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王宮生活と親友


「……本当に、メリッサ様?」


呆然としながら、アンジェリカはもう一度私の名前を呟いた。

瞳を大きく見開いている。


半信半疑、といった様子だ。

私もこの王宮にアンジェリカががいるなんて思ってもいなかった。


アンジェリカ・パトーキ。


侯爵家の惣領娘であり、魔法学園で私と一番仲の良かった親友である。

薄い紫色の真っ直ぐな髪に、すみれ色の瞳。


顔立ちも整っていて、近づくのをためらってしまうほどの美少女だった。

けれど、彼女が有名だった理由は外見だけではない。


――むしろ、その生い立ちのほうだった。


庶子。

その立場が、彼女を常に注目の的にしていた。


周囲は腫れ物に触るように接し、アンジェリカ自身もまた距離を取っているように見えた。

それでも彼女は顔を上げ、高位貴族としての矜持を胸に、凛として立ち続けていた。


――それが、私の知るアンジェリカだ。


(……やっぱり、格好いいな)


庶子なのは彼女のせいではない。

それなのに、理不尽に扱われることが多い現実に、私はずっと違和感を抱いていた。


だから私は声をかけた。


結果、私たちは親しくなり――

学園ではずっと一緒に過ごしていた。


彼女は、下位貴族である子爵令嬢の私にも気にすることなく接してくれた。

見下すこともなく、常に対等に接してくれたのだ。

それが、どうしようもなく嬉しかった。


――初めてできた、友達だったから。


卒業すれば、もう簡単には会えなくなると思っていたのに。

まさか、こんな形で再会するなんて。


しかも魔法学園を卒業したのは一昨日である。

突然の再会に私は歓喜してしまった。


嬉しい。

本当に、嬉しい。


けれど同時に、昨日からの出来事が一気に押し寄せてきて、涙がこぼれそうになる。

アンジェリカの顔を見て安堵してしまったのだ。


昨日から非日常過ぎてどうしてよいか分からなくなってしまっていたから。


(……だめ、ここで泣いたら終わる)


なんとか堪える。


するとアンジェリカは何かを察したのか、ローレル殿下と私に向かって深く頭を下げた。


「この度はご婚約おめでとうございます」


少し嬉しそうな声。


(いや違う、そこじゃない)


思わず心の中でツッコミを入れる。

私は呆然としながらアンジェリカを見返してしまう。


確かに年頃の王太子宮殿に令嬢がいたから問題なのだろうけど。

どうして、そのように思えるのか。


魔法学園でずっと一緒にいたから、アンジェリカは私がローレル殿下と親しくなんてなかったことを知っているはずなのに。


「パトーキ侯爵令嬢、私とメリッサ嬢は結婚したんだ。昨日に」


ローレル殿下がさらりと言った。

婚約をすっ飛ばして結婚してしまったことは秘密ではないのか。

ローレル殿下を見つめながら、そんなことを思ってしまう。


「え?」


アンジェリカの目が大きく見開かれる。


無理もない。

私だってまだ理解が追いついていない。


「婚約……ではなく、いきなり結婚ですか?」


少し呆れたような口調。

だよねー。

普通そう思うよねー。


でも、アンジェリカは何やら納得した表情を浮かべていた。


(ちょっと待って、そこ納得しかけてない?)


そんなことを思ってしまう。

アンジェリカを連れてきた年配の侍女が、厳しい目で彼女に向けていた。


――違うから!

悪いのはアンジェリカじゃないから!


(というか半分はローレル殿下のせいだから!)


内心で全力弁護する。


「アンジェリカ様こそ、どうして王宮に? それに、その格好……」


私が尋ねると、アンジェリカはいたずらっぽく笑った。


「実家から家出してきちゃった」


あっけらかんとした答え。


「……惣領娘なのに?」


思わず言ってしまう。

いつものアンジェリカで安心する。


「パトーキ嬢は侍女研修を始めたばかりで忙しいだろう。だが、一日に一度はメリッサ嬢とお茶をする時間を作ってくれ。調整を頼む」


ローレル殿下が侍女へと指示を出す。


え?


「毎日……会えるの?」


思わず声に出る。


「もちろんだよ」


ローレル殿下は穏やかに微笑んだ。


「ありがとうございます、ローレル殿下!」


私とアンジェリカの声がぴったり重なる。

顔を見合わせて、思わず笑ってしまう。


立場は変わっても、私たちは変わらない。


そんな私たちを、ローレル殿下はどこか満足そうに見つめていた。



   ■□■□■□■□■□



アンジェリカが侍女研修へ戻った後、私は改めてローレル殿下へと向き直った。


「アンジェリカ様のこと、本当にありがとうございます」


改めて心からの感謝を伝える。


アンジェリカは惣領娘であるから、望まぬ婚約を押し付けられる可能性が高かった。

それを考えると――今の状況は、きっと彼女にとっても救いだ。


この王宮で結婚相手を自分で探すことも出来そう。

アンジェリカなら、それが可能だ。


「彼女は優秀だからね。王宮で働いてもらうのも悪くないと思っていたんだ」


ローレル殿下が、さらりと言う。

その評価が、自分のことのように嬉しかった。

アンジェリカはとても優秀なのだ。


(……ちゃんと見てくれてるんだな)


「メリッサ嬢もパトーキ令嬢がいるなら、少しは安心できるだろう?」


「はい、お心遣い感謝いたします!」


私は心からローレル殿下に感謝した。


「今は、メリッサ嬢がこの王宮で平穏に暮らせることが一番だからね」


「はい、頑張ります!」


思わず力が入る。

何を頑張ればよいか、今は見当もつかないけど。


「ほどほどでいいよ。無理はしないで」


やわらかい声。


「何かあれば、私かパトーキ令嬢、あるいは侍女たちに相談して」


そう言って、ローレル殿下は立ち上がった。


(あ、公務だ)


「ご公務ですか?」


「うん」


短く頷く。

私は慌てて立ち上がり、殿下の前へと回った。


「ご公務、頑張ってください」


――ありきたりな言葉しか出てこない。


(もうちょっと、気の利いたこと言えないの私!?)


内心で軽く落ち込む。


その瞬間だった。

ふわりと、体が引き寄せられる。


「え?」


気づけば、ローレル殿下の腕の中だった。

距離が近い。近すぎる。


そして――


頬に、軽く触れる柔らかな感触。


「……え?」


私は思わず自分の頬に触れる。

何が起きたのか理解できないまま、呆然とローレル殿下を見上げる。


「それじゃあ、行ってくるよ」


まるで何事もなかったかのように微笑む。


「あ、いってらっしゃいませ……」


私は混乱したまま、小さくそう返すことしかできなかった。


読んでいただきありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

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