王妃様もお待ちらしい
本日は5話投稿予定です。
ローレル殿下にエスコートされながら、私は王城内を歩いている。
なんとも不思議な感覚だった。
ローレル殿下にエスコートされて歩くなんて、考えたこともなかった。
学園では挨拶くらいしかしたことがないし。
いくら学生とはいえ、王族に話しかけることなんて怖くてできなかった。
万が一ローレル殿下の気分を害してしまったなら、私だけでなく実家の子爵家もただでは済まないのだから。
学園では遠くから見かけることで精一杯だった。
本当は見つめてしまうことさえ、非礼にあたるのではないかと思ったくらいだ。
我が子爵家の家風は『空気に徹する』である。
ちなみに家訓は『君子危うきに近寄らず』と『触らぬ神に祟りなし』だ。
なので私は学園時代、空気に徹した。
今の父のように。
父は完全に気配を消している。
見事だとしか言いようがない。
早く父の領域まで成長したいと、今日ほど切に思ったことはない。
私だって壁の花になることなら、魔法学園在学中に極めたと思うし。
頑張った、私。
現実逃避をしたくて、自分を自分で褒めてみる。
でも父よ。
今は娘を助けてほしい。
緊張しすぎて倒れそうなんですけど!
くっ。
駄目だ、父は空気に徹している。
目を合わせてもくれない。
これは救援は期待できそうもない。
ハーツ様には先ほど一瞬で見捨てられたし。
あの冷徹腹黒男め。
私は深呼吸した。
自分を落ち着かせるために。
そして、チラリとエスコートしてくれているローレル殿下を見上げた。
こんな近くで殿下を見るのは初めてだった。
やっぱり格好良い。
私服姿も素敵だし。
どこからどう見ても完璧な王子様!
確かに本物の王子様だけど。
今日はいつもの十倍は輝いて見える。
思わず拝みたくなるほどだ。
ご利益ありそう。
学園の制服姿しか知らなかったから、なおさらそう感じるのかもしれない。
ローレル殿下にエスコートしてもらいながら城内を歩いているなんて、本当に信じられない。
しかも初めて来た王城で!
もしかして夢かもしれない。
実感なんて湧いてこないし。
超絶緊張はしているけど。
普段着けないコルセットも苦しいし辛い。
でもローレル殿下を見つめていると、幸せな気持ちになる。
ローレル殿下は存在自体が神なのかもしれない。
それとも私はもうすぐ死ぬとか?
私の人生すべての運気を、ここで使い果たしてしまうとか?
神々しいローレル殿下を見つめながら、そんな不吉なことを考えていた。
ゴホッ。
わざとらしい咳が聞こえた。
ハーツ様だ。
今、私は完全にローレル殿下に見惚れてしまっていた。
しかも絶対に、だらしのない顔をしていたに違いない。
思考もジェットコースター並みに激しかったし。
非日常すぎて、情緒不安定になってしまっていた。
我に返らせてくれたハーツ様、ありがとう!
さっきは私のことを見捨てた冷徹腹黒男なんて思ってしまってごめんなさい。
それにしても、ローレル殿下の金色の髪はサラサラで、青い瞳も綺麗だ。
全体的に淡い色合いで、とても気品を感じる。
これが王族。
まつ毛長い!
羨ましい!
そして、なんとなく良い香りもする!
「メリッサ嬢」
「はい、なんでしょうか?」
いきなりローレル殿下に名前を呼ばれ、驚きはしたものの落ち着いて答えられた。
私、偉い。
表情も淑女の微笑みを浮かべられているはず。
「長く歩かせてしまって済まない」
そう言えば、もう五分以上は歩いている。
やっぱり王城って広い。
建物の中を五分も歩かなきゃいけないなんて、凄いと改めて感心した。
「初めて訪れた王城に感動してしまっていて、歩くのはまったく苦ではありません」
答えながら、私は模範解答ができたと自画自賛する。
「それに素敵なローレル殿下にエスコートしていただき、夢のようです」
完璧な追い打ち返答。
上出来よ、私。
しかも少し恥ずかしながら言えた。
もうこれは淑女の免許皆伝では?
でも危ないところだった。
「憧れていたローレル殿下」と言いそうになってしまった。
不敬だと思われかねないことを言うべきではない。
ローレル殿下のことはクラスメイトだったけれど、よく知らない。
王族から不興を買うことは言えないのだ。
誠実で真面目。
ローレル殿下が理不尽なことを言っているところなんて見たことないし。
ハーツ様からも、ローレル殿下は素晴らしいお人柄だとしか聞いていない。
上司のことを悪く言うわけがないんだけど。
無能な上司の部下なんて、ハーツ様は絶対にしない人だ。
そうだったら、とっくにローレル殿下に見切りをつけ、当たり障りのない関係を続けながら別の道を進むだろう。
ハーツ様はそういう方だ。
遠い親戚とはいえ幼い頃から知っているからこそ、そこだけは信じられる。
「私もメリッサ嬢とこのように話せて、とても嬉しいよ」
ローレル殿下は私の顔を覗き込みながら言う。
この人は、自分の顔の良さを知っていての行動なのだろう。
自分の側近であるハーツ様の縁のある者として、私なら多少からかっても問題ないと判断されているようだ。
これ、相手が私ではなく別の令嬢だったら完全に誤解すると思う。
気を持たせるようなことを言って、大事になったらどうするのかな?
ローレル殿下は次期国王になる人なのに。
女性問題を起こしたら、今までの国民人気に影をさすことになる。
まぁハーツ様もいるし、他の側近の方々も優秀だと聞くから大丈夫だろう。
問題が明るみになる前に、見事に揉み消すことができそう、ハーツ様なら。
ハーツ様、その手のこと上手く事を運びそう。
しかも嬉々としながら。
裏で物事を動かすのは得意だろうし。
私は腹黒であるハーツ様に一瞬視線を向け、ローレル殿下に微笑んだ。
何も問題はなさそうだと判断した。
「さぁ、着いたよ、メリッサ嬢。私の父と母が首を長くして待っているよ」
ローレル殿下の言葉に、私は息を飲んだ。
王妃様もいらっしゃるの?
聞いていないんですけど!
私は一度、今まで歩いてきた長い廊下を振り返った。
自宅がこんなに広いなんて、ローレル殿下は大変そう。
……なんて思いながら、私は最後の悪あがきの現実逃避をしていた。
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次は本日20時投稿の予定です。




