報連相は大事です?
クラリスのおかげで、王子宮殿は白であることが確定した。
優秀な幼馴染に感謝である。
そして、私が現在住んでいる王太子宮殿も大丈夫。
それは間違いない。
クラリスの歌声を聞くことが出来て、私は落ち着いた。
思考がクリアになったのが自分でも分かる。
神経を集中させた。
私の魔力を乗せて、そよ風を吹かせる。
広範囲は無理でも、王宮の中心部だけなら、私の少ない魔力でも確認することが出来た。
近くにフローラ・フラワー嬢本人はいない。
誰かの身体を乗っ取っていた場合は分からないけど。
もし、誰かの身体を乗っ取っていたら、何かしらの違和感はあるはず。
それもなかったから、大丈夫だと思う。
不思議なことに、お母様とお姉様が後宮にいるのを感じた。
身内を間違えるはずがない。
間違いなく、お母様とお姉様が王妃様の近くにいる。
いつの間に王宮にいらしたのだろうか?
現在、危険な状況になっている王宮に、二人が来る理由がない。
もしかして、私のためだろうか。
見た目に反して、お母様もお姉様も大人しくしていられない性格ではあるけど。
そして、お母様とお姉様がいらしているなら、間違いなくお父様とレーモンお兄様もいらっしゃっているはず。
この二人の存在を把握することは、私には出来ないだろう。
それほどまでに、存在希薄の魔法を使うのが上手いのだ。
私ごときでは、二人を確認することは出来ない。
きっと、お父様は国王陛下の護衛をしている。
レーモンお兄様は単独行動の可能性が高い。
存在希薄の魔法ではなく、完全に存在を消す魔法を使っている可能性もある。
幼い頃からレーモンお兄様と鬼ごっこをして、見つけることを出来たことがない。
本気で隠れられたら、私では見つけられない。
もしかしたら、お父様よりレーモンお兄様の方が、血統魔法を使うのが上手いのかもしれない。
本当にレーモンお兄様は優秀なのだ。
バウム子爵家で一番、中身と外見のギャップがあるのは間違いなくレーモンお兄様なのだ。
しかも、私にもレーモンお兄様が使える魔法の全ては知らない。
私も家族に教えていない魔法があるから、お互い様ではあるけど。
ただ、レーモンお兄様は性格そのものが規格外なのだ。
思ってもみないことをしていたりする。
味方だから有り難いけど、レーモンお兄様が敵に回ったらと思うとゾッとする。
考えが全く読めないので、対策が取れない。
シトラールお兄様は感情を表情に出さないだけで、なんとなく考えていることは分かるのだけど。
一緒にいた時間が圧倒的に多いからかもしれない。
レーモンお兄様は、何を考えているのか全く分からないのだ。
しかも、笑顔を浮かべて相手を油断させるのも上手い。
存在希薄の魔法も使っているから、特に害がないと思われがちだ。
本当に怖い人とは、レーモンお兄様のような人のことを言うのだと、私は思っている。
性格にも難があるし。
レーモンお兄様の性格については、ほとんど知られてはいない。
バウム子爵家の中でも、レーモンお兄様は異質だ。
身内には甘いのは、バウム子爵家の気質を受け継いだからだろう。
そこは本当に有り難いけど。
「やぁ、メリッサ」
クラリスの歌を聴き終えても窓辺に立ったまま、集中して思考を巡らせていた私に、窓の外から声を掛けられた。
しかも、のんびりとした口調だった。
「っ!」
悲鳴を上げなかった自分を褒めてあげたい。
今まで、窓の外には誰もいなかった。
そして、気配も全くなかった。
そこにはレーモンお兄様がいた。
いつもの感じの良い笑顔を浮かべて。
「レーモンお兄様……お久しぶりです」
私は警戒から一気に脱力して、レーモンお兄様に挨拶した。
今、レーモンお兄様のことを考えていたのに。
まさか本人が私の目の前に現れるなんて。
偶然すぎる。
もしかしたら、レーモンお兄様は計画的に私に声を掛けたのかもしれない。
