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空中庭園でお茶会


王宮で暮らし始めて五日目。

――いまだに、結婚した実感がない。


高級な調度品に囲まれた生活にも慣れないし、侍女やメイドが身の回りの世話をしてくれる環境も落ち着かない。


バウム子爵家では「自分のことは自分でやる」のが当たり前だった。

使用人も最低限しか雇っていない。……というより、雇えなかったというのが正しいけれど。


(本当に、お母様って元王女だったの?)


めちゃくちゃ貧乏貴族生活に完璧に馴染んでいたように見えたんだけど。


祖母や姉と一緒に、楽しそうにドレスのリメイクをしていたし。

節約術を考えるのが趣味みたいになっていたし。


そんな母から届いた手紙には。


――自分で決めた結婚なのだから、頑張りなさい。幸せになりなさい。


と、あっさり書かれていた。


新婚の邪魔をするのも悪いから、少ししてから会いに行くとも書いてあった。

あまりにも淡白で、逆に母らしいとも思うけれど。


バウム子爵家は目立つことが好きではない。

完全にバウム子爵家の一員になっている母が、本当に王城に来てくれるのか疑問は残る。


ローレル殿下とは相変わらず、朝食と夕食を一緒にとるだけ。


それ以外では、ほとんど顔を合わせない。

公務がお忙しいのだろう。


夜もお互い別々の部屋で眠っているし、会話も他愛ないものばかりだ。


(……本当に、結婚したんだよね?)


自分でサインしたはずなのに、どこか現実味がない。

うん。

やっぱり実感がない。

 

そんなローレル殿下が、今日は珍しく昼過ぎに王太子宮殿へ戻ってこられた。

どうしたのだろうと思っていたら。


今、私は――。

ローレル殿下と二人きりで、お茶をしている。


しかも場所は、王太子宮殿のルーフガーデン。

空中庭園なんて、存在すら知らなかった。


しかも現在、自分が住んでいる王太子宮殿にあるなんて。

……私用にと言われた部屋以外は怖くて探索出来ないんだよね。


ルーフガーデンには、とても気持ちのよい風が吹いていた。

目の前には、見事に手入れされた薔薇が咲き誇っている。


その中には――。

本来ならバウム領でしか育たないはずの、青薔薇、緑の薔薇、そして赤い薔薇も混じっていた。


(……え、なんで?)


他にも様々な種類の薔薇が並んでいる。

もしかして、わざわざバウム領の土を運んできたのだろうか。


私が魔法改良した薔薇は、土の魔力に影響を受けることは検証済み。

実際、微かにバウム領の土の気配を感じるし。


家族や領民のために作ったものなので、他の場所で栽培できないようにするために、バウム領の土でしか作れないように魔法改良していた。

もし特産品になった場合、市場を独占しバウム領の利益になるように。


まさか、本当に特産品になるとは魔法改良している時には思っていなかったけど。

軽い気持ちで、そうなったらよいなーくらいの感覚だった。


……私って物事を深く考えてないな。

もっとちゃんと考えるようにしなくては。

 

そんなことを考えていたら、目の前に優雅に座っているローレル殿下は、機嫌が良さそうに微笑んでいる。

――眼福である。


何か良いことでもあったのかな?

ローレル殿下が嬉しいと私まで嬉しくなってしまう感じがする。

 

「どう? 生活には慣れてきた?」

 

「はい」


私は微笑んで頷いた。

ここで「慣れていません」なんて言えるはずもない。


高価なものに囲まれて生活することに慣れていない。

毎日、何かを壊してしまったらとビクビクしている。

これって慣れるのかな。

永遠に慣れない気がする。

疑問しかない。

 

「ローレル殿下、本日のご公務はよろしいのですか?」

 

沈黙に耐えきれず、私から話題を振る。


正直、何を話せば良いのか分からない。

今まで接点がなかったのだから当然だけど。

 

ローレル殿下は、少し困ったように微笑んだ。

 

「本当はね、メリッサ嬢と結婚したら、しばらく公務を休むつもりで調整していたんだ」

 

「……え?」

 

「……え?」

 

思わず声が出た。

私の反応にローレル殿下も驚いたように声を漏らした。

 

急に決まった婚姻ではなかったのだろうか。

確かに普通の結婚の場合、結婚したら暫く休暇を取る風習がベイリーフ王国にあることは知っているけど。


殿下も戸惑っていると思っていたのに。

その口ぶりだと、ずっと前から決まっていたように聞こえる。


だって、婚約もせずにいきなり結婚だよ?

