↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/146

(回想)第一印象


なんだか、ふわふわしている感覚。


目の前には美しい少年がいる。見覚えがある。


淡い金髪と空色の瞳は変わっていない。

これは、ローレル様の幼い頃のお姿だ。


六年前、初めてお会いした十二歳の頃のローレル様。

王族だけあって、少年の頃から神々しい。


思わず拝んでしまいたくなるほどである。


隣にはシトラールお兄様。

そして、ハーツ様もいる。


二人とも幼い頃の姿だ。こんなにも可愛い時期があったよね。

そんなことを思った。


あ、これ夢だ。


夢の中で夢だと自分で気が付くことは滅多にない。


イーズ侯爵家の客間の一室。

しかも、ベッドの上でシトラールお兄様と喧嘩をしているところを見られた。


その後、ハーツ様専用のサロンでお茶をした時のことだと気付く。


ローレル殿下は、先ほどからずっと私を見つめている。

究極の美少年に見つめられ、私は居心地が悪い。


出されたお茶にも手を付けられない。


どうして私はローレル殿下とお茶をしているのかも、この時は理由が分からず、緊張だけが私を支配していた。


ハーツ様は我関せずと、一人優雅にお茶を飲んでいるし。

腹立たしい。


ローレル殿下相手に兄を隠れ蓑にするのは可哀想だから、自分で何とかしなきゃ。

シトラールお兄様も、まさか今日、王族のローレル殿下と会うなんて思ってもみなかっただろうし。


ただ、私はこの二日、寝ていない。

完全に寝不足で、今日は頭の回転が著しく悪いことは自覚していた。


それにしても、どうしてローレル殿下は私のことを見ているの?

もしかして、珍獣だと思われている?


まあ、ベッドの上で喧嘩をしている兄妹なんて、ローレル殿下は初めて見ただろうし。

ローレル殿下からすれば、私は珍獣と変わらない立ち位置なのだろうけど。


それにしても、見過ぎじゃない?


穴が空きそうなほど見つめられたのは、私も初めてで戸惑う。


もともと目立つことはしない。

だから、こんなにも見られた経験がない。


どうしていいか分からず、途方に暮れていた。


頼みの綱のハーツ様は助けてくれそうにないし。

困った。


そして、ローレル殿下の表情からは、何を考えているのかも読み取れない。


喜怒哀楽のどれにも当てはまらない、そんな表情。

さすが王族。


ここまで相手に感情を読み取らせないとは、見事としか言えない。


何と声を掛けていいかも分からない。

突破口がない。


ちなみに私は、ずっと微笑みを浮かべている。

そろそろ表情筋が限界を迎えようとしていた。


それにしても、誰も何も話さないまま三十分は経過しようとしている。


本当に、何、この時間。

ローレル殿下は王族だから、忙しいんじゃないの?


こんな無駄な時間を過ごしていていいわけ?


本来なら、ホストであるハーツ様が行動を起こすところじゃないの?

そもそも、ローレル殿下はハーツ様に会いに来たんでしょう?


疑問が次々と湧いてきた。

ストレスが溜まってきているのが自分でも分かる。


その時、ハーツ様の侍従がサロンへ入ってきた。

これで少しは状況が変わるかもしれない。


というか、変わって!

お願いだから!


「ハーツ様」


「どうだった?」


「西棟の樹の伐採が終わり、処分も完了いたしました」


ハーツ様に耳打ちしている侍従へ、私は思わず視線を向けた。


え?

西棟のあの樹、伐採しちゃったの?


多分、毒薬が作れるあの樹のことだよね?

なんで伐採しちゃったの?

勿体ない!


今回のイーズ侯爵家への訪問では、クラリスが所用があるとのことで付いてきていない。

だから、あの西棟の樹の葉から毒薬を作る絶好のチャンスだったのに!


クラリスは毒耐性が低い。

だから、彼女の前では毒耐性の実験はできない。

もしクラリスが毒のせいで体調を崩すようなことがあったら嫌だから。


その時、ふと気が付いた。

クラリスが私の側にいるのって、毒耐性の実験をさせないためなのでは……?


