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恋する笑顔は誰のもの?

翌日、俺はいつもより三十分も早く学校に着いた。

妹でさえ、日に日に目の下にクマができていく目をこすりながら、弱々しい声で俺に尋ねてきたほどだ。

「お兄ちゃん、何かやましいことでもしたの?」

「そうかもしれないな」

俺は曖昧な返事だけをしておいた。もっとも、自分がいったい何をやらかしたのか、いまひとつ分かっていないのだが。

一方、隣では頭を左右に振りながら、ぴょんぴょんと跳ねるように歩いている後輩がいた。許諾だ。

彼女は俺に、何が何でも先輩に謝りに行けと強く言い聞かせていた。

「俺だって、このまま先輩と疎遠になりたいわけじゃない。でも、俺が一部始終を包み隠さず話したのに、あの人がどうして急に俺と仲違いしたのか、まだ分からないのか?」

今の俺は、清潔な制服に身を包んでいた。あちこちにあったシワも、許諾が丁寧に伸ばしてくれたおかげですっかりなくなっている。

「私みたいな部外者にだって、先輩がどうして怒らせたのか分かるのに。どうして先輩は、こんな簡単な乙女心すら理解できないんですか?」

許諾はまたも容赦なく俺を切り捨てた。

「はぁ……」

彼女は銀白色のヘアゴムで、まだ整えていない髪をひとまとめにした。

「とにかく、先輩。今日は先輩のために、いつもより三十分も早起きしたんですからね。昨夜だって、半日かけて謝罪の台本を書いたんですよ。それなのに、もし今さら逃げ出そうとしたら……先輩の脳内に秘密裏に仕掛けておいた爆弾を起動させますからね」

最後の脅しは聞かなかったことにした。

俺は目の前にある、字が乱雑で、あちこち歪んでいて、何度も書き直した跡のある謝罪文を眺めた。

すると、眠気をこらえながら机に向かい、あくびをしつつ頭を抱えて文章を修正している許諾の姿が、自然と脳裏に浮かんできた。

「ふっ……」

「何ですか? 気持ち悪い笑い方をして」

許諾は徐々に歩く速度を落とし、いつの間にか俺と並んで歩くのをやめ、後ろについてくるようになった。

「いや、何でもない。ただ、お前の声を聞いていると、なんだか安心するなって、ふと思っただけだ」

「うっ……そ、それは当然ですけど……。だ、だって、私の声はこんなにも綺麗なんですから……」

「そんなに照れなくてもいいだろ。冗談だよ」

「わ、分かってますよ! それに、別に照れてなんかいませんからね! 誰が先輩にそんな誤解されるようなことをするんですか! 陳先輩以外は!」

「……そういう話にまで、わざわざ他人を巻き込まなくてもいいだろ」

俺はゆっくりと足を止め、振り返って許諾に向き直った。

「手を出してみろ」

「今度は何ですか?」

許諾は俺を睨みつけた。

「もし手をつなごうっていうなら、先輩は三秒も生きていられませんよ」

「誰がお前と手をつなぐんだよ。嫌なら別にいいけど」

俺はすぐに前を向き直した。

しかし、小さな手が俺の制服の裾をぎゅっとつかんだ。

「だ、誰が嫌だなんて言いましたか! どうせなら、先輩を始末する理由が一つ増えるのも悪くありませんし……。その三秒は、せめてもの情けということで、首を落とされる前の最後の食事だと思ってください!」

