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青薔薇の賢妃?



アンジェリカから差し出されたスクラップブックを、私は一度開き――そして、そっと閉じた。


「あの……これは?」


とりあえず、私はアンジェリカに尋ねる。


ローレル様だけではなく、私のイラストまで大々的に描かれていたように見えたのは、きっと気のせいだと思いたい。


しかも、五割増しくらい綺麗に描かれていた気がする。

アクセサリーやティアラ、ドレスを見る限り、お披露目夜会の時のものだろう。


……いや、あの日の私は、絶対こんなに落ち着いた雰囲気ではなかった。

完全にテンパっていた。


「私の趣味でございます」


アンジェリカは当然のように答えた。


趣味?

何の?


理解できず、私は首を傾げる。


「分かります! 私もメリッサ妃殿下の記事をスクラップしていますし、綺麗なイラストは額に入れて飾っています!」


アニスが勢いよく立ち上がり、アンジェリカに同意した。


しかも二人は意気投合したらしく、しっかり握手まで交わしている。


……ちょっと待って。


私を置いて話を進めないで。

私はもう一度スクラップブックを開いた。

思っていた以上に記事の量が多い。


ベイリーフ王国の王太子の結婚なのだから、大々的に取り上げられるのは分かる。

でも、ローレル様の結婚相手である私についても、かなり詳しく書かれていた。


そして、私への賛辞として頻繁に使われている言葉がある。

私は思わず目を見張った。


――青薔薇の賢妃。


これ、以前にヴィオレ様がおっしゃっていた言葉だ。


あの時は、咄嗟に思いついた表現なのだと思っていた。

違ったらしい。


私は軽く頭を抱えたくなる。


誰だ。

私のことを“青薔薇の賢妃”なんて言い出した人は。


確かに、青薔薇の魔法改良はした。


でも、“賢妃”は絶対に違うと思う。


そもそも、私はまだ王太子妃らしい仕事を何もしていない。

……まぁ、記事に書きようがないのも当然だけど。

私は小さくため息を吐いた。


噂って怖い。

尾ひれどころか、背びれや胸びれまでついて広がっていく。


その恐ろしさを改めて実感した。


……これ、ローレル様は当然ご存知よね。


しかも、知った上で放置している。

満足そうに微笑むローレル様の姿が脳裏に浮かぶ。

完全に確信犯である。


お母様やリモネンお姉様も教えてくださればよかったのに。

そんな恨み言を内心で呟く。


入籍した日以来、お父様には会っていない。

長兄のレーモンお兄様に至っては、最後に会ったのは魔法学園の冬休みだった気がする。


二人は娘や妹が心配ではないのか。


……まぁ、これがバウム子爵家と言えばそれまでだけど。


シトラールお兄様に関しては、完全に私が巻き込んでしまった感がある。

本当は魔法研究をしたいはずなのに、今はローレル様の補佐をしているのだから。


しかも、シトラールお兄様とも中々会えない。

愚痴を言えないのが地味に辛かった。


「ところで、メリッサ妃殿下」


少し落ち着いてきたらしいアニスが、にこやかに口を開いた。


もう完全にいつものアニスである。

本の話をしている時の彼女は、本当に楽しそうだ。


「三月に五冊分の原稿を納品していただいておりますが、予定通り再来月から毎月一冊ずつ刊行させていただこうと思っております」


私は頷いた。


今までに五冊出版している。

知名度を上げるため、五か月連続刊行を予定していたのだ。


「お名前は、これまで通り“エリッサ・バウム”名義でよろしいですか?」


「うん、それで大丈夫」


私は即答した。


今さらペンネームを変えるつもりはない。

せっかく“エリッサ・バウム”の名前が浸透してきたところなのだから。


シリーズ物も始めたし、変える理由がない。


……まぁ、単純に名前を考えるのが苦手というのもある。

あと、バウム領の知名度向上のためにも“バウム”を残したかった。


決して、考えるのが面倒だったわけではない。

……ということにしておく。


「あと、ベルとマリーから、絵本も数冊完成したと連絡が来ています」


昔、バウム領の子どもたちへ即興で語っていた童話。


それを現在、絵本化してもらっている。


ベル・ガーモットが編集を担当し、マリー・ルドがイラストを描いてくれていた。


二人ともバウム領出身で、魔法学園ではアニスと同級生だったらしい。

アニスの本好きに感化され、オレガノ出版社へ就職したのだと聞いている。


ベルは、私の即興童話に深みを加えてくれる。

そしてマリーは、柔らかなタッチの温かい絵を描いてくれた。


最初、絵本化したいと言われた時は本当に驚いたけれど、二人にとっては天職だったらしい。

ちなみに、こちらのペンネームは“メリー・バウム”である。


「絵本の方は、ベルとマリーに任せるよ」


私は二人を思い浮かべながら答えた。


ただ、無理だけはしてほしくない。

二人とも、熱中すると周囲が見えなくなるタイプなのだ。


「あとね。私の原案じゃなくて、ベル自身のオリジナル童話を書いてもいいって、伝えておいて」


これは以前から考えていたことだった。


ベルなら、私よりずっと良い物語を書ける気がしたから。


そして単純に、私はベルの物語を読んでみたい。

これが本音でもある。


私の言葉を聞き、アニスは困ったように笑った。


「ベルもマリーも、“どうすればメリッサ妃殿下の物語をもっと多くの人へ届けられるか”しか考えていませんので、難しいと思います」


「?」


私は首を傾げる。


「お二人とも、メリッサ妃殿下を崇拝していますから。もちろん、私もです!」


アニスは力強く言い切った。


……崇拝?

なぜ?

私のどこに?


理解できずにいると、アンジェリカまで何度も頷いている。


え?

アンジェリカもそっち側なの?


どうして?


「絵本の原案名も、“メリー・バウム”のままでよろしいですか?」


「うん、それでお願い」


どうやらアニスは、ペンネーム確認のために王宮まで来たらしい。


……いや、手紙で良かったのでは?


まぁ、きっと退屈している私のために、ローレル様が呼んでくださったのだろう。


「今はお式の準備でお忙しいでしょうから、詳しい打ち合わせはまた今度にしますね」


「ごめんね、手間をかけて。ナハッカ・オレガノ社長にもよろしく伝えておいて」


私は申し訳なさでいっぱいだった。


今までは、私の方が出版社へ出向いていたのだ。


十四歳になったばかりの私の話を、邪険にせず聞いてくれたのはオレガノ出版社だけだった。

ナハッカ社長は原稿を読んだ上で、前向きに検討してくれた。


そして私は、魔法学園入学前に一冊目を出版できたのだ。


最初の担当編集者だったスコーポ・ミランとは正直合わなかった。

でも、担当がアニスへ代わってから、とても書きやすくなった。


これもナハッカ社長の判断だと聞いている。


「結婚式のパレード、楽しみにしていますね!」


そう言って、アニスは上機嫌で執務室を出ていった。


……が。

私は固まっていた。


「……パレードって何?」


私の小さな呟きが、執務室に妙に大きく響いた気がした。

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― 新着の感想 ―
一生主人公置いてけぼりで話がどんどん進むの可哀想だな…周りはみんな知ってて楽しそうに進めて本人だけ後から小分けにしか教えてもらえない 逃がさないためとか色々理由はあるだろうが本人の意思があまり介入され…
そろそろ虹色髪のヒロインちゃん(?)がどうなったのか知りたいな
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