まずは潜伏場所の特定から
白魔法の文献のことは、ベイリーフ王国の中でも第一級機密情報だったが、今回の秘匿魔法のことも含めると、特級機密情報に跳ね上がってしまったらしい。
ちなみに、この特級機密情報が発令したのは約五十年ぶりとのこと。
意図せず歴史的瞬間に立ち会ってしまって困惑してしまった。
感動もしたけど、戸惑いの方が大きい。
だけど、今回は無理を言って、白魔法の文献を見せてもらった甲斐があった。
かなり情報を得ることができたのだから。
私は王太子宮殿に戻り、今度は王城の設計図を見せてもらっていた。
思っていたより、広い敷地面積に唖然としているところだった。
王都の半分は王城の敷地面積なのではないだろうか。
王城外にある魔法学園の敷地面積を入れると凄いことになりそう。
王都だけでもかなり広いのに。
王城の設計図の資料を机に置かれただけで、目眩を起こしそうだった。
「何か調べるなら手伝うよ」
ローレル様の言葉に、私は曖昧な笑みを返す。
「ローレル様はローレル様のお仕事がありますでしょう? 私は今日、王太子宮殿から出ないとお約束しますから」
少し早口で、私はローレル様に言った。
今日は朝が早かったけど、本来ならローレル様はご自身の執務室に行って仕事をしている時間帯だ。
ローレル様がいないと、できない仕事も絶対にあるはず。
「私のせいで、他の方のご迷惑になってしまいます。それは嫌です」
私はしっかりとローレル様を見つめて、強めの口調で言った。
ローレル様が心配してくださっているのは痛いほど伝わってくる。
フローラ嬢がいつ仕掛けてくるか分からない現在、やるべきことはやっておかなくてはいけない。
それはローレル様もお分かりになっているはず。
「……分かってはいるのだけどね」
ローレル様は肩をすくめた。
「私は私に出来ることしかしません。出来ることは限られてます。でもローレル様はしなくてはいけない仕事がたくさんあるでしょう?」
そう、私に出来ることは限られている。
だからこそ、私は私に出来ることを最大限にやりたい。
ローレル様は私の言葉を聞いてため息を漏らす。
私が無理をすると思われていることが伝わってくる。
今朝のローレル様とのやり取りの中で、もしもの時のために魔力量を減らしたくはない。
フローラ嬢と対峙した時に魔力切れを起こしてしまったら洒落にならない。
自分の身は自分で守る。
バウム子爵家の教えである。
自分を守るための体術は習得している。
体術はフローラ嬢には有効ではないかと思っていた。
白魔法がどのようなことが出来るのか、はっきりとは判明していない。
精神支配だけなら、なんとかなるかもしれない。
しかし、これはフローラ嬢が他の魔法に精通していない場合である。
他にも多数魔法が使えたのなら、お手上げになってしまうけど。
そこは考えても仕方がないことだし。
そんな考察ばかりをしているわけにはいかない。
「フローラ嬢が潜伏出来そうな場所を王城の設計図から調べてみます」
これなら魔力量は使わない。
これから住み続ける私が王城のことも知れて、一石二鳥である。
それでも、ローレル様は動かない。
私を心配しているのが伝わってくる。
ここにはアンジェリカもネリーさんもいる。
そして、元から金色の瞳をしている人のみを王太子宮殿に配置してもらった。
これで今のところはフローラ嬢対策は万全である。
「このブルーダイヤモンドに、緊急時にローレル様へ伝達する魔法を付与することは出来ますか?」
ラズベリーさんと対面した時の録画機能付きのネックレスである。
ブルーダイヤモンドとダイヤモンドが交互に一カラットずつ、五つ連なっているものだ。
とても気に入っている。
たとえ、録画機能が付与されていても。
デザインも私好みだし、他のネックレスと違って大粒の宝石がゴチャゴチャとしていない。
あと軽い。
あまりに大ぶりの宝石で構成してあるネックレスは、とても重たい。
精神的にも重たい。
だから、このブルーダイヤモンドのネックレスが気に入っているのだ。
一カラットのダイヤモンド二粒。
