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(回想)ヒロインは転生者



あれから結局、乙女ゲームは始まらなかった。

残念。


なぜなら、あの直後に担任の教師が教室へ入ってきたからだ。


担任のシベリアン・ジンセン先生も、これまたイケメンだった。

年齢は二十代半ばくらいだろうか。


(もしかして、この人も攻略対象者?)


そう思いはしたが、正直、教師が攻略対象という設定は私としては微妙である。

前世の記憶があるせいか、教師が十五歳の少女と恋愛関係になるのはどうしても抵抗があった。


普通に駄目でしょ、それ。

しかも教師。懲戒ものでは?


……まあ、この世界では未成年が親世代に嫁ぐことも政略として普通にある。

私の感覚がこの世界に合っていないだけなのだろう。

そこは理解している。


シベリアン・ジンセン先生は無表情のまま、淡々と魔法学園について説明していった。

ラズベリー嬢に特別な対応をすることもなかった。


けれど、問題はそこではなかった。


――ラズベリー嬢だ。


私は聞いてしまったのだ。

ラズベリー嬢の独り言を。


『……あれ? シナリオと違うな』


ぽつりと漏れたその言葉。


誰も気に留めていなかった。

もちろん、私も平静を装った。


でも――


(シナリオって言ったよね?)


これはもう間違いない。


ラズベリー・ハーブ男爵令嬢は転生者で、しかもヒロインである。

本人にもその自覚がある。


私は内心でガッツポーズを決めた。


乙女ゲームのヒロインが王道にハッピーエンドへ進む物語なのか。

それとも、転生ヒロインが悪役令嬢にざまぁされる物語なのか。


これはもう、見ものである。


今のところ、悪役令嬢ポジションにいるローズマリー・トスカナ公爵令嬢が転生者かどうかは分からない。

ここまでローズマリー様は、ラズベリー嬢に一度も接触していない。


ローズマリー様も転生者で、バッドエンド回避のために慎重に立ち回っているのか。


それとも、そうではないのか。

まだ判断はできない。


ただ、私は二人から距離を取ると決めている。

どちらがざまぁされる側なのか、今の段階では想像もつかない。


取り敢えず、巻き込まれないようにしておかなければ。


距離を置きつつも観覧の一択である。



■□■□■□■□■□




ラズベリー嬢は今日も今日とて、ローレル殿下に声をかけていた。

無邪気な笑顔で。


(これからどんなイベントが起こるんだろう)


楽しみで仕方がない。


「……上機嫌だな」


シトラールお兄様が、訝しげに私を見た。


入学式の翌日。

現在はお昼休み。


私はシトラールお兄様と二人で、購買で買ったサンドイッチを、人気のない庭園のベンチで食べていた。

ちなみにこの場所は、リモネンお姉様に教えてもらった穴場である。


レーモンお兄様とリモネンお姉様が、学生時代に見つけたらしい。

しかも、今座っているベンチからは、少し離れた場所に温室が見える。


(いかにも乙女ゲームのイベントで使われそう)


実に良い雰囲気である。


「だって、楽しみなんだもん」


テンションが上がりっぱなしの私は、素直に答えた。

シトラールお兄様と二人きりなのだから、気を遣う必要はない。


にやにやと締まりのない顔をしていても許されるはずだ。


今日の午前中から始まった授業は、前世の学生時代を少し思い出させるような座学中心だった。


一時間目は魔法植物学。

担任でもあるシベリアン・ジンセン先生の授業である。


淡々と、表情ひとつ変えずに進められる授業。

抑揚の少ない声ではあったけれど、内容は分かりやすかった。


ただ、残念なことに――


私は魔法植物学に関しては、バウム領で実践込みで学び尽くしていたのだ。

レーモンお兄様とリモネンお姉様の教科書や授業ノートも参考にしていたし、今さら感は否めない。


「魔法学園に通う意味がないように思える」


ぽつりとシトラールお兄様がこぼした。

シトラールお兄様も、私と一緒に勉強していたのだから無理もない。


「期待していた分、残念だ。思っていたより授業の内容が薄い」


「まあ、それは分かるけど」


私は正直に頷く。


実際、レーモンお兄様とリモネンお姉様の方が、教え方は上手かった。

そこは認めざるを得ない。


他の教科も、基本的には長兄と姉から教わっていた。

植物の魔法改良をするにも、他の魔法学の知識は必要だったのだから。


その中でも、シベリアン先生の授業はまだましな方だと思う。

さすが攻略対象者(仮)である。


そういえば――


入学式直前に、ぎりぎりで完成した改良済みの薔薇の種を、バウム領のあちこちに蒔いてきたのだった。


痩せた山間部の土地でも咲く、生命力の強い花。

花好きな母のために、私が作ったものだ。


母の笑顔が見たくて。


残りの管理はレーモンお兄様に丸投げしてきたけれど、きっと何とかしてくれているだろう。


(期待してるからね、レーモンお兄様!)


「それより、メリッサ。落ち着きがなさすぎるぞ」


サンドイッチを食べ終えたシトラールお兄様が、呆れたように言った。


たしかに、落ち着きがなかった自覚はある。

授業はもう十分理解できたと判断した私は、後ろの席から乙女ゲームの登場人物と思しき面々をずっと観察していたのだから。


「だって、すっごく気になるんだもん」


「何がだ」


いきなり後ろから声がした。


ハーツ様だ。


「何か御用ですか?」


どうしてここにハーツ様がいるのだろう。

ローレル殿下のそばにいなくていいのだろうか、と疑問に思いながらも、私は尋ねた。


「聞いているのは僕だ」


有無を言わせない口調だった。


ひどく高圧的である。


普段のハーツ様は、ここまで露骨ではない。

何か気に障ることでもあったのだろうか。


そんなことを思いながら、私はハーツ様を見返していた。


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