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狙いと標的


私は気を取り直すために深呼吸をした。

先程までローレル様に伝える内容を頭の中でまとめていたのに、全て吹っ飛んだ。


ちゃんと説明しなくてはいけないのに。

報連相は重要だから、しっかり話したかった。


ローレル様はまだ笑っているようだし。


「それで? 何が分かった?」


「白魔法、です」


私の返答に、ローレル様の空気が張り詰めるのが伝わってきた。


ラズベリーさんが言っていた通り、白魔法はまだベイリーフ王国の上層部でも一部にしか知らされていないようだった。


本当にラズベリーさんはエリートなんだと、改めて思った。

凄いな。


「ラズベリー・ハーブから、白魔法のことを聞いた?」


「はい。白魔法のことをローレル様は知っていたから、先日フローラ嬢が貴族牢から逃走した時、私のことをあんなにも心配なさったのでは?」


「そうだよ」


「もう、一人犠牲になっています。情報を私にも共有してください。全てとは言いません。ローレル様が私に教えられる範囲で結構です」


ローレル様は、私を抱きしめる腕に力を込める。

少し悩まれているようだ。


「……分かった」


「良かった。ここで駄目だと言われたら、私はラズベリーさんとの話し合いで得た情報を、ローレル様に言えなくなってしまうところでした」


私は冗談めかして、ローレル様に言った。


「でも、全部は言えない。そうだろう?」


ローレル様が静かに呟く。

確かにその通りだった。


「言えることは言いますよ。と、言うか……ローレル様のご助言をいただかないと、私は身動きできないのが現状です」


「メリッサ自身が動かなくても良いよ」


「ですが、フローラ嬢の狙いはローレル様で、標的は私です」


「……標的?」


私はローレル様の腕の中で頷いた。


「間違いないかと」


フローラ嬢はローレル様に一目惚れをしたのだろう。

多分、魔法学園で。


魔法学園に入学する際、一度自ら行って、試験を受けなくてはいけない。

その時に、フローラ嬢はローレル様を見たのだろうと推測できた。


これ以外にはありえない。

お披露目の夜会にいたのだって、ローレル様に会うためだったはず。


それなのに、皮肉にもその夜会は結婚のお披露目だった。

一目惚れした人が、時をそんなに経ずに結婚してしまうなんて思ってもいなかったはず。


しかも婚約ではなく、結婚。


あれだけ私を睨んでいたのも納得できた。

私のことが憎かったに違いない。


「なぜ、メリッサを標的にする? 夜会までメリッサはフローラ嬢と会っていないはずだし。私を狙う、とはベイリーフ王国の転覆を謀ろうとしているのか」


「違いますよ。彼女はそこまで企んではおりません……え?」


私はローレル様の言葉に、少し違和感を覚えてしまった。


この言い方だと、ローレル様は私とフローラ嬢が会ったことがないと確証を持っている。


「なぜ、私が夜会までフローラ嬢と会ったことがないと断言できるのですか?」


疑問に思い、私はローレル様に尋ねた。


「私も会ったことはない。正確には、フローラ・フラワーを見かけたことがある。魔法学園で」


やっぱりと、ローレル様の説明を聞いて思った。


でも、それでもおかしい。

私も同じ魔法学園に通っていたのに。


「フローラ・フラワーが魔法学園に来ていたのは、卒業式が終わり、卒業パーティが始まってからだ。メリッサは卒業式が終わったら、素早くバウム子爵家のタウンハウスに帰って行っただろう」


