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『青薔薇の賢妃』歌劇になるらしい……



「こちらこそ、結婚式の準備を手伝っていただき、本当にありがとうございます」


私は王妃様に頭を下げた。


実際、とても助かったのだ。

しかも、王妃様は決して無理に押し付けるのではなく、優しく助言をしてくださった。


なんて出来たお姑様なのだろう。


ドレスを選んでいる時は、自分のことで精一杯だったけれど。


「お恥ずかしい話ですが、私はお洒落が得意ではなく……申し訳ありません」


この際だから、王妃様には本音を話すことにした。


王族は流行に敏感でなくてはいけない。

それなのに、私はいくら努力しても、その方面はまったく出来そうにない。


言っていて悲しくなってくる。

王太子妃として、この時点で失格だ。


「まあ、何を言っているの? 青薔薇の魔法改良に成功したのはメリッサちゃんでしょう? それだけで快挙なのよ」


王妃様は驚いたように笑った。


「ローレルから聞いてはいたけれど、本当に自分の功績に興味がないのね」


「……功績、ですか?」


私は首を傾げた。


功績なんて、一つも思い浮かばない。

確かに青薔薇の魔法改良には成功したけれど、あれは偶然の産物だし。


「青薔薇だけではなく、緑の薔薇と赤薔薇もそうよ。薔薇を食べるなんて発想は、今まで誰も思いつかなかったの。胸を張って良いわ」


それも偶然の産物なんだけど。


……あれって、功績だったのか。

初めて知った。


「去年、ベンゾイン男爵家が治めるベンゾイン領で干ばつ被害があったでしょう?」


王妃様の言葉に、私は記憶を辿る。


確かに去年の夏、ベンゾイン領の水源が枯れ、雨も降らず、作物が極端に育たなかった事件があった。


そこまで大きな事件としては扱われなかったはずだけど。


「はい、存じております」


「バウム子爵家が真っ先に援助を行ったのよ。緑の薔薇と赤薔薇を持って。日持ちするし、栄養価は高いし。特に赤薔薇は甘いから、心を落ち着ける効果もあったと聞いているわ」


「え?」


それは知らなかった。


地理的にもベンゾイン領とバウム領は近い。

バウム領が援助を行っていてもおかしくはない。


でも、緑の薔薇と赤薔薇を食料として支援したなんて。

ベンゾイン領の領民は、さぞ驚いたことだろう。


「あと、青薔薇を肥料にしてベンゾイン領へ配布したらしいわ。おかげで今年のベンゾイン領は、これまでにないほどの収穫量になる見込みよ」


「……」


それも知らなかった。


青薔薇の肥料も活躍していたとは。

それ以前に、青薔薇肥料ってそこまで性能が良いの?


初耳なんですけど。


でも、これってもう私の功績ではないよね。

レーモンお兄様に引き継いだ案件だし。


そう反論しようとして口を開きかけた時、先に王妃様が言葉を続けた。


「“青薔薇の賢妃”として有名よ。私も鼻が高いわ」


まるで私を本当の娘のように思って、王妃様は喜んでくださっている。


それは素直に嬉しい。

でも。


私ではなく、兄の功績です、と言える雰囲気ではなくなってしまった。

それに反論したところで、レーモンお兄様は必ず否定する。


私の功績だと言い張るに決まっている。

自分が目立ちたくないから。


レーモンお兄様はそういう人だ。

まぁ、これはバウム子爵家全員に言えることだけど。


私は聞きたかったことへ話題を変えることにした。


「あの……“青薔薇の賢妃”とは、どこから出た言葉なのでしょうか? 先日、新聞で知って驚いてしまって……」


正直、この二つ名はやめてほしい。


恥ずかしすぎる。


そもそも、私には薔薇のイメージなんて絶対にないと思う。

普通、薔薇って華やかな女性に使うものでは?


「さあ……どこかしら? そこまでは知らないわね。でも来月には、ベイリーフ王国だけではなく他国にも広がるはずよ」


「他国にも?」


私は驚きを隠せず、思わず大きな声を出してしまった。

王妃様の前なのに。


というか。

ベイリーフ王国では、もう“青薔薇の賢妃”が定着しているの?


聞きたくなかった事実である。


「ローレルとメリッサちゃんの結婚式の翌週から、王立歌劇場で『青薔薇の賢妃』という歌劇が上演されるわ」


「……ひょ?」


思わず変な声が出た。


ひょって何だ。

ひょって。


驚きすぎると、変な言葉が出るらしい。

初めて知った。


私の反応に、王妃様は楽しそうに笑っている。

いえ、笑い事ではありませんよね?


何ですか。

『青薔薇の賢妃』というタイトルは。


確かに歌劇の題名にはしやすい言葉かもしれない。


でも、それより問題は。


「あ、あの……それは、どういったお話なのでしょうか? 王妃様はご存じですか?」


私は混乱しながらも尋ねた。


頭の中は疑問だらけである。

あと、自分の口で『青薔薇の賢妃』とはどうしても言いたくなかった。


とても嫌な予感がする。

気のせいであってほしい。


「もちろん、ローレルとメリッサちゃんをイメージした壮大な恋物語よ」


王妃様はあっさりと答えた。


私は衝撃を受ける。


嫌な予感が当たった!

当たってほしくなかったのに……。


しかも壮大とは?

一体どんな物語になっているの?


王妃様の前だというのに、思わず遠い目になってしまった。

現実であってほしくない。


「脚本はね、今一番人気の劇作家マートル・キンバイよ。主演女優は……メリッサちゃん役の女優は、まだ無名だけれど、クラリス・イジーで決まっているの」


劇作家マートル・キンバイは私でも知っている。


いつか彼の書いた歌劇を観てみたいとは思っていた。

けれど、それよりも。


「クラリス・イジーですか?」


知っている名前に驚いて、私は聞き返した。


「メリッサちゃん、知っているの? かなり見込みのある女優だそうよ」


「知っているも何も、バウム子爵家の家令の娘です。子供の頃はよく遊んでいました」


いわゆる幼馴染である。


私より一つ年上で、去年魔法学園を卒業している。

魔法学園在学中から演技の勉強を始めたと、本人から聞いていた。


バウム子爵家の家令の娘なので、クラリスも同じ屋敷で暮らしていたのだ。


「まあ、そうなの! 幼馴染がメリッサちゃんの役を演じるなんて、きっと運命だったのね!」


王妃様は感動している。


でも、私は血の気が引いていた。

クラリスは私のことを知りすぎている。


“壮大な私の恋物語”とやらを読んで、笑い転げている姿が目に浮かぶ。


半年前、王都の小さな劇場でクラリスは主演女優を務めていた。

女優として活動を始めて、まだ半年だったにも関わらずである。


才能がありすぎると思った。

女優業は、間違いなくクラリスの天職だ。


けれど、彼女もまさか私の役を演じることになるとは思わなかっただろう。


『青薔薇の賢妃』の歌劇は見に行きたくない。


でも。


クラリスが女優になった時、私は本人と約束してしまったのだ。


どんな端役でも、クラリスが出演する舞台は上演中に必ず一度は観に行く、と。


観に行かないわけにはいかない。

まさか、こんな事態になるなんて。


「楽しみねぇ」


王妃様は、とても期待に満ちた目をしていた。


私は、何も言えなくなってしまった。

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