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この想いは成長する



ローレル様が身体を硬直させていらっしゃる。


いきなり過ぎてしまったけれど。

私の気持ちは嘘ではない。


それを伝えたかっただけなのに。


ローレル様は何かを言おうとして、口を開けてから閉じた。

そして、大きく息を吐く。


「メリッサ……このタイミングで言うなんて、卑怯じゃない?」


ローレル様は口ごもりながらも、言葉を紡いだ。


確かに。

自分でも卑怯だと思う。


現在、私たちがいるのは王宮魔法師団の狭い倉庫の一室。

無理を言って至急用意してもらった部屋だから、とても殺風景だ。


「気がついた時にお伝えした方が良いかと思いまして」


私は笑いながら答える。


本当は、今気がついたわけではない。

最初は、こんなに大きな気持ちではなかった。


ローレル様への気持ちに気がついた時は、まだ石ころのように小さかった。

それが、いつの間にか大きな岩へと変化していったのだ。


大きく、硬い岩。


この巨大になってしまった気持ちを動かすなんて、絶対にできない。

誰であろうと、この気持ちが変わることはないのだから。


気持ちとは育っていくものだと、私は初めて感じた。

時間をかけて、ゆっくりと。


私のローレル様への想い。


ローレル様が私へ愛情を注いでくださったから、この気持ちは育った。


石ころだった小さな気持ちの時でさえ、ローレル様とずっと一緒にいたいと思ってしまっていた。

小さな石ころでも、最初から凄く重かったのだ。


自分でも信じられないほど。


私が誰かに恋をするなんて思ってもいなかった。

恋愛小説を書いているのに。


恋愛小説を読むと、恋する気持ちには共感できる。

でも、自分が恋をすることは、私の中では全くの別物で。


想像はできるけれど、実際に恋をするなんて思ってもいなかった。

小説を読んでいる時も、書いている時も、私が住んでいる世界とは別の世界のことだとさえ思っていた。


それくらい、私とは関係のない世界だと信じていたのに。


ローレル様が教えてくれた。

恋をするということを。


確かに順番は逆だった。

だけど、この順番でなければ、私は恋を知らないままだったのではないかと思う。


「今、凄くメリッサを抱きしめたい」


ローレル様が小声で呟く。


「どうぞ」


言いながら、私は椅子から立ち上がり、両手を広げる。


この狭い部屋には現在、幸いなことに私とローレル様しかいない。

周りに誰かいたなら、こんなこと絶対に言えない。


誰もいないからこそ、大胆な行動ができた。

ローレル様も立ち上がり、私へ近づいて、力いっぱい抱きしめてくる。


ローレル様の匂いがする。

とても幸せな匂い。


私は最初から、ローレル様に触れられることに違和感はなかった。


リモネンお姉様は、元婚約者の方には嫌悪感しかなかったと言っていた。


でも、私は違う。


最初から、ローレル様に嫌悪感なんて微塵もなかった。

これが答えだったのだと、今なら分かる。


ローレル様に抱きしめられても、やはり嫌悪感はない。

それよりも、ローレル様に抱きしめられて、幸せだと感じる。


ローレル様も私と同じ気持ちでいてくれると良いなと思ってしまう。


私もローレル様を抱きしめた。


誰よりもローレル様に幸せになってほしいと願ってしまう。

そして、私がローレル様を幸せにしたいと無意識に思ってしまう。


「しかし、私の方がメリッサのことを好きなのは間違いない」


ローレル様は私を抱きしめながら、そんなことを言う。


「きっとすぐに、私も同じ気持ちになりますよ」


私は答えた。


間違いない。

そんな予感がする。


これはバウム子爵家の娘としての直感。

この直感は外れない。


バウム子爵家の血が、そう言っている。


この気持ちは、まだ成長しているのを実感する。

きっと、これからも成長を止めることはないだろう。


まだまだ、この気持ちは大きくなるはずだ。


「……このまま、メリッサを王太子宮殿に連れて帰りたい」


