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9/21

探検と隠し部屋



ローレル殿下が公務に向かわれた後、私は改めて自分の部屋を確認することにした。


どこか、子どもの頃のような――小さな冒険気分だ。


……まあ、王太子妃になった実感がまったくないから、こんな気楽なことを考えていられるのだろうけど。

そもそも、このまま本当に王太子妃として定着するのかも怪しい。


(何かの間違いでした、って言われる可能性の方が高くない?)


……うん。

あり得そう。


それなら。

楽しめるうちに楽しもう。


そう前向きに考えることにした。

現状は変わらないのだから、把握しておくに越したことはない。


今朝目覚めた部屋は、どうやら王太子夫妻の寝室だったらしい。


――そして。


私の個人の寝室は、別にあった。


(別にあるんかい!)


思わず心の中で全力ツッコミを入れる。


……え、じゃあ。

昨夜、同じベッドで寝る必要、なかったよね?


最初からこちらで寝かせてほしかった。

ローレル殿下の綺麗な顔が至近距離にあるだけでも心臓に悪いのに、


抱きしめられていたとか――


(本当に何を考えてるのあの人……)


凡人の私には、一生理解できる気がしない。

むしろ。


(王太子妃とか、やれる気がしないんだけど)


一気に不安が押し寄せる。


それにしても。


広い。

とにかく、広い。


寝室だけではない。


居間、サロン、執務室、図書室、書斎。


さらに廊下を挟んだ先には、日当たりの違う部屋がいくつもあり、そこにはドレスやアクセサリーが保管されていた。

その数、なんと四部屋。


(いや、いつ用意したのこれ)


ドレスの量も尋常ではない。

ドレスルームって本当にあるんだと感心してしまう。


しかも――


どれも、私の好みがしっかり反映されている。


疑問ばかりで疲れてきた。

もう深くは考えないようにしよう。


淡いイエローと空色のドレスが多い。

ローレル殿下の髪と瞳の色。


(……いや、気づくとちょっと恥ずかしいんだけど)


なんだか妙に気恥ずかしくなる。


それに。


(私、これ似合うのかな……)


好きな色とデザインではある。


でも、似合うかどうかは別問題だ。

黒に近い茶髪の自分より、もっと淡い髪色だったら似合った気がする。


ちなみにアクセサリーには触れない。

高そう。

怖い。


……少しだけ、憂鬱になる。

さらに、専用の浴室、フィッティングルーム、メイクルーム。


(いや本当に全部私専用なの?)


もったいない。

というか。


(お風呂はまとめてよくない?)


広すぎると、それはそれで移動が大変だし、管理も面倒だ。


……まあ、掃除は侍女やメイドたちがしてくれるのだろうけど。

それでも。


(これ、罰当たらない?私)


不安になるレベルだ。

全てが豪華過ぎる。


王族ってこんなものなの?

未知の世界過ぎて普通が分からない。


一番奥の書斎に入ると、机の上に丁寧に置かれたメモが目に入った。

わざと目立つ位置に置かれている。


それを手に取る。

私に向けられたメモだろう。


――ローレル殿下の筆跡だ。


『奥の書棚を動かすと隠し部屋がある。

そこから階段を上がると執筆部屋になっている。

必要なものは揃えているつもりだが、不足があれば遠慮なく言うように』


「…………」


一瞬、呼吸を忘れた。


(え)


これって。

私が小説を書いていること――

バレてるってこと?


顔が一気に熱くなる。


(嘘でしょ!?)


家族には隠していない。

アンジェリカにも話している。


でも。


なんでローレル殿下が知ってるの!?

私は恐る恐る書棚を動かした。


書棚が動く。


――本当にあった。

隠し階段。


上がっていくと、そこには小さな部屋があった。


広くはない。

少し大きめの机と書棚、


そしてソファと簡易ベッド。

完全に――。


執筆用の部屋だ。


窓はあるが扉はない。

外から見えない構造になっている。


(……執筆で、こもる前提だよね、これ)


誰にも邪魔されないように作られた空間。

つまり。


(書き続けていいってこと……?)


胸がじんわり温かくなる。

ローレル殿下の配慮に、素直に感謝した。


部屋の内装は、薄い水色とアイボリーで統一されていた。

――私の好きな色。


(……いや、これ偶然?)


薄い水色は、ローレル殿下の瞳の色でもある。

なんだか。


(私が殿下のこと好きみたいじゃない?)


……いや、嫌いではないけど。


でも。

今までずっと“雲の上の人”だった。


正直、ローレル殿下のことはよく知らない。


素敵な王太子殿下。

外見も内面も、全てが完璧な人。


魔法学園時代、3年間同じクラスでローレル殿下をそれとなく観察していた。

やっぱり王太子殿下だから気になるし。


魔法学園を卒業したら会うこともないと思っていた。

私が貴族籍を離れても、彼が国王になってもきっとベイリーフ王国は今以上に豊かになる。

国が荒れることはない。

だから、平民になっても問題がないと思ったのだ。


(殿下だって、私のことそこまで知らないはずだし)


きっとこれは、部下が調べたのだろう。

その方がしっくりくる。


(……うん、そういうことにしておこう)


気づけば、探検は昼まで終わらなかった。




■□■□■□■□■□




昼食はアンジェリカと一緒にとることになった。


彼女がいるだけで、安心感がまるで違う。

私は疲れていたけれど、アンジェリカも相当疲れているようだった。


「大丈夫?」


思わず尋ねる。


「思っていたより大変」


アンジェリカは苦笑しながら答えた。

でも、その表情はどこか楽しそうだ。


「礼儀作法、ちゃんと勉強してきたつもりだったんだけど……まだまだだった」


アンジェリカはパトーキ侯爵家で一流の教育を受けてきたはずだ。

それでも苦戦するほど、王宮は厳しいのだろう。


私は少し不安になる。

そんな私に気づいたのか、アンジェリカは優しく笑った。


「でもね、嬉しいの」


「え?」


「これからメリッサ様の力になれると思うと、時間が足りないくらい」


まっすぐな言葉。

真剣な瞳。


「もっと学生時代、頑張っておけばよかったなって思うくらい」


「アンジェリカ様は、すごく頑張ってたよ」


それは、私が一番知っている。

魔法学園時代、全てにおいて全力投球だった。


「それでも足りないの」


アンジェリカは迷いなく言い切った。


「これからメリッサ様は外交もあるし、支える人が必要でしょ?」


「……」


「だから、私が一番役に立ちたい」


「……ありがとう、アンジェリカ様」


胸がいっぱいになる。


(あ、また泣きそう)


必死にこらえる。

泣いたらアンジェリカを心配されてしまう。


「……私に、王太子妃なんて務まるのかな」


ぽつりと弱音がこぼれた。

ずっと思っていたこと。

アンジェリカの前だから、言えた。


「メリッサ様以外に務まる人の方が想像できないけど?」


あっさりと返される。


(え、そんな即答?)


でも。

アンジェリカは嘘を言わない。


「早くメリッサ様の専属侍女になれるように頑張るから」


力強い宣言。

私は頷いた。


「じゃあ私も、アンジェリカ様に恥をかかせない王太子妃になる」


そう決めた。


読んでいただきありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

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