あり得ない話ではない。

誰だ、クラリスを私の見守り役にしたのは。

レーモンお兄様の可能性が一番高い気がする。


それよりも今は、あの樹のことである。

しかも、伐採だけではなく処分も完了したということは、葉っぱ一枚も残っていないってこと?


毒薬を抽出することにこだわらず、一度あの葉を食べておくべきだった。

後悔に襲われる。


それにしても、いつも私の計画を邪魔してくれるよね。

ハーツ様め、いつか仕返ししてやる。


「メリッサ嬢」


「え?」


私は名前を呼ばれ、視線をローレル殿下へ戻した。


ローレル殿下に名前を呼ばれ、驚く。


「? メリッサ・バウム子爵令嬢、だよね?」


「はい、そうです」


返事ができなかった私に、ローレル殿下は確認するように尋ねてきた。


しがない子爵家の末娘の名前なんて、すぐに忘れていただいて結構です。

内心、そう付け加える。


ローレル殿下は少し不機嫌そうな気がした。

でも、表情は先ほどとは違い笑顔である。


しかし、不機嫌なのは間違いない気がした。

何か気に障るようなことをした?


まだ、まともに話してもいないのに。

不興を買うようなことはしていないはずだ。


「メリッサ嬢、好きな花は何?」


「花、ですか?」


「そう、花」


なぜ、いきなり花の話題になるのかが、まず分からない。


普通、会話に困った時に話すのは天気の話じゃないの?

一番当たり障りのない話題だし。


もしかして、これがベイリーフ王族ならではの会話の仕方かな?

聞いたことはなかったけど。


でも、ローレル殿下に尋ねられて答えないわけにはいかない。


とはいえ、好きな花なんて考えたこともない。

もともと花には興味がないし。


有毒植物なら、それなりに答えられるけど。


さすがにスズランとか紫陽花とか、毒のある花の名前を挙げたら駄目だよね。

国家転覆を狙っていると思われかねない。


ヤバい。

毒の含まれていない花って、何があるのよ。


咄嗟に思い浮かばない。


「メリッサ嬢?」


ローレル殿下は相変わらず視線を逸らさない。


ずっと見つめられていることも、思考を鈍らせる原因の一つなんだけど。

そんなことは言えないけど。


「(毒の含まれた)お花は本当に好きで、迷ってしまっています」


私は微笑みながら答え、ぐるぐると思考を巡らせる。


普通の令嬢が好きそうな花……。


「やはり、薔薇が一番好きです……。まだ子どもの私には似合わないかもしれませんが……」


よし。

何とか答えられた。


……他に花の名前が思い浮かばなかった。

でも、薔薇なんてありきたり過ぎる。


そう言えば、バウム領で薔薇を植えているのを見たことがない気がする。

土地が痩せているからかな。


シトラールお兄様とハーツ様、それにハーツ様の侍従が笑いを堪えたのが微かに分かった。

……似合わないなとは、自分でも分かっている。


だけど、ハーツ様!

肩を震わせて、そこまで笑いを堪えているのには腹が立つ。


声を上げて笑われた方が気が楽だ。

……ローレル殿下の前ではできないのだろうけど。


「そんなことはないよ。メリッサ嬢には、とても似合う花だと思う」


内心、安堵していると、ローレル殿下が満面の笑みを浮かべて言った。

しかも力説である。


一瞬、馬鹿にされているのかと思ったけど、ローレル殿下にはそのような意図はなさそうだった。

本心からおっしゃっていることが伝わってくる。


「……ありがとうございます」


とりあえず、私はお礼を言う。


ローレル殿下が何を考えているのか、本当に分からない。

相手の感情がここまで分からないと、不安になるものなのかと初めて思った。


ローレル殿下は、にこにこと上機嫌に笑っている。

先ほどまでの不機嫌そうな雰囲気は、跡形もなく消えていた。


王族って、訳が分からない。


関わりたくない。


それが、私のローレル様への第一印象だった。

読んでいただきありがとうございます! 面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。