私とラズベリーさんの秘密
「それは必要なこと、なんだね?」
ローレル様が私へと真剣に確認してくる。
「はい。もしかしたら、ラズベリーさんは情報を持っているかもしれません」
私もローレル様をしっかり見返して答えた。
可能性はゼロではない。
きっと、何かしらの情報をラズベリーさんは持っているはず。
「メリッサは、ラズベリーがフローラ・フラワー嬢と手を組んでいると言いたいのか?」
私の言葉に異を唱えてきたのは、意外にもシトラールお兄様だった。
珍しく怒っている。
しかも、彼女のことを呼び捨てである。
思ったより、二人の仲は進展しているようだ。
シトラールお兄様は怒っているが、私は顔がにやけるのを止められない。
こんな場面でなければ、根掘り葉掘りラズベリーさんとのことを聞きたい。
なんとかその気持ちを抑える。
そんな私を、シトラールお兄様は睨んでいる。
かなりラズベリーさんを信用しているようだ。
シトラールお兄様の様子を見て、ラズベリーさんがフローラ・フラワー嬢と手を組んでいることはない、と判断できた。
ここまでシトラールお兄様がラズベリーさんを信用しているのだ。
ラズベリーさんがフローラ・フラワー嬢に肩入れしているとは思えない。
シトラールお兄様がここまで信頼を寄せている人なのだから。
「ラズベリーさんがフローラ・フラワー嬢と手を組んでいないことは、シトラールお兄様が一番よくご存知なのではないですか?」
私は冷静に言い返す。
伊達にバウム子爵家の血筋ではない。
騙されるなんて、あってはならない。
バウム子爵家の中でも、シトラールお兄様はとてつもなく慎重派なのだから。
シトラールお兄様は口を噤む。
何も言えなくなってしまったようだ。
「シトラールがラズベリーちゃんに話を聞くのでは駄目なのかな?」
マレイン様が口を開く。
多分、マレイン様はローレル様の気持ちを慮っての発言だ。
私が直接ラズベリーさんに会わなくても良い方法を考えてくださっているのだろう。
マレイン様は、思っていた以上にローレル様に忠実な方のようだ。
見た目はチャラいので意外だった。
今後、マレイン様を見る目を変えなくては。
「私でないと無理でしょうね」
私は即答で返した。
転生者であるからこそ、ラズベリーさんが話してくれる可能性は高い。
ラズベリーさんは、シトラールお兄様に嫌われたくないのだろう。
「……俺には話してくれない、と?」
シトラールお兄様が俯いたまま呟いた。
おおっと。
想像以上に、シトラールお兄様はラズベリーさんに想いを寄せている。
その事実に驚く。
好きだから言えないことってある。
私も、ローレル様にも、家族にも、アンジェリカにも、転生者であることを言えてはいない。
嫌われたくないから。
この想いは私の中で強い。
大切な人にこそ、嫌われたくない。
正直、どうでも良い相手にはそんなこと気にもしない。嫌われようと構わない。
だから、ラズベリーさんの気持ちも分かる。
自分が転生者だと伝えられないのだ。
シトラールお兄様を信用していないわけでは決してない。
「魔法学園入学直後に、ハーツ様が私に仰って、シトラールお兄様もそれに同意なさったではないですか」
「……僕が、何を言った?」
急に名前を出されたハーツ様は驚いている。
よく、あの時のことを思い出したと、自分でも感心した。
当時、私は遺憾に思ったけれど。
あの時、二人は的を射たことを言っていたのだ。
「私と似たようなものを、ラズベリーさんから感じる、と。ハーツ様の言葉に、シトラールお兄様も同意なさいましたよね?」
今度はシトラールお兄様へ視線を向け、私は言った。
「っ!」
ハーツ様とシトラールお兄様が息を呑むのが伝わってきた。
良かった。
二人とも、あの時の会話を覚えていてくれて。
「理由はそれです。多分、ラズベリーさんも分かってくださると思います」
ローレル様は少し考えてから、私を抱きしめる腕に力を込めた。
「……つまり、メリッサはラズベリー・ハーブの弱みを握っている。そして、それはメリッサの弱みにもなる。その解釈で正しいかな?」
ローレル様の言葉に、私は目を見開く。
本当に頭の回転が早い。
私はそこまで考え切れていなかった。
だけど、そういうことだ。
これは、私とラズベリーさん双方の弱みになる可能性もある。
「……その可能性はあります。誰にも知られたくないことって、ありますよね?」
そう、可能性の話だ。
もしかしたら、ローレル様は受け入れてくれるかもしれない。
バウム子爵家のみんなも。
そして、アンジェリカも。
私の場合は、受け入れてもらえる可能性は高いかもしれないと思えた。
でも、知られずにいた方が良い。
その他にも、たくさんの黒歴史がある。
出来れば、それも知られたくない。
「ローレル様も、メリッサ妃殿下に知られたくないことはありますよね」
マレイン様が笑いを押し殺しながら言う。
そりゃ、ローレル様は王太子だもの。
私に言えないことだって、たくさんあるに決まっている。
「あ、女性関係のことなら墓場まで持っていってほしいです」
私は真顔でローレル様に断言してしまった。
あ、まずい。
ローレル様が怒っている。
表情を変えずに怒るところが怖いんだよね。
そんなことは言えないけど。
それでも、女性関係の話は聞きたくない。
これは本心だった。
とにかく、私は話題を戻す。
「ラズベリーさんが私に危害を加えることはないかと……。ラズベリーさんは、シトラールお兄様のことがお好きなんですよね?」
私はマレイン様に尋ねた。
こういうことは第三者に聞いた方が客観視できる。
ハーツ様だと、シトラールお兄様側になってしまうから。
「顔が好みのど真ん中なんだって。シトラールの顔だけ見て生きていきたいらしいよ」
マレイン様の返答に、妹の私としては複雑な気持ちになる。
確かにシトラールお兄様は顔は良いけど……。
「……一応、他にも取り柄はあるのに」
思わず呟いてしまった。
妹の私から見ても優秀なのだ。
全てにおいて難なくこなす。
なのに、顔。
顔だけと言われているようで可哀想になる。
まぁ、ラズベリーさんって恋愛脳っぽいし。
そういう人って、たまにいるよね。
マレイン様が仰るのなら間違いないのだろう。
そう言えば、シトラールお兄様は自身の顔に認識阻害の魔法を使っている。
他の人には素顔が見えていない。
ラズベリーさんって、同担拒否っぽい気はする。
独占できることに優越感を抱いていそう。
彼女が大人しければ、周りは平和なのだ。
これからもラズベリーさんには、シトラールお兄様のことを好きでいてもらおう。
シトラールお兄様もラズベリーさんのこと、ちゃんと好きみたいだし。
見た目だけなら、美男美女で超お似合いの二人である。
「……」
シトラールお兄様は無言で私を見ている。
言いたいことがあるなら言えば良いのに。
「シトラールの顔が良すぎるから、メリッサは私のことを見てくれないのか」
ローレル様が私の肩に顔を埋めながら言った。
近い。
綺麗なお顔が見られないほど近いです!
「シトラールお兄様より、ローレル様の方が絶対に格好良いですよ。ラズベリーさんは見る目がないですね」
私は心から言った。
それが伝わったのか、珍しくローレル様の頬が赤く染まっていた。
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