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なぜか謹慎継続中



魔力切れを起こしてから三日目。


本日も私は、自身の寝室で謹慎中――の、はずだった。


何とかローレル様と交渉し、執務室へ移動する許可だけはもぎ取った。

さすがに、もう通常生活に支障はない。


ローレル様の過保護がここまで酷いとは思わなかった。

軽くため息が出た。


それどころか、二日も寝室に閉じ込められていたせいで飽きてきた。

やることが、何もない。

昨日はリモネンお姉様が来てくれたから良かったけど。


私は執務室のほうが落ち着く。


……まぁ、ローレル様に極上の笑顔で言われると、反論できなくなってしまうのだけれど。

しかも、ローレル様のおっしゃることは、いちいち正論なのだ。


何か私に聞かれたくないことでもあるのかもしれないとは感じる。

ローレル様が言いたくないことを、無理に聞き出したいわけではないし。


とはいえ、執務室で私がすることといえば、ウエディングドレスの調整くらいである。


……というか、ウエディングドレスって、毎日調整するものなの!?

そのことにも驚いていた。


しかも、試着するたびにドレスが豪華になっている気がする。

気のせいだと思いたい。


ウエディングドレスのデザイナーやお針子たちは、日に日に目の下の隈が酷くなっていた。

大丈夫なのだろうか。


心配になって尋ねたところ、


「寝るのがもったいないです」


と返ってきた。


完全にワーカーホリックである。

一応、無理はしないよう伝えたけれど、果たして私の言葉は届いているのか。

非常に怪しい。


普通、ベイリーフ王国の貴族は一年以上の婚約期間を経て結婚する。

それなのに、入籍から三か月後に結婚式。


しかも、大国ベイリーフ王国の王太子の結婚式である。


準備期間が圧倒的に短い。

忙しくないわけがなかった。


私は大きくため息を吐く。


休んでいるはずなのに、精神的疲労が凄い。

仕事もないので、とりあえず執務室の椅子に座っている。


暇だった。

私は時間を持て余すことが苦手なのだ。


「メリッサ様。アニス・ソップ嬢がお見えです」


「え?」


アンジェリカの言葉に、私は思わず大きな声を上げた。


アニス・ソップ。

私の小説のメイン担当編集者である。


以前は頻繁にやり取りをしていた。


けれど現在、私は王城内――しかも王太子宮殿にいる。

手紙は出していたけれど、しばらく会えないと思っていた。


王宮、それも王宮奥にある王太子宮殿へ入るには、ローレル様の許可が必要だ。


警備は厳重。

王族の暮らす場所なのだから当然だろう。


それにアニスは、一代限りの準男爵家の娘だ。

父親が亡くなるか、平民と結婚すれば、彼女自身も平民になる。


だからこそ、いつ平民になっても困らないよう出版社で働いていると、以前本人から聞いていた。


確か二十一歳。


私より三つ年上で、魔法学園ではレーモンお兄様とリモネンお姉様と同学年だったらしい。


読書好きで、本当に気が合った。

本への情熱は、もしかしたら私以上かもしれない。


私の担当編集者がアニスで良かったと、何度思ったことか。


「お通しして」


私はアンジェリカへ答えた。


もともとバウム領へ帰る予定だったので、小説のストックはかなり渡してある。


……どれだけ授業中に小説を書いていたかは秘密である。


シトラールお兄様やアンジェリカは気づいていただろうし、教師たちも察していただろう。

でも何も言われなかった。


試験では常にクラス平均を大きく超えていたからだ。


実力主義の魔法学園だからこそ許された行為だろう。

褒められたものでは決してないけれど。


それにしても、ローレル様はどこまで私のことを把握しているのだろう。

少し怖くなってくる。


結婚相手として、王家が私を調べるのは当然だ。


でも、それ以前に。

なぜ私が選ばれたのか。


それだけが、本当に分からない。


王家なりの基準はあったのだろう。


けれど、私程度の令嬢なら掃いて捨てるほどいる。

やはり納得できなかった。


「アニス・ソップ嬢をお連れしました」


アンジェリカがアニスを連れてきた。


ちなみにアニスは、目に見えて顔色が悪い。

全身が小刻みに震えている。


……うん。

気持ちは分かる。


私もそうだった。


というか、現在進行形で高価そうな調度品には極力近づかないようにしている。

だって、壊したら怖すぎる。


執務室の花瓶なんて、売れば民家が一軒建つのではないかと思っている。


その花瓶へ毎日平然と花を活けているアンジェリカは、本当に凄い。

さすがパトーキ侯爵家の娘である。


「メ、メリッサお嬢様……なぜ、このようなことになっているんですか?」


生まれたての子鹿のように足を震わせながら、アニスは言った。


他にも聞きたいことはあるのだろう。

でも、まずはそこだよね。


「本当にね。それ、私が聞きたい」


私は真顔で本音を漏らした。


「アニス嬢。“メリッサお嬢様”ではなく、“メリッサ妃殿下”とお呼びくださいませ。現在は王太子妃であらせられますので」


アンジェリカが小声で訂正する。


呼び方なんてどうでもいいのだけれど。

私自身、“メリッサ妃殿下”に全く慣れていない。


「は、はい! メリッサ妃殿下!」


アニスは慌てて言い直した。


私はソファーへ座るよう促す。

だがアニスは躊躇っていた。


……分かる。

本当に分かる。


私は半ば強引にアニスをソファーへ座らせ、その向かいに腰掛けた。

快適すぎる座り心地である。


だからこそ緊張するのだ。


「ローレル様に呼ばれたの?」


私が尋ねると、アニスは石のように固まった。


どうやら図星らしい。


「あ、あの……メリッサお嬢、メリッサ妃殿下は、もう執筆なさらないのですか?」


泣きそうな顔でアニスは聞いてきた。


「それは大丈夫みたい。反対されるどころか、執筆部屋まで用意していただいてるから」


私は隠し部屋のような執筆室を思い浮かべながら答えた。


もし反対するつもりなら、あの部屋を用意するはずがない。

ただ、執筆に集中しすぎると危険だから、まだ使ってはいないけれど。


「そうなのですね……良かったぁ……」


アニスは心底安心したようだった。


「いきなり王太子妃殿下になられたと新聞で発表されて、本当に驚きました」


その言葉に、私は思わず遠い目をする。


新聞で発表されていたのか。

今、初めて知った。


そもそも王太子妃になってから、新聞を読む余裕なんてなかった。


するとアンジェリカが、一冊の本を差し出してきた。


「私の私物ですが……」


「?」


訳も分からず受け取る。


どうやらスクラップブックらしい。

パラパラとめくる。


そこには――。


私とローレル様の結婚に関する記事が、これでもかというほど貼られていた。

読んでいただきありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

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