ローレル様が詳しく説明してくれる。


なるほど。

確かにその通りだった。


本当にローレル様は、私の行動をよく知っていらっしゃる。


位置特定の魔法で、私の存在位置を完璧に把握している。

一歩間違えばストーカーですけどね。


位置特定の魔法。

……どのくらいの範囲で、その魔法を使えるのだろうか。

気になる。


「偶然、正門近くですれ違った。フローラ・フラワーと目は合ったが、会話はしていない」


「では、その時ですね」


「何が?」


「フローラ嬢がローレル様に一目惚れをしたのがです」


私の返答に、ローレル様が無言になる。


間違いなく、フローラ嬢はその時にローレル様に一目惚れをした。

ここまで素敵な人って、普通はいない。


しかもローレル様は王太子。

気品が溢れている。


今までも、そうやってローレル様に一目惚れした令嬢はかなりいるはず。

今回はたまたま、フローラ嬢が特殊魔法の使い手だった。


だから、このようなことになってしまった。

一人の命が失われている。

とても重大なことだ。


フローラ嬢はローレル様に会うために、人の命を奪ってしまった。

それが故意だったのか、偶然そうなってしまったのかは分からない。


ローレル様に会いたいから、今も王城に潜伏しているのだ。

そうでなければ、さっさと王城から逃げ出していただろうし。


「……メリッサ、もしかして王太子妃の座をフローラ・フラワーに譲ろうなんて、考えてないよね?」


「考えてもいなかったです」


私は即答した。


そんなこと思いもしなかった。

ローレル様が別の女性といるなんて、想像するのも嫌だ。


王太子妃は私。

誰かに譲るなんてありえない。


「良かった」


心底安堵したような声で、ローレル様が言った。

もしかして、私が本当に王太子妃の座を譲るかもしれないと思われたの?


「ローレル様の隣は私の場所です。誰にも渡しません」


私はローレル様に伝えた。

これはちゃんと伝えておかなければいけないと思った。


「きっとローレル様が思われているより、私はローレル様のことが好きなんです」


「……このまま、私の気が済むまでメリッサを抱き潰したい」


ローレル様が小声で呟く。

私の肩に顔を埋めながら。


未経験者の相手になんてことを言うのだろうか、ローレル様は。

普通に怖いです。


私は聞こえなかったふりをすることに決めて、口を開いた。


「新しく発見された白魔法の文献を見てみたいです」


これは確認しておきたい。

そして、ローレル様にも意見を聞きたい。


ラズベリーさんが見落とした何かを、読み取ることができるかもしれないし。

良ければ、シトラールお兄様にも見てもらいたいのだけど、無理かな。


「分かった。手配しておく。もちろん私も立ち会うから。これだけは譲れない」


「もちろんです。ローレル様がいてくださると心強いです」


私は即答した。


ローレル様もご一緒の方がありがたい。


「それにしても、白魔法か」


ため息を吐きながら、ローレル様は訝しげに言った。


失われた魔法のはずの白魔法。

思っていた印象と全く違った魔法だった。


調べれば、このような魔法がもっとあるのかもしれない。


白魔法も、病を治す、精神を操る。

これ以上に、何か使える魔法があるかもしれない。


魔法を使う人間の魔力量と素質も関係してくるかもしれないし。

検証をじっくりする時間は、今はない。


ローレル様と私の結婚式までは、あと十日。

それまでに、フローラ嬢は行動を起こすはず。


色々と考えていたら、眠くなってきてしまった。

横になっているからだろうか。


段々と、考えることができなくなっていく。

……なんで、こんなに眠いのだろう。


欠伸を噛みしめる。


ローレル様がせっかく時間を取ってくださっているのに。

まだまだ確認しなくてはいけないことがたくさんある。


眠っている暇なんてない。


「メリッサ、眠って良いよ」


「でも」


「先ほど飲んだお茶の効能が出てきたんだ」


私はベッド脇のテーブルに置いてあるティーカップへと視線をやる。

確か、魔力回復と体力回復の成分が入っていた。


それの効能……副作用?

なんで?


「メリッサの身体が回復しようとしているんだ」


確かに、その副作用は知っている。

でも、こんなに効き目が出てくるなんて。


私の魔力量が多ければこんなことにはならないのに……。

悔しいし、悲しい。


「白魔法、シトラールお兄様とマレイン様、あとハーツ様は大丈夫です。アンジェリカとネリーさんも」


私は必死に口を動かす。


眠ってしまう前に、伝えなくてはいけないことは伝えておかなければ。


「これは無理にとは言いません、が、ローズマリー様と、アレックス様にお話を聞いて、みたい、で……」


「うん、分かったよ。メリッサは安心して休んで」


ローレル様が私の髪を梳きながら言ったのを聞いて、私は瞼を閉じ、意識を手放した。

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