↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【栴檀外伝】「新・夢十夜」伊崎進の異世界転生の夢物語  作者: Kyoi
第八夜 大久保利通の波乱万丈
PR
55/66

第7章 西郷との衝突

 【東京・閣議室「征韓論争」の激突】


 欧米視察から帰国した大久保利通を待ち受けていたのは、留守政府を預かる最大にして最愛の親友・西郷隆盛との壊滅的な対立であった。

 国交拒絶の姿勢をみせる朝鮮へ、自ら単身大使として乗り込もうとする西郷。

 不平を募らせる士族たちの目を外に向けさせ、かつ武士の誇りをかけた外交を開こうとする西郷に対し、欧米の圧倒的な国力と産業を目撃してきた大久保は断固として反対した。

「いま外征を行えば、欧米列強につけ込まれ、新生日本は足元から瓦解する! 今なすべきは内政の整備——富国強兵と殖産興業だ!」

 閣議の場は凄惨な緊張感に包まれた。

「一蔵さあ……おまんの手腕は認めもす。じゃが、欧米の物真似ばかりで、維新のために血を流した武士や民の心を置き去りにするつもりか!」

「吉之助さあ! 情や面目だけで国家は動かんと言ったはずだ! 今の日本に戦をやる余力など微塵もない!」

 かつて桜島の麓で貧しい芋を分け合い、寺田屋、薩長同盟、戊辰戦争と、二人三脚で幕府を倒してきた二人の道が、完全に途絶えた瞬間であった。


【下野する西郷と、独裁の始まり】


 大久保は岩倉具視や伊藤博文らと密かに画策し、巧みな政治工作で西郷の派遣決定を覆した。

「……一蔵さあ。もはや、おいがこの政府におる意味はなくなった」

 明治6年10月23日。敗れた西郷は辞表を提出。江藤新平、板垣退助らとともに政府を去り、故郷・鹿児島へと下野していった。

 暗い執務室で、去り行く西郷の背中を進は見つめていた。

「一蔵さあ……! 本当にこれで良かったのですか! 西郷様は貴方の唯一無二の理解者であり、この国の魂だったはずだ! 追放するような真似をして……!」

 進が声を落として問うと、大久保は書類を検分する手をぴたりと止め、深く息を吐き出した。その表情は、血の気が失せたかのように蒼白であった。

「……吉之助さあを追放したのではない。わしが……吉之助さあに捨てられたのだ」

 大久保の手が微かに震えていた。

「だが、わしは立ち止まらん。内務省を設立し、わしが自ら『内務卿』としてこの国の舵を取る。吉之助さあが去ろうと、天下の不平士族がわしを呪おうと、わし一人でこの日本を近代国家に仕上げてみせる」

 西郷が去った後、大久保は内務卿として事実上の「独裁者」となり、国家の全権を握り潰すように推し進めていった。


【西南戦争——運命の破滅】


 しかし、運命の歯車は二人を凄惨な悲劇へと引きずり込んでいく。

 西郷を慕って鹿児島に集まった万を超える不平士族たちが「私学校」を結成。政府の刺客疑惑や兵器搬出に激怒した若者たちに担ぎ出される形で、ついに西郷隆盛は挙兵した。

「新政府に尋問の筋あり」——西南戦争の勃発である。

 京都の行幸先で報せを受けた大久保は、拳を叩きつけ、絶叫した。

「吉之助さあ……! なぜだ! なぜ士族どもの暴走を止められなかったのだ! お前ほどの男が、なぜ不平士族の道連れとなって死を選ぶのだ!!」

 大久保は政府軍の総指揮を執り、最新式のスナイドル銃と山砲、徴兵された平民の兵士たちを容赦なく九州へ送り込んだ。

 田原坂の激闘。熊本城の攻防。

 かつてともに維新を成し遂げた薩摩の兄弟たちが、官軍と薩軍に分かれ、泥と血にまみれて互いを殺し合った。


 【吉之助さあの死】


 明治10年9月24日。

 追い詰められた西郷隆盛は、鹿児島の城山にて自刃。享年50。

 東京の内務省で西郷の訃報を受け取った大久保は、自室に引き籠もり、人目を憚らず号泣したという。

「……一蔵さあ」

 進が部屋に入ると、大久保は西郷から届いていた昔の手紙を握りしめ、机に伏して身をよじらせていた。

「……吉之助さあ……わしを残して、なぜ逝ってしまったのだ……。わしと命を懸けて創ったこの国を……なぜお前自身が見届けてくれんのだ……!」

 冷徹な「魔王」として恐れられた男の、血を吐くような悲痛な叫び。

 西郷という太陽を失ったことで、大久保利通の心もまた、完全に死んだのだ。

「進……。わしの仕事も、もうじき終わる」

 涙を拭い、立ち上がった大久保の顔には、もはや生者としての光は宿っていなかった。

 自分を待ち受ける「死の影」をはっきりと見据えた男の、悲壮な諦念だけが漂っていたのだった——。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。