる。

そしてヤマザキは、「ふにゃっ」とでも効果音がつきそうな勢いで、ずるりと床へ崩れ落ちた。


もちろん、死んだわけじゃない。


死んだふりだ。


いや紛らわしいな。

スライムが死んだふりってなんだよ。

見た目ほぼ溶けただけじゃねーか。


「……しゃーねぇな」


俺もそろそろ、こいつらに好き放題殴られ続けるのは飽きてきた。


だから次に飛んできた格闘家の一撃を、今度はわざとまともに受ける。


「――ぐっ」


お、我ながらいい演技。

声帯ないのに、なんかそれっぽいうめき声出せた気がする。


そのまま俺は膝から崩れ落ち、力尽きた風を装って床へ倒れ込んだ。


俺とヤマザキを倒した――そう思い込んだらしい三人組、戦士、格闘家、魔法使いは、すぐには立ち去らなかった。


「おい、本当にやったか?」


「しぶとい骨だったな」


とか言いながら、剣先で俺の肋骨をつんつんしてくる。


おい。

やめろ。

地味に痛い。

地味にっていうか普通に嫌だ。


つーか確認の仕方が雑なんだよ。

もっとこう、「脈はないな」とか言えよ。

骨だから脈なんてねぇけど。


それに何度も言うが、俺は貧乏スケルトンだ。

剥ぎ取れるものなんて何もない。

装備ゼロ、金貨ゼロ、レアアイテムゼロ。

ドロップ品の期待値、限りなくゼロ。

ハズレモンスター引いたな、お前ら。


しばらくして、ようやく諦めたのか。

三人組は「チッ、何も持ってねぇ」とでも言いたげな空気を残しながら、部屋を出ていった。


足音が遠ざかる。

気配が薄くなる。

そして、完全にいなくなったところで――


「よっこいしょ」


俺はむくりと起き上がった。


「……行ったか?」


「ああ。マジで今回のはキツかったわー……」


ヤマザキもまた、床に広がっていたドロドロの身体をぺたぺた回収しながら、だるそうに答える。


「あいつら、どうなるかな」


ヤマザキは、三人組が出ていった扉のほうをじっと見つめた。


「さあな。俺たちは、やれることをやるだけだろ」


俺はカチカチと顎を鳴らしながら、少しだけ格好つけて言った。


実際のところ、俺たちが今日やったのは大したことじゃない。

ただ死んだふりして、時間を稼いだだけだ。


でも、それでいい。


今の俺たちは最強でもなければ、無双できるわけでもない。

伝説の勇者の遺骨だろうが、転生者だろうが、できないもんはできない。


だったら、できることをやるしかない。


殴られて、耐えて、時間を稼いで、あとは仲間に任せる。

正直ダサい。

めちゃくちゃ地味。

主人公ムーブとしてどうなんだってレベルで映えない。


でも――生き延びるって、そういうことだろ。


あれだけ俺たちが引きつけておいたんだ。

あとは仲間たちがうまくやって、あの三人をダンジョンから追い出してくれるはずだ。


派手な勝利なんかない。

華々しい活躍もない。

チート能力も覚醒イベントも、たぶん当分こない。


けれど、それでも。


今日もなんとか壊されずに済んだ。

今日もなんとか生き残れた。

それだけで、今の俺たちにとっては十分すぎる成果だった。


――そんなわけで。

最弱スケルトンの俺と、雑魚スライムのヤマザキは、今日もまたぐだぐだと、それでもしぶとく異世界を生き延びる。


控えめに言って、全然ワクワクしない日常だ。

だがまあ、悪くはない。


少なくとも――

さっきまで顔面に拳をめり込ませてきたアイツらよりは、たぶん、ずっとマシな生き方をしている。


……たぶんだけど。

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