独占欲
優秀なローレル様でさえ、仕事が立て込んでいるのだ。
心配になる。
「一時的には忙しかったけど、今は少し落ち着いてきたよ」
嬉しそうにローレル様が言う。
もしかして、ワーカーホリックなのだろうか。
無理はしないでほしい。
……。
そもそも、王宮というか、王城勤めの人ってブラック企業に勤めているようなものでは?
国の上層部が休まなければ、部下はなかなか休めないよね。
そこは変えていった方が絶対に良い。
やはり、働き方改革は必要だと改めて思った。
私もこれからブラック企業……もとい、王宮で働かなければいけないのだし。
そして私は、有り難いことに王太子妃という立場である。
なりたてほやほやのド新人でも、王太子妃であることに変わりはない。
改革を進めていく上で、この役職は有利に働きそうだ。
もちろん、ローレル様に相談して、すり合わせをしながら、ゆっくりと働き方改革を進めていくのが良いだろう。
急に働き方改革を始めてしまったら、みんなが混乱してしまう。
周りの様子を見ながら、ゆっくりと進めていきたい。
事を焦って失敗したら意味がないし。
それに、福利厚生や有給制度も取り入れたい。
時間がある時に、提出する企画書の原案を書き始めておこう。
その前に、現段階でどのような勤務実態になっているのか、把握しておくことも大事だよね。
それとなく周りに聞いておこう。
「メリッサと結婚式を挙げたあと、ゆっくり二人で過ごしたいからね。だから頑張れるよ」
ローレル様が続けた。
「それなのに、メリッサは別のことを考えているし。もう少し私のことを考えてほしいところだね」
ローレル様は、少し微妙な表情を私に向けている。
働き方改革を考えていたことがバレていた。
決してローレル様のことを考えていなかったわけではない。
ローレル様にもこの働き方改革は関係していることなのだから。
でも私のためにローレル様が時間を作ろうとしていることは、素直に嬉しい。
だけど、ご自分の身体のことを第一に考えてほしいのも本音である。
ローレル様は、このベイリーフ王国の王太子。
彼の代わりはいないのだ。
「メリッサは私のことを全く知らないし、私もメリッサのことで知らないことが、まだある。二人でゆっくり過ごす時間を、たくさん取りたいんだ」
ローレル様の言葉に、私は思わず頷いてしまっていた。
お互いのことを知らないのは本当だ。
ローレル様は私のことを、かなり調べ上げているのだろうけど。
その上でまだ私のことを把握しておきたいなんて。
私も最近、やっとローレル様の考えていることの一部を、少しだけ分かってきた気がする。
気がする、のであって、それが本来のローレル様とは限らない。
これは私の想像の域を出ていないのが現実だ。
ちゃんと本人に確認しておきたいことは山ほどある。
そう言えば、私はローレル様の好きな食べ物や、好きな色さえ把握出来ていない。
ローレル様の、まだ知らない部分がとても多いのが実情だ。
ローレル様は王太子だから、私には言えないこともあるのかもしれない。
でも、それは仕方がない。
これから二人で生きていくために、話し合いはとても重要だ。
ローレル様がどのような人であっても、私はこの人と一生添い遂げると決めたのだ。
お互いのことを知って、その上で価値観をすり合わせることも大事だし。
たくさんお話ししたいと、私も思っている。
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食堂に着くと、美味しそうでヘルシーなランチがテーブルに並んでいた。
新鮮な野菜のサラダ。
その上には、スライスされたサーモンとチーズが載っている。
そして、緑の薔薇のポタージュも並んでいた。
美味しそう。
ランチを抜かなくて、本当に良かった。
チーズと、サラダに掛けるドレッシングが絶品なんだよね。
バウム領は山に囲まれた場所にあるため、海の幸はなかなか食べられなかったのだ。
王宮の料理は本当に美味しい。
スイーツも絶品だし……。
これは近い未来、必ず太るよね。
……今度は、ダイエット食を魔法改良で作っておくのも良いかもしれない。
王宮の料理やスイーツは美味しすぎて、つい食べすぎてしまうのだ。
少しはローレル様に可愛いと思われたい。
そんなことを考える。
「メリッサ、今は結婚式のことだけを考えて欲しい。余計なことを考えないように」
ローレル様は、私ににっこりと微笑みながら言う。
魔法を無駄に使わないようにと、牽制されてしまった。
本当にローレル様は、私のことをよく分かってきていらっしゃる。
ダイエット食の魔法改良は、まだ先の話になってしまいそうだ。
魔力量が少ないって悲しい。
小説を書く時間も確保しなくてはいけないし。
……あ、そうか。
結婚式だからということもあるけど、私が自由に時間を使えるように、私の公務を控えてくださっているのかもしれない。
でも、その分の負担がローレル様にのしかかってしまうのは嫌だな。
無理はしてほしくない。
私が何を言っても、ローレル様はのらりくらりと躱して、聞いてはくださらないのだろうけど。
そういうところは、本当に頑固なのだ。
これも最近分かったことだ。
毎日、ローレル様について新しいことを知ることが出来るようになった。
それより、今はランチを食べるのが先だ。
私はローレル様と歓談しながら、ランチを食べた。
最近は、ローレル様と食事を摂る時間が一番幸せな時間かもしれない。
そのことに気づいて、当然かと思った。
大好きなローレル様と一緒にいられること自体が、幸せなのだから。
家族と一緒に過ごす時間も、幸せだと思っていた。
でも、好きな人と過ごす時間の幸せは格別なのだと思ってしまった。
今まで、好きな異性なんていなかったし。
そう考えると、不思議な気持ちになる。
三か月前、魔法学園に通っていた時には、こんな幸せがあるなんて知らなかった。
まさか、ローレル様と結婚するだなんて思ってもみなかったし。
「メリッサ、機嫌が良いね。何かあった?」
「ローレル様と一緒にいられる幸せを、噛み締めておりました」
私の返答を聞いた瞬間、ローレル様はフォークを落とした。
カシャン、と皿とフォークがぶつかる音が響く。
ローレル様は、ひどく驚いた表情を浮かべて私を見ている。
フォークを落としたことにさえ、気づいていないようだ。
それほどまでに、私の返答に驚愕したらしい。
「ローレル様も、そう思ってくださっていると嬉しいです」
私は絶句しているローレル様に言った。
ローレル様は、私がそのようなことを言うなんて、思ってもいなかったのだろう。
ちゃんと言葉にしないと、相手には伝わらない。
ローレル様に対して、最近はそのことを実感している。
だから、正直に気持ちを伝えようと思った。
そして、ローレル様の気持ちも知りたい。
何を考え、どのような思いを経て、行動しているのか。
もっとローレル様のことを知りたい。
考えていることを分かりたい。
最近、強くそう思ってしまう。
まだまだ私とローレル様には、圧倒的に会話が足りない。
これでは、お互いのことなんて理解できない。
もう少しローレル様のことが分かったら、手助けできるのではないか。
恐れ多くも、そんなことを思う。
そして現在は、ローレル様の方が私のことをかなり把握なさっている。
それはそれで悔しいし。
私だって、ローレル様のことを誰よりも知っていたい。
分かっていたい。
ローレル様に対する独占欲が、強くなってしまっていると感じている。
まぁ、ローレル様も私に執着なさっているから、お互い様だよね。
徐々にローレル様の頬が赤く染まっていくのが分かった。
照れていらっしゃるらしい。
「……私は、メリッサに出会えた時から、ずっと幸せだよ」
少し躊躇いながらも、ローレル様は答えてくれた。
私はローレル様の返答がとても嬉しくて、自然と笑みを零していた。
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