国王陛下からの呼び出し
本日は5話投稿予定です。
魔法学園を卒業した翌日、私は王城に呼び出された。
……なぜ?
「どうして私が王城に呼び出されるのですか?」
私は父と馬車で王城へ向かっていた。
子爵家を継いだばかりの父に、困惑しながら尋ねる。
しかも、国王陛下から直々の呼び出しである。
呼び出される理由に、私はまったく心当たりがない。
父も困惑しているようで、首を横に振りながら渋い表情を浮かべている。
「我がバウム家は目立つことをしないし、それはメリッサも同じだ。だからメリッサが何かをしたとは思えない」
父が呟くように言った。
信用されているのは、素直に嬉しい。
「だからこそ、今回の突然の呼び出しの理由に見当もつかないな」
父は眉間にしわを寄せながら続けた。
私は首を傾げる。
若干の猜疑心も生まれてきた。
学園を卒業したばかりの下位貴族の私に、国王陛下との接点があるはずがない。
直接お会いしたことさえないのだから。
二度ほど遠くから、国王陛下がお乗りになっている馬車を拝見したことがあるくらいで、お顔もよく見えなかった。
残念だったので、忘れられない記憶である。
私が知っているのは、魔法学園に飾られていた国王陛下の肖像画を見たことがあるくらいだ。
ちなみに王城へは行ったことさえない。
そう簡単に、子爵家の末娘である私が行けるはずもないし。
学園の成績は良かった。
しかし、特別に良かったわけでもない。
それなのに、突然の国王陛下からの呼び出しである。
訳が分からない。
そもそも私は、数年以内に貴族から平民になる予定だ。
それは家族も承諾済み。
前世の記憶がある私に貴族は向いていない。
さすがに貴族としての最低限のマナーは習得しているけれど。
実は魔法学園に入る前から小説を書いていて、ダメ元で出版社に持ち込んだことがある。
少し手直しはしたが、私が書いた小説は本として出版された。
魔法学園在学中も、勉強や友人との付き合いで忙しかったが、なんとか時間を見つけて書き続けた。
最近では贅沢をしなければ、ひとりで食べていけるくらいには稼げるようになっている。
もちろん、貴族籍を離れることは家族も承知している。
私が書いた小説は、公序良俗に反するものでもない。
……ないはずだ。
他の出版社からも声をかけていただけているし、大丈夫なはず。
堅物の次兄が「面白かった」と感想を言ってくれたし。
読まれたのは恥ずかしかったけれど!
自室でゆったり着ることが出来るドレスで、普段は小説を書いている。
なんなら、寝る前や起きたあとに寝間着姿のまま書いていることもある。
肩苦しい上質なドレスは、私にとっては不要の長物だ。
のちのち貴族籍から離れる予定の私は、デビュタントに出る予定もない。
だから王城へ行くドレスさえ持っていなかったくらいだ。
元々、身なりにそこまでお金をかけることに本能的な嫌悪感がある。
それでよく母からは怒られたけれど。
でも、お金がもったいないと思うのも事実だ。
その考え方は、私に前世があるからかもしれない。
前世は庶民で、お金の有難さを知っている。
労働をしてお金を得るのは当然だし、老後のためにもお金は必死でやりくりしていた。
一度染み付いてしまった固定概念を覆すのは容易ではない。
そして現世の今も、貴族としてはとても裕福とは言えない家庭環境だった。
小さいとはいえ領地を持っている子爵家だ。
我がバウム子爵家の領地は山間部にあり、しかも土地も痩せている。
まともな収益は出ない。
前子爵である祖父も、現子爵である父も、最近では嫡男の兄までも、領民の暮らしが良くなるよう必死で働いている。
少しでも領民の暮らしが豊かになるように。
わずかに得た収益は、領地の土地改良に使っている。
祖父母や両親、兄姉たちを見てきて、無駄遣いなんて出来るはずもない。
バウム家は、表面上だけでも下位貴族としての体裁を整えられれば良いという考えだ。
貴族としての品位を失ってしまったら、領民に苦労をかけてしまうから。
それほどまでに、他の貴族との繋がりは重要。
バウム領で得られないものはなるべく安く購入し、バウム領の特産品をそれなりの値段で売ることが出来るのだから。
本来、母も無駄にドレスを買ったりはしない。
しかもドレスや装飾品は、祖母・母・姉でシェアしたり、自分たちでリメイクしたりと工夫している。
そんな母が怒るほど、私は身なりにお金をかけない。
上質なドレスなんてなくても生きていける、と私が思っているのが母には透けて見えるのだと思う。
私は今、自分が着ているドレスを見下ろした。
姉が新しく作ったドレスである。
思わずため息が出た。
まだ姉も袖を通していないのだから借りられない、と断る私。
王城に行くのだから新しく良いものを着なさい、私は気にしないからと言う姉。
言い争っていたら、結局母に怒られたのである。
確かに今回は私が悪い。
本当に姉には申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
ドレスも絶対に姉のほうが似合うはずなのに。
姉のために作られたドレスなのだから、当たり前だけれど。
「メリッサ、似合っているよ」
父の声で顔を上げる。
きっと私の心情を察してくれたのだろう。
いつの間にか父と乗っていた馬車は、王城が目前に迫っていた。
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