王太子の出迎え
本日は5話投稿します
馬車の中から、私は王城の大きさに圧倒されてしまった。
今までは城壁の外から見ていただけで、遠くから眺めることしかなかったのだ。
建物が大きい。
しかも綺麗だ。
現在見える範囲の広場や庭園も、見事としか言いようがない。
見えない場所もきっと美しいのだろうと、簡単に想像できた。
これが王城。
さすが王城だ。
私は、自分が大陸一の国に住んでいたことを改めて思い出す。
わが国は、あらゆる面において他国とは比較にならないほどの大国だった。
学園で散々勉強していたけれど、自分が住んでいる国なのに、今ひとつ実感がなかった。
バウム子爵領が田舎だからかもしれない。
王都からも遠いし。
私は感嘆のため息を、無意識にこぼしていた。
だが次の瞬間、緊張が身体を駆け抜ける。
自分の状況を一気に思い出したのだ。
場違いすぎる。
私が来てよい場所ではない。
なんで私が呼び出されたのだろう。
本当になんで?
私が一体何をしたっていうの?
そんなことを考えているうちに、馬車が停まった。
「確かここは、重要な人物が出入りする入口のはずだ」
父が呆然としながら呟く。
「え? そうなの?」
間髪入れずに私は父に聞き返してしまった。
しかも大声で。
思わず自分の両手で口を押さえる。
今さら遅いのは分かっているけれど。
でも、入口が何か所もあることさえ私は知らなかった。
確かに、これだけ大きいと入口もたくさんないと不便だろうけれど。
私には一生縁がない場所だと思っていた王城にいるなんて、信じられない。
ますます緊張してきた。
その時、馬車の扉がノックされた。
そうだ、早く馬車を降りなきゃ。
他の要人には会いたくない。
扉が開き、手が差し出される。
エスコートされることは知っていても、実際にされたことはなかった。
でも、早く馬車を降りなきゃと、私は差し出された手を取ろうとして、身体が固まる。
相手の顔を見て、瞳を見開いた。
身体が動かない。
「メリッサ?」
父が私の態度に気づき、声をかけてくる。
貴族は簡単に素の表情を出してはいけない。
実際、私は魔法学園ではちゃんと表情のコントロールができていた自負がある。
自宅以外では模範生だったのに。
それなのに。
――殿下?
声にはできなかった。
うまく呼吸もできないような感覚に襲われる。
「メリッサ嬢、久しぶりだね」
微笑みながら、第一王子であるローレル・ベイリーフ殿下は私に向かって言った。
ローレル殿下の笑顔が眩しい。
薄い金髪に空色の瞳。
こんな時でも、眉目秀麗とはこのことかと再認識してしまう。
しかもローレル殿下は、麗しい外見だけではなく頭脳明晰でもある。
聞くところによると、剣術の腕もかなりのものだと言われている。
文武両道という言葉が脳裏に浮かぶ。
その上、性格も良い。
貴族はもちろん、平民にも絶大な人気を誇っている。
そんなわが国の第一王子が、私に手を差し伸べている理由が分からない。
そもそも、どうして彼がここにいるのか理解が追いつかなかった。
第一王子の登場に、父もかなり驚いているようだった。
「久しぶりと言っても、昨日の卒業式でも会ったけどね」
呆然としている私に、笑顔のまま殿下は続けた。
私は魔法学園で、ローレル殿下とはクラスメイトだった。
だけどクラスメイトといっても、王族と気軽に話せていたわけではない。
話せるわけがない。
たかが子爵令嬢である私が。
学生時代は挨拶を交わすくらいだった。
田舎の子爵令嬢として、私も弁えていたからだ。
クラスメイトだったとはいえ話すことさえなかったけれど、ローレル殿下を見るたびに眼福だなぁと思っていたことは、口が裂けても言えない。
それ以前に、私のことをローレル殿下が認識していたのかと驚いてしまう。
先ほど初めて名前を呼ばれた時には、驚愕してしまった。
私の名前を知っていたとは。
学生時代は、名前を呼ばれたことなどなかったのに。
目立つような行動は取っていない。
それに私の容姿は普通だ。
「メリッサ嬢?」
再度、名前を呼ばれてしまった。
はっとして、ローレル殿下が差し出したままの手へ視線を向ける。
このままにはしておけない。
私は恐縮しながらも、恐る恐る手を出した。
ローレル殿下のエスコートで馬車を降りる。
粗相をしないよう慎重に。
「あ、ありがとうございます」
私はローレル殿下に感謝を述べた。
内心、緊張のあまり心臓は爆発寸前である。
頭も真っ白になってしまっていた。
何が起こっているのか理解できない。
今のこの状況が、訳の分からないことになっている。
昨日の卒業式で、ローレル殿下とはもう会うこともないのだな、と思っていただけに驚きは大きい。
普通に考えて、次期国王となる方と、この先平民になる予定の子爵令嬢だ。
二度と会えないと思ったのは当然だった。
ローレル殿下の後ろには、殿下の側近たちが数人いた。
その中に、我がバウム子爵家の本家であり、かつ縁戚でもあるイーズ侯爵家の嫡男、ハーツ様の姿があった。
私は思わず、彼に助けを求めるような視線を送ってしまう。
藁にもすがる思いだった。
彼とも昨日までクラスメイトだったし。
そんなに親しくはまったくないけれど。
親しくしたいと思ったこともないけれど。
あと、ハーツ様が子どもの頃から腹黒いことも知っているけれど。
他に頼れる人はいないのだから仕方がない。
それにハーツ様は、敵対しなければ人を害することはない。
ただし、敵になれば相手に一切容赦しない。
高位貴族の嫡男だから、そういう面も必要なのは私だって理解している。
ハーツ様は私と目が合ったあと、表情一つ変えずローレル殿下の方を見た。
「殿下、陛下がお待ちです」
ハーツ様の無情な言葉に、泣きたくなる。
「そうだな。私が案内します。メリッサ嬢、バウム子爵」
にっこりと爽やかに微笑みながら、ローレル殿下が言った。
私はローレル殿下にエスコートされたままである。
手を離すタイミングを、完全に逃してしまった。
悲しいことに、苦難はまだまだ続くらしい。
私は胃を押さえたい衝動を、必死で堪えていた。
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次は本日17時投稿の予定です。




