恋愛は厄介事だらけ
「つまり、お前が俺と先輩をくっつけようとしていたのは、あいつ……霖岚青泽に先輩を諦めさせるためだったのか?」
「うん……ごめんなさい」
「そんなことで謝らなくていいよ。それに、お前のおかげで俺は先輩と仲直りできたんだろ?」
「じゃあ、先輩はどうして怒っていたと思いますか……」
許諾が小さな声で何かをつぶやいた。
よく聞き取れなかったが、今はそれを気にしている余裕もなかった。
「一つだけ聞きたい。お前がこの部活……俺の部活に入った理由は何だ?」
「えっ? どういう意味ですか?」
許諾はおずおずと尋ねた。
「先輩……いえ、部長。怒ってるんですか?」
「こんなことで怒るわけないだろ! それに、職場で使うような敬語はやめてくれ。慣れないからな」
俺はすぐに否定した。
「ただ、お前が遊び部に入った理由が、自分の恋愛のためだけだったのなら、実はもうその問題もほとんど解決したんじゃないかと思ってな」
「えっ? どういうことですか?」
「お前はオウムか何かなのか? とにかく、霖岚青泽と先輩のことは心配しなくていい。そう信じてくれればいいんだ」
「じゃあ、先輩は私に退部しろって言わないんですか?」
「いったいどんな奴が、そんな理由でお前を退部させるんだよ。ちょうど妹が家にいるせいで犬を飼えないし、部室で一匹飼うのも悪くないな」
許諾は歯をぎりぎりと食いしばった。
指先からは鋭い爪でも生えてきそうな勢いで、彼女は俺を睨みつけながら唸った。
「噛みつきますよ」
「いいぞ。お前さえ嫌じゃなければな」
「……やっぱりやめておきます」
「はぁ、傷つくなぁ。お前の言葉は」
「先輩にそんなことを言う資格なんてないと思いますけど……」
「おい。許諾、まだ帰ってなかったのか?」
どこかで聞いたことのある、初々しい少年の声がした。
「ああ、青泽か」
傍らでは、薄暗い光が暗闇の中に一人の男子生徒の輪郭を浮かび上がらせていた。
整った顔立ちで、体格はがっしりしているわけでも、痩せているわけでもない。背中にはサッカーボールのキーホルダーがついたスクールバッグを背負っている。
どこか見覚えがある。俺は以前、彼に会ったことがあるはずだ。
「ごめん。話の邪魔をしちゃったかな」
「うっ……だ、大丈夫、大丈夫! 私たちも話し終わって、そろそろ帰ろうとしていたところだから」
その時の許諾は、いつもより数センチ背が低くなったように見えた。
それに比例するように、声の大きさまで何段階か小さくなっている。
その「ごめん」という一言を聞いて、俺はようやく思い出した。
彼こそ、あの日、ケーキ屋で出会った男子生徒だった。
その後、二人は少しばかり言葉を交わした。
会話の主導権は、ほとんど霖岚青泽が握っていた。
許諾は左右の手をそっと握り合わせ、時折、気まずそうに俺のほうへ視線を向けてくる。
おい、お前は先生に叱られた生徒か何かなのか?
