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(回想)魔法学園入学式



魔法学園の入学式。

私は、深いため息を吐いた。

 

正直に言えば、魔法学園に入学できたこと自体は嬉しい。

この世界に転生して、魔法が存在すると知ったときは、テンションが上がったものだ。


三歳で文字を覚え、自宅にあった魔法関連の書籍を必死に読み漁った。


魔法の理論は複雑で、未だ解明されていないことも多い。

それがまた、面白かった。

 

――ただ。

 

魔力は基本的に、貴族の直系男児に強く受け継がれる。

末っ子で、しかも女である私は、生まれつき魔力が少なかった。


正直、かなりがっかりした。


もちろん例外はある。

覚醒遺伝のように、嫡男でなくても強い魔力を持つ者もいるらしい。

 

さらに、家門ごとに魔法の系統も異なる。

そして一般的に、魔力が多い者ほど髪や瞳の色が淡くなる傾向がある。

 

私はというと――。


黒に近い茶髪に、黒い瞳。

見た目からして、魔力量の少なさが分かる。

 

家門に由来する固有魔法も、私のように魔力が少ないとほとんど関係ないらしい。

使えないわけではないけど。


(せっかく転生したのに、魔法で無双とかしたかったんだけどなぁ……)

 

……まあ、魔力があるだけマシか。


だからこそ、魔法学園に入学できたことは素直に嬉しい。

 

制服も可愛いし。

ワインレッドを基調にしていて、裾にはレースもあしらわれている。

 

お姉様のお下がりだけど、まったくそうは見えない。

言わなければ新品だと思われるはずだ。

 

私は自分の制服を見下ろし、思わずにやけてしまう。

 

――が。

 

隣に立つ人物を見て、眉をひそめた。

 

「なぜシトラールお兄様と私が同じ学年なの?」

 

私は隣を歩く兄に問いかける。


本来なら、シトラールお兄様は去年入学しているはずだった。

私の一つ年上なのだから。


それなのに、なぜか同学年。

真面目で口うるさい兄と同じクラスだなんて、正直つらい。

 

「メリッサの監視だよ。お前は何をしでかすか分からないからな」

 

当然のように返される。

しかも、家族全員が同意したらしい。


(解せない)


目立つようなことなんて、するわけないのに。

私だってバウム子爵家の一員なのだから。

 

そんなことを考えていると、周囲がざわついた。


何事かと視線を向けると――そこにいたのは。

 

ローレル殿下だった。

 

(うわー……)

 

思わず見惚れる。

正統派の王子様、そのもの。


薄い金髪に、淡い空色の瞳。


整いすぎていて、もはや現実味がない。

完全に目の保養である。

 

「ハーツ様だ」

 

シトラールお兄様が小声で言う。

ローレル殿下の隣を歩いている。


イーズ侯爵家の嫡子――ハーツ様。

見た目は良いが、腹黒いことで私のなかでは有名だ。

 

ハーツ様が、こちらに視線を向けた。


私たちはすぐに一礼する。

ローレル殿下とご一緒であれば、軽々しく近づかない方がいい。

 

ハーツ様も足を止めず、軽く目礼だけ返してきた。


(……あとで挨拶、行かないといけないかな)

 

正直、気が重い。

 

それにしても――

目を引く集団だった。

ローレル殿下は言うまでもなく、ハーツ様を含め、周囲の側近らしき人物たちも全員が整った容姿をしている。


「今年はローレル殿下が入学されるから、学年を落として入ってきた者も多い」

 

シトラールお兄様が続ける。

 

「ハーツ様の右隣にいる方――マレイン・ウズイカ様は、俺より一つ年上のはずだ」

 

「へー……」

 

私は曖昧に返事をしながら、そちらに目を向ける。

 

ウズイカ公爵家の三男、マレイン様。

三男でありながら、髪は淡い杏色。

おそらく魔力量が多いのだろう。

 

人懐っこい笑顔を浮かべているせいか、年上には見えない。

だが、王太子の側近なのだから優秀なのは間違いないはずだ。


(……いいなぁ)

 

魔力量が多いのは、正直羨ましい。

 

私は隣のシトラールお兄様を見上げる。

――そこで初めて、身長差に気づいた。


(え、いつの間にこんなに……?)

 

軽く二十センチは違う。

 

……いや、違う。そこじゃない。

 

私は小さく息を吐いた。

 

「シトラールお兄様も、魔力量が多いのよね」


思わず恨めしげに呟く。

 

兄は我が家の第三子でありながら、淡い茶色の髪と瞳をしている。

私とは、明らかに違う。

 

兄は肩をすくめるだけで、何も答えなかった。

不公平でも、どうしようもないことだからだ。

 

それから、ふと気づく。

 

(……あれ?)

 

シトラールお兄様、普通に顔が良い。

 

母似の整った顔立ち。

それなのに、周囲の誰も彼に注目していない。

 

年頃の少女たちなら、普通は目に留めるはずなのに。

 

「どうしてお兄様はイケメンなのに注目されないの?」

 

率直な疑問をぶつける。


シトラールお兄様は、少しだけ顔をしかめた。

嫌な話題だったようだ。

 

「……認識阻害の魔法をかけている。母上とリモネン姉上も同じだ」

 

「え?」


初耳である。

 

母も姉も、間違いなく美人だ。

むしろ、なぜ隠すのか分からないレベルで。

 

ちなみに長兄と私は、父似の普通顔である。

普通顔なのに、あの二人は徹底的に気配を消している。

 

(……徹底しすぎでは?)

 

バウム家はとにかく目立つことを嫌う。

諜報向きの魔法を扱える家門だから、という理由もあるけれど。

 

私は改めて兄の顔を見た。


「美形も大変なんだね」

 

私には分からない苦労だ。

ぜひとも、そんな苦労をする人生を歩んでみたかった。

 

「ローレル殿下、ごきげんよう」

 

澄んだ声がその場に響いた。

 

振り向けば、気品あふれる令嬢がローレル殿下に声をかけている。

 

「ローズマリー・トスカナ公爵令嬢だ」

 

シトラールお兄様が小声で教えてくれる。


薄紫の髪と瞳。

まさに高貴という言葉が似合う令嬢だ。

 

(うわ……すごい綺麗)

 

ローレル殿下の隣に立っても違和感がない。

むしろ、お似合いですらある。

 

(婚約者候補、筆頭って感じだなぁ)

 

そんなことを思っていると――。

 

「こんにちは! 私、ラズベリーって言います!」

 

場の空気をぶち壊すような、明るい声が響いた。


場違いな少女が、ローレル殿下一行に向かって、一直線に突撃していくのを見てしまった。

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