一カラットのブルーダイヤモンドが三粒。
改めて見ると、これはなかなかのお値段がするはずである。
そこには目を瞑る。
「緊急伝達の魔法か!」
ローレル様は顔を輝かせている。
どうやら、ローレル様はその魔法付与が出来るらしい。
反対に、出来ない魔法はあるのだろうかと不思議になる。
「一度、外しますか?」
「大丈夫。このままでも出来るよ」
ローレル様は、私のネックレスのブルーダイヤモンドに緊急伝達魔法を付与した。
しかも強力な魔法付与。
その上に保護魔法を二重で施す。
このネックレスに録画機能と緊急伝達の魔法付与が施されているなんて、誰も思わない。
そして残りのダイヤモンド二つに、私が触ってほしくない人から触られると高圧電流が流れる魔法付与も施していただいた。
普通のダイヤモンドの方にも保護魔法をかけた。
これで、このネックレスのダイヤモンドに色んな魔法付与がしてあるなんて、誰にも思わないだろう。
さすがローレル様である。
「……録画機能、そのままで良いの?」
躊躇いながらも、ローレル様が頼りなさそうに言ってくる。
まさか気に入って毎日そのネックレスをつけるようになるとは、ローレル様さえ思わなかったのだろう。
「何かあった時に、私の身体を守ってくれる大事なネックレスですからね。デザインも素敵ですし。この三つのブルーダイヤモンドの色は、ローレル様の瞳の色ですからね」
そして私は知っている。
ダイヤモンドとブルーダイヤモンドの石言葉を。
ダイヤモンドは、「永遠の絆」「純潔」「清浄無垢」「変わらぬ愛」「不屈の精神」。
ブルーダイヤモンドは、「永遠の幸せ」「絆を深める」「幸福を願う」である。
石言葉の話をローレル様の口から聞いたことはないけど、石言葉まで把握していそうだ。
それも含めて、このネックレスを私にプレゼントしてくださったに決まっている。
このネックレスは、ローレル様が私のために用意してくれたネックレス。
石言葉の意味まで知ってしまうと、邪険には扱えない。
あと録画機能は証拠にもなる。
過剰防衛ならないように、私自身への戒めにもなるし。
「異変を感じたら迷わず、私のことを呼ぶんだよ、メリッサ。絶対に一人で対応しようとしないで。約束だよ」
ローレル様の言葉に、私はブンブンと大きく首を上下させた。
未知の魔法相手に、私ができることなんてほとんどない。
バックアップを多少手伝えるだけだ。
猫の手も借りたい現在の状況。
猫の手くらいには役に立てるかもしれない。
「本当に無理はしないようにね、メリッサ」
返事をする前に、私の口はローレル様の唇で塞がれていた。
この部屋にはアンジェリカとネリーさんがいるのに!
「良い子にしておかないと、夜はお仕置きだからね」
いたずらっ子のようにローレル様は笑っている。
お仕置きとは?
怖くて聞けない。
「ローレル様、い、いってらっしゃい、ませ」
短い文章なのに何度もつっかえて、なんとか答えた。
ローレル様は満面の笑みを浮かべ、私に甘い声で囁いて言った。
「行ってくるね。お昼には一度戻るよ」
笑みを浮かべて、ローレル様は王太子の執務室へと向かった。
いつもより足取りが早い。
ローレル様は多忙のはずだ。
ローレル様を王太子宮殿で見送った後、私は執務室に戻った。
私の執務室には膨大な量の設計図が所狭しと置かれ、大きな机から今にもこぼれ落ちそうになっている。
まずは中央部分の設計図から広げる。
かなり分かりやすく、簡略化して書き直した方が良いかもしれない。
殺されそうになっているのは、間違いなく私なのだから。
私は改めて、王城の地図と障壁の設計図を広げた。
王城は広いと思っていたけど、これほどまでとは。
王宮騎士団の本部も王宮魔法師団の本部も王城にある。
それぞれの未来の騎士や魔法師たちが通う養成機関も王城にあるし。
王都の半分以上が王城の敷地である。
住み込みで働いている人も多いから仕方がないか。
まずは王太子宮殿の設計図から見ていくことにした。
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