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(回想)神の愛し子(コモン・ジンガー視点)


サフラン王国での留学を終えて、祖国に帰ってきた私は、王宮で文官として働き始めた。


ジンガー侯爵家の嫡男という肩書もあったからか、どんどん出世していった。

王宮の仕事はやり甲斐があり、充実している日々が続いていた。


気がつけば、異例の若さで宰相の地位にまで上り詰めていた。


昇進するたびに、手掛けることができる仕事が増えていく。


ベイリーフを世界で一番良い国にするために、王宮内部のガサ入れにも着手した。

多少の貴族階級は残さなければいけないのが残念ではあったが、下位貴族でも優秀ならば重役に就くこともできるようになった。


あとは、平民の雇用をどうすれば上手く進められるか。

どうすれば優秀な人間を王宮で働かせることができるか。


その壁にぶち当たっていた頃だった。


当時のベイリーフ王太子妃、ケイジュ妃殿下の出産と、サフラン王国のソレイユ王女が家出して、バウム子爵家に単身で突撃……身を寄せたのは、ほぼ同時期だった。


その時、先のサフラン王国の国王サティウス陛下の予見を思い出した。

ソレイユ王女の想い人が、まさかバウム子爵家の令息だとは思わなかった。


世間体があるために、結婚までベイリーフ王国の王宮で暮らさないかとソレイユ王女に打診したところ、けんもほろろにお断りされてしまった。

どうしても、バウム子爵令息ペダニウスの側を離れたくないとのこと。


ペダニウスが優秀なのは知っていた。

ただ、それをペダニウスは上手く隠していたはずだ。


しかも存在希薄の魔法も極限まで使っている。

その状況の中で、どうやってソレイユ王女がペダニウスを見初めたのか分からなかった。


ソレイユ王女はバウム子爵家に住み始め、毎日飽きることなく、ペダニウスに愛の言葉を囁いていたそうだ。


ペダニウスは一ヶ月を超えた頃に、抵抗することをやめて白旗を上げた。


サフラン王国からのかなりの重圧もあったと聞く。

だが、バウム子爵家が権力などに負けはしない。


特にペダニウスは芯が強いのを、私は知っている。


どうやら、ペダニウスはソレイユ王女に絆されたらしい。

押し負けてしまったようだ。


好きな異性もいなかったと聞くし、ベイリーフ王国としては、バウム子爵家ならソレイユ王女の安全だけは確保することができる。


そして生活する上で、バウム子爵家がソレイユ王女を疎かにすることもない。

最大限、ソレイユ王女の意思を尊重してくれる家門である。


ソレイユ王女とペダニウスの婚約が決まり、二人は間を置かずに結婚式を挙げた。

バウム領の小さな教会で。


サフラン王国の王女の結婚式である。

ベイリーフ王国の王都の大聖堂で結婚式を挙げるべきでは、と一応連絡を入れてみた。


しかし、バウム領の教会での結婚式を望んだのはソレイユ王女とのことだった。

代々、バウム領の嫡子の結婚式はそこで行うことが伝統らしいと聞いて、ソレイユ王女がその教会で結婚式を挙げたいと言い出したらしい。


私も宰相として二人の結婚式に出席した。

そこで約二十年ぶりに、グローリー殿下にお会いすることもできた。


サフラン王国とベイリーフ王国からの貴賓はそこまで多くなく、バウム領民が一丸となり結婚式を盛り上げていたことが、とても印象に残った結婚式だった。

普通の貴族の上っ面だけの祝いではなく、心から結婚式を祝っていた。


ペダニウスとソレイユ元王女の結婚式が終わり、グローリー殿下と少しだけ会話する機会があった。

娘が手元から離れることに寂しさを感じていたようだが、バウム領を見て満足そうに笑った。


「ここが、神の愛し子が生まれる場所か……とても相応しい場所だ」


グローリー殿下の呟きが、とても耳に残った。


バウム領は土地こそとても痩せているが、領民は善良で活気に満ちている。

インフラもベイリーフ王国で一番整っている場所だった。


「ペダニウス卿も優秀な人物で安心したよ。コモン、これからも娘と……生まれてくる孫たちをよろしく頼む」


グローリー殿下に頭を下げられ、慌てた。


「立派な宰相になった君に会えて良かった」


「サフラン王国での恩義は忘れられません。サフラン王国に留学したからこそ、今の私があるのです」


私も本音で答えた。


あの日、あの時。

サティウス陛下からお言葉を頂戴したことで、私は自分の進むべき道を見つけられた。