許諾は俯いたまま、ゆっくりと俺の前へ回り込んできた。そして、震える手をおずおずと差し出した。

「……早く済ませてください。先輩に見られたら困りますから」

彼女は顔をそむけていた。

その姿はまさに、飼い主にお手をするよう言われ、しっぽを振りながら待っている子犬そのものだった。

俺は片手を握りこぶしにして、ゆっくりと彼女の差し出した手の上へ移動させた。

「パサッ」

小さな袋に入ったコーヒーキャンディーが、俺の手から落ち、ちょうど許諾の手のひらに収まった。

「お疲れ。眠いなら、一つ食べて少し目を覚ますといい」

許諾は信じられないといった様子で振り返り、手をぎゅっと握りしめると、小さな声で「ありがとう」とつぶやいた。

「ああ、それと、食べる時は気をつけろよ。犬はこういうものを食べると、中毒を起こしやすいからな」

「はあ!?」

許諾は大声を上げた。

「決めました! 先輩は三秒どころか、一秒も生きていられな……い……」

けれど、なぜか彼女の声はだんだん小さくなっていき、最後の一文字に至っては、喉から漏れる息のような音にしかならなかった。

「……あなたたち、何をしているの?」

聞き覚えがあるのに、しばらく耳にしていなかった、あの淡々とした冷たい声。

俺は呆然とした。

まるで、静まり返った雪原の真ん中に放り出されたかのように、全身が凍りついてしまった。

「……先輩」

俺は何とか我に返り、先輩のどこか寂しげな瞳をまっすぐに見つめた。

「今日は、先輩にどうしても伝えたいことがあります。俺たちの関係に関わる、大事な話です」

「えっ? 何の話?」

先輩は目を見開いた。その瞳は、再び深い紫色を取り戻していた。

「謝りたいんです」

そう言い終えると、俺は謝罪文をポケットにしまった。

紙に書かれた文章を読み上げるつもりはなかった。

代わりに、最近の自分が先輩に対して無関心を装い、意図的に距離を置いていたこと。その時に何を考え、どんな気持ちでいたのか。自分の言葉で、包み隠さず伝えた。

背後では許諾が俺の制服の裾をそっと引っ張っている。

先輩は俺の前に立ち、黙って話を聞いていた。

「たぶん、思……いや、黎のことがあってからだと思います。俺は他人の恋愛に関わるのを避けるようになりました。先輩に対しても、わざと距離を置いたり、責任から逃げたりして……」

俺は一度言葉を切り、先輩の顔を見た。

「でも、俺たちは最初から友達だったじゃないですか。俺は、俺たちがお互いに見知らぬ他人みたいになってしまうのは嫌なんです。だから、もし何か誤解があるなら、今日ここで解きたいと思っています」

「そうですよ、そうですよ!」

許諾も横から話に加わった。

「誤解があるなら、早めに解決したほうがいいですからね!」

彼女は先輩の手を取ると、そのまま廊下の突き当たりへと連れていった。

歩きながら俺を指差し、こう言った。

「先輩は、学長の気持ちを全然理解していません。でも、私なら分かります! 私が先輩に説明してあげますから!」

先輩は少し頬を赤らめ、「う、うん」と返事をしていた。

その間も、時折こちらに視線を向けてくる。

今日は曇り空だった。

雨が降りそうな湿気もなければ、肌を焼くような暑い日差しもない。秋という季節には、こういう天気がとりわけ心地よく感じられる。

窓の外では、ぽつぽつと立つ数本のカエデが、黄色から淡い緑、そして薄紅色へと葉の色を変えていた。

地面に落ちた葉のいくつかは、土埃をまとっている。

その様子はまるで、夕日の下で半分溶けかけた氷の塊のようだった。

遠くでは、許諾と先輩が楽しそうに話し込んでいた。

自尊心が邪魔をして認めたくはないが、おそらく二人は俺の悪口で盛り上がっているのだろう。

まるで裁判官の判決を待つ被告人になったような気分だった。

それでも幸いなことに、俺に下された判決は、どうやらそれほど厳しいものではなかったらしい。

先輩は以前と変わらない様子で教室へ戻っていった。

一方の許諾は、俺に恨めしそうな視線を向けながら、冷や汗をかいた手で「OK」のサインを作ってみせた。

俺は慌てず騒がず、ゆっくりと彼女のもとへ歩いていった。

すると、許諾も小走りでこちらへやってきた。

俺は彼女にティッシュを一枚差し出し、ついでに礼を言った。

「ありがとう」

「こんなことでお礼なんていいですよ。お弁当のお返しだと思ってください。それに、私だって自分のためにやったんですから」

「そうか。それで、二人で何を話してたんだ?」

俺は恐る恐る尋ねた。

「教えませーん」

許諾はへらへらと笑いながら答えた。

「それより先輩。さっき言ってた『他人の恋愛に関わりたくない』って、どういう意味ですか? まるで先輩に恋人ができたみたいな言い方じゃないですか」

「うっ……」

【まずい! さっき先輩に謝っている時、つい本音を口にしてしまった。田先生のことも、少しだけ話してしまった気がする……】

「あ、いや……悪かった。実は前から、あの霖岚青泽が先輩にアプローチしているって噂を聞いていたんだ。あいつが優秀で、もし本当にうまくいったら、俺は距離を置いたほうがいいと思って……」