「これから、ラズベリーさんとの会談ですから、すぐには無理です」


ローレル様の言葉に、私はそう返した。


私の返答に、ローレル様は黙り込む。

少しだけ、考え込むような表情をしている。


ローレル様のお綺麗な顔を見るのは、かなり恥ずかしいけど。


「ローレル様も私の異次元部屋へ入られたではないですか。大丈夫ですよ」


私はローレル様に告げた。


ローレル様が一度確認してみたいと仰ったので、魔法を見せた。

呆然となさっていた。


この疑似結界部屋に人を入れるのは、初めてだったから少しは不安だった。

でも、相手は魔力が減ることもなく、体調不良を起こすこともないと確認できた。


ちなみにアンジェリカにも、この魔法の臨床実験に付き合ってもらった。

他者を入れても大丈夫だとは思っていたけれど、誰かに付き合ってもらったことはなかったから。


あの異次元部屋は、とても特殊なものだ。

室内の家具はそのままだけど、部屋の床、壁、天井の全てが真っ白になる。


異空間になっているのだと実感してしまう。

魔法を使っている私も、精神的にくるものがある。


長時間だと、精神に異常をきたしてしまうのではないかと思うほど。

一人で長時間いるには向かない部屋だと、私自身も思う。


異空間に荷物を入れる部屋が作れないかと思った途中で、偶発的にできてしまった魔法である。


結局、魔力は使うし、部屋自体を無限に作ることはできない。

一人になりたい時に隠れる部屋にもならない。


強盗などが侵入した時、一時的に隠れる場合は有効かな、とは思ったけれど。

異次元部屋にいる限り、外の様子は全く分からない。


それでは意味がないと結論に至った。


元の部屋に戻った時、強盗と鉢合わせすれば、虚を衝くことはできるかもしれない。

でも、こちらも相手がどこにいるか把握できないから、相手を完全に制圧できる保証もない。


正直、メリットは何もない部屋になってしまっていた。


この魔法を考えついたのは、魔法学園入学前だったと思う。


この魔法は全く役に立たない。

その上、長時間使うことに関しては、大量の魔力量を持っていても向いていない。


そして精神衛生上、良くない。

ということで、忘れてしまっていた魔法である。


この魔法のことを忘れ去っていたので、よく思い出したと自分でも驚いてしまった。

ただ、完全な異次元にいるため、音は漏れないかもしれないと思った。


試したことはなかったけれど。

初めてこの魔法をローレル様に確認していただいたところ、成功したようだった。


まぁ、別の次元に室内の疑似結界ごと移動するのだから、声と姿が他者に漏れない確率は高いとは思っていた。

あと、他者に疑似結界内を覗き見されることも、盗聴される心配もないと思った。


真っ白の部屋だけはどうにかできたなら、まだ違ったかもしれないけど。


白いのに、発光した明かりが灯ったように見えるのもいただけない。

不安を増長させる原因になる。


大丈夫な人は大丈夫かもしれないけれど、私は好きになれそうにない。


そしてローレル様の話を聞く限り、誰もいない空っぽの部屋は気味が悪いと思った。

普通なら絶対に何かあると思ってしまうのが自然で、警戒されてしまうのも仕方がない。


うん。

この魔法はやはりメリットが少ない。

改めて思った。


改善改良を行っても、意味はないと改めて感じる。

時間と魔力を無駄にするだけである。


今、私たちがいる王宮魔法師団本部のこの部屋でも、異次元部屋の魔法を試してみた。


二十四時間くらいなら私の魔力量でも維持できるというのが、なんとなく肌感覚で測れた。

魔力切れを起こすことはなさそう。


ラズベリーさんに対して、そこまで警戒しなくて良さそうだから、そちら方面でも魔力が減ることはなさそうだし。


「大丈夫ですよ、ローレル様」


「……分かっている」


私の言葉に、ローレル様は答える。


あまり納得はできていなさそうな返事だった。


反対の立場だったら、私も心配してしまうと簡単に想像できた。


ローレル様と抱き合っている時に、扉をノックする音が響いた。

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