本当にレーモンお兄様の考えが読めない。
昔から突拍子もないことをする人ではあったけど。
「少し大きくなったんじゃないか?」
「……そうですね。最後にレーモンお兄様とお会いしてから半年近く経ちますし、数ミリほど背が伸びた可能性はありますね」
なんだか普通に話を振られて、ますます脱力してしまった。
レーモンお兄様は、こういう人ではある。
「それにしても水臭いではないか、メリッサ。相談もなく結婚してしまうなんて」
少し拗ねたような口調で、レーモンお兄様は言った。
きっと、私の現在の状況はお父様から聞いているはずなのに、敢えて聞いてくる。
しかも、大げさな仕草をしながら。
ちなみに、私がいる部屋は三階だ。
窓の外に立っているのだから、落ちないか心配になる。
そんなヘマはしないと思うけど。
「……私にとっても突然のことで、連絡する暇がなかったのです。ごめんなさい」
一応、謝る。
でも、手紙はたくさん書いた。
主に、レーモンお兄様に引き継いだ魔法改良の件についてだけど。
お兄様からの返事は、そっけないものばかりだった。
もしかして、私がいきなり結婚したことを本当に拗ねていたのかもしれない。
「まさか王太子妃になるなんて。本当にお前は私の想像を軽く越えていくな」
「私だって、自分が王太子妃になるなんて考えてもいなかったのです!」
レーモンお兄様の呟きに、私は即答した。
「……メリッサがバウム領に帰りたいなら、連れて帰るが?」
レーモンお兄様の言葉に、それまで室内でレーモンお兄様の登場に呆然としていたアンジェリカとネリーさんが、警戒態勢に入ったのが伝わってきた。
「私は自分で決めて、ここにいます。バウム領に帰るつもりはありません」
自分でも驚くほど、すっと言葉が出てきた。
これが本心なのだと、改めて自覚する。
「そうか。メリッサの意思がちゃんとあるのなら、尊重しよう」
「ありがとうございます」
私の意思を尊重してくれるレーモンお兄様に感謝した。
今までだって、そうだった。
いつも私の意思を尊重してくれた。
レーモンお兄様だけではなく、家族やバウム領の人々も。
本当に私は恵まれている。
「私が魔法を使ったから、レーモンお兄様はこちらにいらっしゃったのですか?」
私の問いに、レーモンお兄様は苦笑いを浮かべた。
どうやら図星らしい。
昔から、魔力量の少ない私のことを心配してくれる。
「メリッサ、今は魔法を使うことを控えた方が良い。いざという時のために」
「……」
「今、メリッサが調べたいと思っていることに関しては、私たちが調べるから大丈夫だ」
「……分かりました。ありがとうございます」
「久々にゆっくり話せて嬉しかったよ。メリッサが元気そうで良かった。また、落ち着いたら会おう」
そう言って、レーモンお兄様は姿を消した。
私は窓から外を見渡した。
下に落ちてはいない。
左右にも、上階にも移動していない。
王太子宮殿の他の窓は、全て閉まっている。
一体、どんな魔法を使っているのか。
気になる。
それにしても、レーモンお兄様の凄さを改めて感じた。
「メリッサ!」
私の名前を叫びながら、ローレル様が室内に突如現れた。
「ローレル様?」
私は驚きながら振り返った。
いつの間に!
どうやら、瞬間移動の魔法を使われたようだ。
「今、知らない気配が一瞬した。何があった!?」
ローレル様は焦ったように私の肩を掴む。
表情はとても真剣だ。
「先ほどまで、兄が来ておりました」
「シトラール?」
「いえ、長兄のレーモンお兄様です」
「……レーモン卿か」
少し安堵したように、ローレル様はため息を吐いた。
「本当に、バウムの人間は一体どうなっているんだ……」
「?」
ローレル様が疲れたように呟いた言葉の意味が分からず、私は首を傾げた。
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