それは、グローリー殿下がサティウス陛下へと繋ぎを取ってくださったからだ。

いくら感謝しても足りない。


私が生きている限り、ベイリーフ王国はサフラン王国との友好関係を続ける。

できれば私の命が終えたあとも、友好が続くように、できることはすると決めている。


どこまで私にできるかが腕の見せ所だろう。



   ■□■□■□■□■□



バウム領から王宮に戻ると、残念な知らせが待っていた。


王太子夫婦の第一子であるローリエ王女殿下が夭逝したのだ。


生後三ヶ月も経っておらず、突然死だった。

なんとこの世は無常なことか。


ケイジュ妃殿下は塞ぎ込み、ルベール王太子も痛みを分かち合っているようだった。


それからしばらく、王宮は暗い雰囲気に包まれていた。


その状況が変わったのは、約一年後のことだった。



   ■□■□■□■□■□



サフラン王国の元王女であるソレイユ夫人が懐妊した連絡は入っていた。


だが、ソレイユ夫人が双子を懐妊していると聞いたのは、出産予定日より二ヶ月前になってからだった。


医療魔法のおかげで、ベイリーフ王国では出産時の母子ともに死亡する確率は低い。

しかし、多胎妊娠だと話が違ってくる。


ベイリーフ王国には、多胎出産の症例が極端に少なかったからだ。


ソレイユ夫人は現在はベイリーフ王国のバウム子爵家の人間でも、元はサフラン王国の王女なのだ。

彼女や腹の子たちに何かあった場合は、国際問題になってしまう。


万全の体制で出産を迎えられるように、ソレイユ夫人には王宮で出産してもらうことになった。

ソレイユ夫人がペダニウスと離れて暮らすのは嫌だと言うので、二人揃って王宮暮らしになってしまったのだ。


ルベール王太子が若い頃から認めているだけあって、ペダニウスはとても優秀だった。

優秀だとは聞いていたが、ここまでだったとは。


聞くのと実際に見るのは大違いだった。

またひとつ勉強になった。


王宮でのペダニウスとソレイユ夫人の出産費と生活費を上回る働きをしてくれた。

できれば、このまま王宮に留まってほしかったが、それは簡単に却下された。


私の補佐をしてほしかった。

そして宰相の任を、彼になら任せてもよいと思わされたのは初めてだった。


自由奔放なソレイユ夫人を心配して、ケイジュ妃殿下は甲斐甲斐しく世話を焼いていた。


ソレイユ夫人の出産も無事に終わり、男女の双子が生まれた。


いつの間にかケイジュ妃殿下も、ルベール王太子殿下も前を向くことができていた。

そのことに安堵する。


私は双子の女児であるリモネン嬢を見た。

彼女が神の愛し子なのだろうか?


ソレイユ夫人に似て、とても美しい赤子だとは思ったが……。

私にはこの女児が神の愛し子たとは判断はできなかった。


神の愛し子について、私はベイリーフ王国では誰にも言っていなかった。

サフラン王国の機密事項である。


レーモンとリモネンと名付けられた二人は、ケイジュ妃殿下の後押しもあり、生後半年までは王宮で育てられることになった。


ソレイユ夫人は、自分はもう王女ではないのだからと乳母を雇わず、ペダニウスと二人で子育てすると言い出すし。

ペダニウスも、ソレイユがそれで良いのなら、の姿勢だし。


初めての子育て、しかも双子の子育てを甘く見るなと、ペダニウスに私が説教してしまったのは内緒だ。


だが、ソレイユ夫人の意思は固く、なぜかケイジュ妃殿下が乳母の真似事をしていた。


双子が生後半年になり、ペダニウスとソレイユ夫人はバウム領へと帰って行った。


王宮をあとにする際、ケイジュ妃殿下とソレイユ夫人が手を取り合って号泣していたのが印象的だった。

いつの間にか、友人の枠を超えて姉妹のような関係になっていたらしい。


そして、その翌年と翌々年にソレイユ夫人が出産した。

末子は娘だったという情報が入っていた。


ケイジュ妃殿下も、ソレイユ夫人が末子を産む数ヶ月前に、待望のローレル王子殿下を出産していた。


バウム子爵家の第二子と末子。

どちらかが神の愛し子で、ローレル王子殿下の妻になる。


まだ、先の話だと当時は楽観的に思っていた。

読んでいただきありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

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