表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/63

婚約期間という名目



お茶会があった日の夕方、私は高熱を出してしまった。


原因は分かっている。

絶対にローレル様だ。


もう、あれからまともに物事を考えられない。

頭もふわふわしているし。


熱のせいなのか、ローレル様のせいなのか。

……多分、両方だ。


それ以前に魔力切れの影響で、身体も思うように動かない。


一度公務へ戻られたローレル様は、そんな私を見て嬉しそうに笑っていた。

少しだけ腹立たしい。


それから当然のように寝室で夕食を食べ、現在、私たちは同じベッドに寝ている。


いや、確かにここは王太子夫婦の寝室だけど。

今までお互い別の部屋で寝ていましたよね?


そもそもローレル様ご自身が、結婚式を挙げるまでは別々の部屋にしようと、入籍翌日に仰っていたはずだ。

そういう話でしたよね?


しかも私は今、発熱している。

風邪かもしれない。


バウム子爵家の人間は毒耐性が強いため、風邪を引くことは滅多にない。

免疫力が高いのだと思う。


だから今回の発熱は風邪ではない気がする。

強いて言うなら、知恵熱に近い。


今日、ローレル様とキスをしたことが原因で間違いない。

心の準備なんて、全く出来ていなかったのだから。


でも、万が一本当に風邪だった場合、ローレル様にうつしたら大問題だ。

もちろん、うつしたいわけでもない。


自分の部屋へ戻ろうにも、身体が思うように動かないのが恨めしい。


せめてベッドの中で距離を取ろうとしたら、即座に引き寄せられて抱きしめられた。

キングサイズを遥かに超える大きなベッドなのに。


ここまで密着しなくても良いはずである。


しかもローレル様は、とても嬉しそうな雰囲気を隠そうともしない。

私が焦って混乱しているのを楽しんでいる節すらある。


それに、普段はもっと夜遅くまでお仕事をなさっているでしょう?

私は知っているのですからね!


こんなに早くベッドに入ることなんてないでしょう。


言いたいことはたくさんある。


でも、ローレル様の嬉しそうな表情を見ると、何も言えなくなってしまう。

モヤモヤした気持ちが胸の奥に燻っていた。


私は諦めず、ローレル様の腕の中から逃れようとモゾモゾ動く。

こんな状態で眠れるわけがない。


きっとローレル様だって同じはずだ。


「メリッサ、大人しくするように」


笑いを噛み殺すように、ローレル様が言った。


やっぱり楽しんでいる。


「ローレル様、もし風邪がうつっ――」


最後まで言えなかった。


ローレル様が私の口を塞いだから。

ご自身の唇で。


しかも、そのまま徐々に深いキスへ変わっていく。

息がうまくできない。


苦しい。


「うん、上手くなってきたね」


満足そうにローレル様が言う。


……何が上手くなってきたのか、恥ずかしくて聞けない。


完全にローレル様のペースだ。

私が敵うとは到底思えない。


私はというと、呼吸を整えるので精一杯だった。


しかも顔が熱い。絶対に真っ赤になっている。

キスの時の水音も恥ずかしいし、互いの息遣いも恥ずかしい。


それに、キスの最中、ローレル様は私の身体を優しく撫でる。

撫でられた場所が熱い。


夜着の上からなのに。


それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。

心臓がうるさいほど高鳴っていた。


「あの……結婚式を挙げるまでは、このようなことはしないのでは?」


なんとか、それだけ口にする。


具体的な単語は、どうしても言えない。


恥ずかしすぎる。


「最後まではしないよ?」


ローレル様は当然のように言った。


その表情からも、本気で当然だと思っているのが分かる。


私は心臓が持ちそうにないのですが。


「でも、そうだね。メリッサがこれ以上動くと、その気になるかもしれない」


笑顔のまま、さらりと続けられた。


私は逃れようとしていた身体をぴたりと止める。


“その気”って、何?

聞きたいけど、怖くて聞けない。


完全に脅しである。


ローレル様は、また私へ顔を近づけてきた。

今度は鼻先へ軽く口づけを落とされる。


「無理強いするつもりはないよ」


抱きしめながら、囁くように言われた。


それだけで緊張するのですが。


「私たちは婚約期間がなかっただろう? 結婚式までは婚約期間だと思えば良いよ」


ローレル様の声から、本気でそう考えているのが伝わってくる。


確かに、私たちは婚約をすっ飛ばして結婚した。

でも――。


「婚約中に同じベッドで寝ることはないと思います!」


思わず言い返してしまった。


いくら婚約中でも、これはさすがにおかしい。

貴族事情に詳しくない私でも、それくらいは分かる。


「ふふ、そうだね。でも婚約期間は普通一年くらいあるだろう?」


「まぁ、そうですね」


「私たちは婚姻から結婚式まで三カ月。普通より濃厚な時間を過ごしても良いはずだよ」


笑いながらローレル様は言う。


……確かにそうかも。

なんて、一瞬納得しかけたけど、そんなわけがない。


リモネンお姉様は婚約者がいるけど、こんな感じでは全然なかった。

そもそも、お姉様は婚約者と一年以上会っていないのでは?


「私といる時は、私のことだけを考えて欲しい」


ローレル様はそう言うと、また唇を重ねてきた。


しかも身体まで擦り寄せてくる。

どうしたら良いのか分からない。


ますます思考が溶けていく。


酸欠気味なのも原因だと思う。


「私のことだけを考えていて?」


掠れた声が色っぽすぎて、同い年とは思えない。


そのまま首筋へ唇が落とされた。

びくっと身体が跳ねる。


初めての感覚に驚いた。


「ローレル様のことしか考えられませんよ!」


なんとか答える。


熱がさらに上がってしまいそうだ。


「私はメリッサのことしか考えていないからね」


ローレル様は嬉しそうに言った。


……今この場で私を安心させるための言葉、というやつだろうか。


「……ローレル様は、王太子……なんですよ?」


キスの合間に、なんとか言葉を絞り出す。


ぴたりとローレル様の動きが止まった。

そして、私の顔をまじまじと見つめる。

近い!


綺麗なお顔が近いんです!


それから、ローレル様は満面の笑みを浮かべた。

本当に嬉しそうに。


「分かっている。でも、一番はメリッサだよ」


真っ直ぐに私を見つめながら、ローレル様は続ける。


「メリッサがいるから、王太子として頑張ろうと思えるんだ」


そう言って、ローレル様は再び私へ口づけた。

読んでいただきありがとうございます! 面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
期間が短いからと言って、体調が悪い婚約者に○○するのは、どうなんだろう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