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理想の夫婦の在り方


ローレル様は、私を強く抱きしめた。


「?」


私はローレル様が焦る意味が分からず、大人しく抱きしめられていた。


それから、ふと思い出す。

現在、王宮内で一番警備が整っているのが、この王太子宮殿だった。


その王太子宮殿に入り込んできたレーモンお兄様は、本当に凄い。

改めて思う。


でも、完璧な警備が敷かれているはずなのに、いきなり王太子宮殿に知らない気配が現れたのだ。

ローレル様は、さぞ驚かれたことだろう。


……私も、レーモンお兄様がいきなり現れたことには驚いたけど。

本当にレーモンお兄様が、どうやって入り込んだのか気になる。

絶対に教えてはくれないだろうけど。


レーモンお兄様は、私の性格をよく知っている。

新しい魔法に目がないことも。


教えてもらったら試してみたくなるのが、人間の性だと思う。

でも、レーモンお兄様が教えてくれないとなると、大量の魔力を消費する魔法なのだろう。


魔力量の少ない私には、きっと使えない魔法だ。

それでも試してみたら、魔力切れを起こして寝込んでしまう。


幼い頃から何度も繰り返してしまった、私の悪癖である。

レーモンお兄様が使えるなら、私も使えるようになりたいと思うのは、普通のことだと思う。


まぁ、そのせいで倒れて、家族に今まで何度迷惑をかけてきたことか。

魔法学園に在学中は、倒れる回数も少なかったはずだ。


でも、全く迷惑をかけていないわけではない。

……やっぱり、悪いのは私か。


自分の中で答えが出て、ため息を吐いてしまった。


「レーモン卿は、わざと気配を残していったのだろうな」


ローレル様が、私を抱きしめたまま呟く。


それは確かに。

レーモンお兄様がやりそうなことだ。


「おかげで、レーモン卿の位置特定も限定的に出来るようになった」


「? 限定的に、ですか?」


意味が分からず、私はローレル様に聞き返してしまう。


「王城の敷地内に入る前から、レーモン卿は完璧に気配を消していた」


「なるほど。敵を騙すなら、まずは味方からと言いますしね」


ローレル様の説明に、私は答えた。


でも、レーモンお兄様がそのようなことを考えていたかは怪しいけど。

実際にレーモンお兄様が何を考えているのかは、先ほどの短いやり取りだけでは測りきれなかった。


私がどのような経緯であれ、自分の意思で王太子妃になったことは、先ほど直接話した。

王族を敵とは思わないだろう。


「変な兄で申し訳ありません」


私はローレル様に謝罪した。


レーモンお兄様が何を考えているのか、私には分からない。

自分の考えを周囲に話す人でもないし。


あ、これはバウム子爵家全員に言えることだった。

もちろん、その中には、私も入っている。


「シトラールが言っていたよ。バウム子爵家の四兄弟の中で、メリッサはレーモンに一番似ていると。外見も中身も」


「……」


ローレル様の説明を、私は能面のような顔で聞いていた。

抱きしめられているから、きっとローレル様には今の私の顔は見えていないはず。


えー。

バウム子爵家で一番異質だと思われているレーモンお兄様と、似ていると思われているの?


それは嫌だな。

レーモンお兄様よりは、私の方が絶対に良識があるはず。


正直、レーモンお兄様と一緒にはしないでいただきたい。


シトラールお兄様は、そんなことを思っていたのか。

他のバウム子爵家の家族も、全員そう思っていないよね?


バウム子爵家の中で一番異質なレーモンお兄様と、私が似ているなんて。

冗談ではない。


確かに外見は、お父様譲りだから似ている。

本当は、超美人のお母様に似たかったのが本音だけど。


私は自分では、レーモンお兄様とは似ていないと思うんだけどな。


レーモンお兄様は、凄く努力を惜しまない人だ。

そこは素直に尊敬している。

私には出来ないことだから。


それに比べて、私は飽き性。

新しい魔法を考えるのは好きだけど、そこそこ成果が出たら、その時点で興味をなくしてしまう。


ここが、レーモンお兄様と私の決定的な差だ。


「……レーモン卿は、まだ私たちの結婚を認めてくれていないのだろうか。状況を考えれば、仕方のないことではあると思う」


肩を落として、ローレル様は言った。


こんな弱音を吐くローレル様を見たのは、初めてだった。


「……どうかしましたか?」


呆然として、無意識にローレル様の顔を覗き込んでしまっていた。


憂いている表情さえも格好良いと、感心してしまった。

直接は言えないけど。


それでも、私の前ではローレル様に弱音を吐いてほしい。

ローレル様の悩みを、私も一緒に悩みたい。


そして、いつかは支えられる人になりたいと思う。


「いつも前を向いているローレル様らしくありませんよ」


悩むことも悪いことではない。


このように私に話してくださるのなら。

二人で解決したいと思った。


これが、私の理想の夫婦の在り方だ。


「メリッサと強引に結婚してしまったけど、メリッサの家族や親しい人には嫌われたくないよ」


「……ローレル様」


「覚悟はしていたんだけどね。メリッサと結婚すると決めた時から」


ローレル様は、弱々しく笑う。


そのお姿も素敵だけど、いつものローレル様の方がもっと好きだ。

私は明るい声で説明する。


「大丈夫ですよ、ローレル様。私は国王陛下や王妃様、前国王ご夫妻にも、とても良くしていただいています。そのことを、バウム子爵家の者は全員知っています。だから、ローレル様を悪く言う人は、バウム子爵家には一人もいません」


私は胸を張って答えた。


たとえ多少強引であっても、結婚のきっかけをくださったのはローレル様。

そして、少し追い詰められてしまってはいたけど、ローレル様との結婚を決めたのは私だ。


個人の意思を最大限に尊重する。

それが、バウム子爵家なのだから。

現に、誰も異を唱えてはいない。


先ほどレーモンお兄様が言った「バウム領へ帰るか」という問いも、急に決めず、結婚について考える時間が必要なのではないか、という意味だったのだと思う。


レーモンお兄様は、ローレル様のことが嫌いなわけではない。

現在、私の夫に相応しいかどうか、観察している最中なのかもしれない。


それに以前、レーモンお兄様がローレル様のことを褒めていたのを聞いたことがある。

あの年齢で、しっかりした方だと。


十年くらい前の話だったが、普段レーモンお兄様は他人を褒めることがなかったので驚いた。

その時は、レーモンお兄様が仰るほどの方なのだと、印象に残った。


きっと、歴史に名を刻む立派な国王になられるだろう、と。

レーモンお兄様は人を見る目があるので、きっとそうなのだろうと思った。


まさか、そのローレル様の妃に私が選ばれるとは、思わなかったけど。

私も、きっとお兄様も。


今回の事件でもなければ、レーモンお兄様が王城に来ることはなかっただろうし。

少し後手に回ってしまったが、レーモンお兄様は、ローレル様の良いところをたくさん見つけてくれるはずだ。


その時は、レーモンお兄様からローレル様についての報告を、ぜひ聞きたい。

私も、ローレル様のことをまだよく知らないから。


ローレル様は、ほとんど私のことを知っているようだし。

これは不公平だと思う。


私だって、ローレル様のことをたくさん知りたい。

婚姻をしたのだから、誰よりもローレル様のことを知りたい。


独占欲が強くなっていっていることを、私は自覚している。


まず、どうして私が王太子妃に選ばれたのかも、まだ分かっていないし。

知らないことが多すぎる。


フローラ・フラワー嬢の件が片付き、結婚式も終わったら、直接ローレル様に聞いてみようと思った。

読んでいただきありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

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