「許諾」
霖岚青泽は、少し真剣な声で彼女の名前を呼んだ。
「えっ……? な、何?」
許諾は片足を内側に曲げ、ようやく我に返ったような様子だった。
「これからは、こういうことで部長に手間をかけなくていいよ。君の荷物も僕の荷物と一緒にしておけばいいんだから」
「えっ!? いいの?」
「僕たちは幼なじみだろ? 誕生日だって同じ日なんだ。これくらいのことなら、もちろん手伝えるよ」
「そ、そう……なんだ」
許諾は胸の内にある喜びを隠そうとしていた。
耳の縁もほんのり赤く染まっている。
それでも、彼女は俺のほうへ視線を向けた。
「それじゃあ、先輩。今日はありがとうございました」
「いいよ。俺ももう帰るところだし。妹もそろそろ心配してるだろうからな」
「あっ、それじゃあ、またね」
二人の声が重なった。
二人の会話は、それほど大きな声ではなかった。
というより、許諾はほとんど鼻にかかったような小さな声で話していた。
俺が二十歩かそこら歩いた頃には、もう二人の声は聞こえなくなっていた。
それに加えて、空は異様なほど暗かった。
わずかに光を反射する細い線を頼りに、二人の大まかな輪郭をどうにかつなぎ合わせられる程度だ。
まるで地獄のような難易度のジグソーパズルだった。
俺には二人の会話が聞こえない。
そして、二人にも俺の声は届かない。
そう考えた途端、俺はようやく肩の力を抜き、思わず口にしていた。
「まったく……両想いの恋愛っていいよな」
これまでの経験から考えても、霖岚青泽が許諾を見る時の表情は、どう見ても彼女に好意を抱いている人間のそれだった。
けれど、他人の恋愛に首を突っ込むのは面倒だし、誰かに恋愛を教えるとなれば、もっと面倒になる。
宋玥綺という前例があったからこそ、俺はようやくそのことを心の底から理解した。
そして、この二人はその中でも特に厄介な部類に入る。
つまり、いつか必ず、二人は相手の気持ちに気づくことになる。
ただ、それがいつになるかは分からない。
その日が来るまで、部外者が何をしたところで、基本的には良い方向には進まないのだ。
では、なぜ霖岚青泽は先輩を好きになったのだろうか?
もっと正確に言えば、なぜ霖岚青泽は先輩が好きだと周囲に示していたのだろうか?
答えは簡単だ。
許諾に危機感を抱かせるためだった。
まったく面倒な話だ。自殺行為にも等しい恋愛の駆け引きなんて、よくやるものだ。
もっとも、その効果はかなりあったようだけど。
「おい……郭……錫……」
突然、誰かが俺の名前を呼んだ。
俺は足を止めた。
頭の中を流れていた思考が、細い糸を断ち切られたように途切れる。
声を聞いただけで、誰なのかは分かった。
それでも、信じられない気持ちで振り返った。
「ああ、お前か。黎思妙」
厳密に言えば、俺に振られた元カノが、たった数メートル先に一人ぼっちで立っていた。
「何か用か? 俺に何か話でもあるのか?」
許諾が着ていた学校指定の体操服とは違い、黎思妙の服装からは、夜の暗がりの中でもはっきりと高級感が漂っていた。
瞳には落ち着かない光が揺れている。
髪は相変わらず金色で、普段あまり見かけないポニーテールに結ばれていた。
「あっ! その……」
彼女は言いかけて、口をつぐんだ。
内股気味に立つ姿勢と、どこか曖昧な表情から察するに、どうやら恥ずかしさを感じているらしい。
「ま、まだ怒ってる? あの時のこと……」
「何のことだ……ああ、分かった。もう怒ってないよ」
俺は正直に答えた。
「あのことを俺が恨んでいると思っているなら、とっくに水に流している。それより、あいつは……一緒じゃないのか?」
「うん……。最近、河川は……彼はずっと用事があるみたいで」
黎思妙は目を見開いて俺を見つめた。
「本当に、ごめんなさい」
彼女の声は大きくなかったが、少しかすれていた。
俺が何も反応しないのを見て、謝罪が足りないと思ったのだろうか。
彼女はさらに深く頭を下げた。
その拍子に、もともと緩んでいたヘアゴムが外れ、ポニーテールがほどけた。
金色の髪が四方に広がり、その一部は額に垂れ下がって、彼女の目をすっかり覆い隠してしまった。
「ごめんなさい!」
さっきよりもさらに小さな声だった。
それなのに、彼女の体は壊れかけた機械のように震えていた。
俺も少し驚き、しばらくその場で固まってしまった。
「おい、どうしたんだよ。まるで俺がお前をいじめているみたいじゃないか」
俺はバネのように慌ててしゃがみ込み、落ちたヘアゴムを拾い上げた。
そして勢いよく立ち上がると、片手で彼女の体を支え、きらきらと光るヘアゴムをその華奢な手に押し込んだ。
「もう謝らなくていいよ。俺だって理解してるから……うん、ちゃんと分かってる」
俺は慌てふためきながら彼女を慰めた。
その様子は、先輩に謝った時よりもずっと落ち着きがなかった。
背中には瞬く間に汗が広がっていく。
まるで深い水の中に落ちてしまったかのように、肌にまとわりつく不快な感覚だった。
「というより、今回のことよりも、六月二十七日の昼休みに、お前が弁当箱の上にプラスチック製の蛇のおもちゃを隠したことについて謝ってほしいくらいだ」
思い返せば、あの日は俺の高校生活でも最悪の一日だった。
あの時の情けない顔を撮った写真を消してもらうために、俺は何日も彼女に頼み込み、何本もの飲み物まで買わされた。
それでも彼女は、にやにや笑いながら、ゆっくりと何度も写真を見返した末に、ようやく削除してくれたのだ。
「あのこと? えっと……私、謝らなかったっけ?」
彼女はヘアゴムを結ばないまま、首のあたりを指で掻いた。
「ふふっ。じゃあ……ごめん?」
彼女はまた、こっそり笑ったようだった。
いや、絶対に笑っただろ!