前代未聞なんじゃないの?


ある疑問が脳裏によぎる。

もしかして……。


(……え? 私だけ知らなかった感じ?)


私だけではない。

父も知らなかったはずだけど。

 

「予定外の仕事が増えてね」


苦笑しながらローレル殿下はため息交じりに言った。

苦労が滲み出ている。

 

「大変ですね……」


それしか言えない。

実際、私はローレル殿下の仕事内容を知らない。


大国の王太子であるのだから国政に関わる重要な仕事をしているんだろうな。

その程度のことしか分からない。


私、王太子妃になったんだよね。

ローレル殿下の仕事内容を知らないのは流石にまずいのでは?

 

ふと、疑問が浮かんだ。

 

「私は……何かお仕事をしなくてもよろしいのでしょうか?」

 

王太子妃になったのだから、私にも公務があるのでは?

この五日間、私はほとんど何もしていない。

王太子妃に何も仕事がないはずはない。

 

「そうだね。まずは結婚式の準備かな。メリッサ嬢の仕事は」

 

ローレル殿下の言葉に私は思わず目を見開いた。

盲点だった。


結婚式。

 

(……そうだよね、普通はするよね。結婚式)

 

でも本来なら普通は、婚約してから結婚では?

婚約も婚約式をしていないことに気がつく。


ベイリーフ王国では婚約式なるものが行われるのが普通だ。

貴族に限ったことだけど。


結婚式もするのに、どうして婚約式をするのか不思議だった。

日本の結納みたいなものだろうか。


平民になる予定だったから、その辺の事情はよく分からない。

婚約式って何をするのだろう?


まぁ、婚約をすっ飛ばして結婚してしまったから私には婚約式は関係ない……はずだ。


関係ないよね?

今更しないよね?


私はいきなり婚姻証明書にサインしたから、てっきり結婚式もしないのかと思っていたくらいだし。


大国の王太子の結婚式。

しない方がおかしい。

冷静になって考えれば分かることなのに。


(……すごく大掛かりそう)


思わず遠い目をしてしまう。

できれば、遠慮したい行事である。


結婚式でローレル殿下の隣に立つの?

いくら私が着飾ったところで、完全にローレル殿下に見劣りする。

安易に想像できてしまう。


そこはあまり考えないようにしようと気を取り直す。

花婿より見劣りする花嫁になってしまうのは決定的事項なのだから。

 

「そういえば……」

 

私は、ずっと気になっていたことを口にした。

 

「ローレル殿下は、私のことをご存知だったのですか?」

 

接点なんて、なかったはずだ。

 

その瞬間。

ローレル殿下の紅茶を飲んでいた手が、わずかに止まった。

 

「……?」

 

私、変なこと聞いた?

首を傾げてしまう。

 

「……十二歳の時に顔合わせをしたよね。もしかして、覚えていない?」

 

目を見開いて言われて、私は――。

思い出してしまった。

 

(あ)

 

イーズ侯爵家。


髪はボサボサ。

ドレスはヨレヨレ。

しかもシトラールお兄様とベッドの上で派手に喧嘩していた。

 

しかも、私は二日間も寝ていなかった。

あの日の記憶は曖昧だ。

 

(最悪だ……)

 

思い出した瞬間、顔が熱くなる。

穴があったら入りたい。

 

「……魔法学園では、お話する機会がなかったので……私のことはご存知ないのかと、思っておりました」

 

しどろもどろになりながらも、なんとか答える。

これは事実だ。間違ってはいない。

 

「同じクラスで三年間過ごして、知らないわけがないよ」

 

ローレル殿下は当然のように返答する。

ごもっともです。

 

「ハーツは私の側近だし。剣術の授業ではシトラールと組むことも多かったよ。メリッサ嬢の話題が出ない方がおかしい」

 

ローレル殿下は、どこか楽しそうに笑った。

 

(……え?)

 

シトラールお兄様の話、初耳なんだけど?

見かけによらず武道全般は得意なんだよね、シトラールお兄様。

 

私は混乱しながらも、魔法学園時代のことを思い出していた。



読んでいただきありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

次回から魔法学園回想編になります。よろしくお願いします。

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