仕方なく、俺はまた許諾に嘘をついた。

これで何度目だろう。

ところが、許諾の反応は予想以上に激しかった。

「ダメです! 先輩、絶対に自信を持ってください! 先輩のほうが、あいつよりずっと陳先輩にふさわしいんですから! 頑張ってください!」

もし俺が渡したコーヒーキャンディーに、カフェインが一〇〇〇パーセントも含まれていたとしたら、ようやくこの目の覚め方にも納得できるかもしれない。

それに、そもそも陳先輩の隣には、あいつよりもずっと彼女にふさわしい人間が、もういるんじゃないだろうか。

「キーンコーンカーンコーン」

いつもより三十分も早起きしたというのに、時間は流水のようにあっという間に過ぎ去り、授業開始の時刻がすぐそこまで迫っていた。

「あっ! もうこんな時間ですね! 先輩、自信を持ってくださいね! それじゃあ、また!」

許諾は銀白色の髪を揺らしながら、勢いよく走り去っていった。

ほどなくして、その姿は視界から消えた。

「はは……またな」

俺は何気なくそうつぶやいた。

おそらく、彼女の耳には届いていなかっただろう。


夜七時が近づいていた。

冬が近づくにつれ、昼間の時間はどんどん短くなっていく。

今では空もすでに薄暗くなり、まるで巨大なカラスが羽を広げて、空一面を覆い尽くしているかのようだった。

俺は、約束していたグラウンドの場所へやってきた。

しばらくすると、更衣室のほうから、体操服に短パンを合わせ、銀白色のヘアゴムで髪をポニーテールに結んだ許諾が、小走りでやってきた。

いかにも運動部の少女といった格好だった。

彼女は手に持っていたスクールバッグを俺に差し出した。

「ありがとうございます、先輩!」

許諾は爽やかな笑顔を見せた。

「あっ、忘れてた!」

彼女は再びバッグのファスナーを開け、中からバトンを取り出した。

それから満面の笑みを浮かべたまま、人だかりのほうへと駆けていった。

俺は適当な場所を見つけて腰を下ろし、活気に満ちた人々が汗を流しながら練習している様子を、ぼんやりと眺めていた。

時間は少しずつ過ぎていった。

周囲にそびえ立つ高層ビルには、黄色い明かりが灯り始め、淡い月明かりをすっかり覆い隠してしまった。

人影もほとんどなくなっていたが、許諾はまだ必死に練習を続けていた。

もっとも、暗くなった今では、彼女がどこにいるのかさえ、俺にはよく分からなかった。

「バサッ」

夜の暗さに加え、友達とのおしゃべりに夢中になっていた女子生徒が、うっかり許諾のスクールバッグにぶつかってしまった。

その拍子にバッグが落ち、中に入っていた本や書類が地面に散らばった。

「!!! ごめんなさい!!!」

「大丈夫、大丈夫」

俺は落ちた紙を拾い集めた。

紙に書かれた文字は、暗闇のせいでぼんやりとしか見えない。

俺は一枚ずつ、表面についた埃を払い落としていった。

その時、ふいに光が差し込んできた。

次の一枚を拾おうとした瞬間、その紙だけが、まるで突然光を放ったかのように浮かび上がって見えた。

いや、それはただの紙ではなかった。

入部届を書いた時よりもずっと繊細で美しい文字が並び、周囲はピンク色で縁取られている。右上には、ハート型のピンが留められていた。

それは、手紙だった。

もっと正確に言うなら、ラブレターだ。

差出人は許諾。

まだ渡されていないものらしい。

「先輩、何してるんですか? あっ、バッグの中身が散らばっちゃったんですか? ああ、私のせいですね。ちゃんとファスナーを閉めておかなかったから……」

「……ああ」

「ちょっと、どうしてそんなに深刻そうな顔をしてるんですか?」

許諾は不思議そうに首を傾げた。

「あっ!」

彼女は、俺の手にあるものに気づいたのだろう。

その顔は、見る見るうちに真っ赤に染まっていった。

「……見ました?」

「……ああ」

俺はもう一度、短く答えた。

「ごめんなさい……」

「謝らなくていいよ。少なくとも、最初からこうなるつもりだったわけじゃないんだろ?」

「そ、それはそうですけど……。でも、私、本当に好きで……あっ!」

緊張しすぎたのか、許諾は舌を噛んでしまった。

「……わ、私……霖岚青泽が好きなんです。彼は私の幼なじみで、ずっと前から好きだったんです!」

そう。

手紙の宛先は、あの人物だった。

霖岚青泽。

噂では、陳先輩に好意を寄せているという、あの一年生だった。

気に入っていただけたら、ぜひ応援よろしくお願いします!

いつもありがとうございます!

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