「分かった。許してやる。じゃあ、せっかくだし……もう別れたんだから、あれを返してやろうか? あの蛇」
「それは遠慮しておくわ」
黎思妙はヘアゴムをポケットにしまい、さらに小さな声で尋ねた。
「それで……私のこと、許してくれたの?」
彼女はほっと息をついた。
だったら、答えはもう分かっているんだから、わざわざ聞かなくてもいいだろ……。
「ああ、そうだよ。じゃあ、これを別れの餞別にでもしてくれ」
俺はズボンのポケットから、小さな木箱を取り出した。
それにしても、どうして俺のポケットにはいつも変なものが入っているんだろう。
やっぱり、あまり良くない習慣なのかもしれない……。
「前からお前に渡そうと思っていたんだ。今日はちょうど機会があったからな」
「えっ?」
彼女は俺と木箱を交互に見た。
けれど、両手は動かない。
どうやら受け取るかどうか迷っているらしい。
「安心しろ。ただのちょっとした物だ。あいつが見ても怒らないようなものだから」
俺は左右を見回しながら、ゆっくりと彼女に近づいた。
身長差は数センチほどしかないが、俺は少しだけ顔を下げた。
「うっ!」
彼女は小さく声を上げた。
顔は真っ赤になっている。
彼女の呼吸と、空気の流れに混じった甘い香りが、俺の頭をくらくらさせた。
俺は、さっきヘアゴムを押し込んだ時よりも強い力で、木箱を彼女に押しつけた。
そして、彼女が箱を開ける前に、振り返ることもなく走り去った。
背後から、木箱を開けるカチャカチャという音が聞こえてくる。
「ああああっ!!!」
彼女の悲鳴が響き渡った。
その声はとても大きく、グラウンドの半分ほどにまで届きそうだった。
どうしてだろう?
それはもちろん、俺が木箱の中にプラスチック製の蛇のおもちゃを入れておいたからだ。
俺は少し走ったところで足を緩め、軽く息を切らしていた。
近くには、学校の小さな池がある。
全体の形はアルファベットの「M」のようで、大きさはそれほどでもない。俺の部屋と同じくらいだろうか。
金色や赤金色、紅白模様の小魚たちが楽しそうに泳ぎ、ときおり水しぶきを上げていた。
俺はただ、その様子を眺めていた。
水面には遠くの明かりがいくつも反射し、ひときわ明るく輝いている。
木々の影は、まるで絡み合った水藻のように、水面に散らばっていた。
俺は自分の姿を水面に映して見ることができなかった。
そこには、もしかすると自分の表情が映ってしまうかもしれないからだ。
醜く歪んだ自分の顔なんて、見たくもなかった。
「まったく……恋愛って、本当に面倒だな」
今日は少し疲れ気味ですが、なんとか1話更新しました!
予定どおりなら、明日ももう1話更新するつもりです。
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